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 日本の原典〜古事記物語〜第68号2004年12月13日発行
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 <第68話 ハヤブサワケとメドリの悲恋>

 「ハヤブサワケノミコ(速総別王)よ、お前が仲立ちとして、異母妹のメドリ
  ノミコ(女鳥王)を嫁にもらってきてくれぬか?」

 「…かしこまりました」

 あるとき仁徳天皇は、弟のハヤブサワケに異母妹であるメドリとの婚儀の使者
 を命じた。

 「メドリよ、兄上がそなたをご所望だ。一緒に来てもらおう」

 「兄上様、それはいやでございます」

 「…なぜだ?」

 「兄上様は、大后様の気性の激しさをなんとも思わないのですか? ヤタノワ
  キイツラメがどうなったのかご存知ないのですか?」

 「…」

 「だから、私は天皇にはお仕えしたくはありません」

 「しかし…」

 「私は兄上様と結婚しとうございます」

 「!?」

 「ダメでしょうか…」

 「…わかった。お前を幸せにすることを誓おう」

 こうして、ハヤブサワケは天皇のもとに復命せず、メドリと結婚した。

 「ハヤブサワケはどうしたのだ? まだ戻らぬのか?」

 使いに出したハヤブサワケが一向に帰ってこないので、しびれをきらした仁徳
 天皇は自らメドリの元に赴いた。

 そのときメドリは機(はた)に腰をかけ、衣服を織っていた。

 「今、あなたが織っているのは誰の衣服なのでしょう」

 「いとしいハヤブサワケのです」

 (…そうであったのか)

 仁徳天皇はメドリの気持ちが分かったで、そのまま宮中に帰った。

 「天皇はお帰りになりました」

 「…そうか」

 「どうしたのですか、あなた?」

 「本当にこれでよかったのだろうか」

 天皇の命令を無視してしまったハヤブサワケは少し後悔の念が残っていた。

 「何を悩んでいるのですか。あなたは皇位も狙えるお立場のはず。いっそのこ
  と天皇を殺して、あなたが王位につかれたらいいのではないですか」

 「なんということをいうのだ!? このことが天皇の耳に入ったらわしらはきっ
  と殺されるぞ」

 「ひばりは空を翔けあがります。あなたもそのように空を翔けあがるハヤブサ
  の名をもった男です。あのサザキの名を持つオホサザキノミコト(仁徳天皇)
  を取り殺してしまうのです」

 「…分かった」

 こうして天皇を殺す計画をたてた二人であったが、その企みはすぐに露見し、
 怒った天皇は軍勢を二人のもとに派遣した。

 「メドリよ、すぐに逃げるのだ」

 危険を察知したハヤブサワケはすぐさまメドリとともに倉椅山(くらはしやま)
 に登った。

 ハァハァハァ

 「さぁ、この手につかまって」

 「はい、あなた」

 あたりは険しく、岩ばかりでつかむところがない中、ハヤブサワケはやさしく
 妻の手を引いて山を登っていた。

 フゥフゥフゥ

 「メドリよ、大丈夫か?」

 「はい、大丈夫です」

 「ふぅ、険しい山ではあるが、お前と一緒だと思うと険しいとは感じないもの
  だな」

 「…あなた」

 「いたぞ! あっちだ!」

 しかし、ついに天皇の追っ手に見つかってしまった。

 「最早これまで。頼りない夫ですまなかったね」

 「いえ、私にとっては最高の夫でした」

 こうして、二人は宇陀の曾爾(そに)という場所で殺されてしまった。

 <参考文献>
 講談社学術文庫:古事記(上)全訳注(次田真幸) 

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