===================================
日本の原典〜古事記物語〜第69号2004年12月20日発行
===================================
<第69話 ハヤブサワケとメドリの悲恋2>
「こちらでございます」
「ふん、バカな男だ」
天皇より追討将軍に任命されたヤマベノオホタテノムラジ(山辺大楯連)は、
二人が殺された場所にむかった。
「天皇に歯向かうからこんなことになるのだ」
殺された二人はしっかりと手を握っていた。
「死後の世界も結ばれようとしてか。全くこんな男が主君だったとはな!」
元主人に対して何の感慨も持たないヤマベノオオタテはメドリノミコの手に注
目した。
「おや? メドリノミコの手に光るのは?」
それは玉で作った見事な腕輪だった。
「これはすごい! さすが皇族の装身具だ」
そういうと誰も見ていないことをいいことに、メドリノミコの死体から腕輪を
抜き取った。
「妻へのいい土産ができたな」
それから月日が流れ、あるとき宮中で酒宴が開かれることになり、各氏族の女
たちがみな参内した。
「それでは行って参ります」
「あぁ、大后様によろしくな」
このときヤマベノオオタテの妻は、夫からもらった玉の腕輪を巻いてでかけた。
「今日は皆よく来てくれた。いつも家のことをよくおさめてくれているそなた
たちの労をねぎらいたいと思います」
そういうと皇后のイハノヒメは自ら大御酒(おおみき)を盛った杯の柏の葉を
取り、各氏族の女たちに与えた。
(おや? あの玉の腕輪は?)
メドリノミコの腕輪を知っている皇后は、オホタテノムラジの妻がその腕輪を
しているのを怪訝に思った。
「あなたにはこの柏はあげることはできません。すぐに退席するように」
なぜ、皇后が自分に退席を命じたのか事情が分からずにとまどうオホタテノム
ラジの妻を尻目に、皇后はすぐさまその夫、オホタテノムラジを呼び出した。
「オホタテノムラジ、ただ今参りました」
「…」
「???」
皇后が何の理由で自分を呼んだか分からないオホタテノムラジは、黙って立っ
ている皇后に恐れを抱いた。
(…まさか!?)
「メドリノミコたちは天皇に対して不敬の念を持ったから退けられた。それは
疑うまでもない」
「!?」
突然、皇后の口からメドリノミコの名が出たので、言葉が出ないオホタテノム
ラジ。
「しかし、お前は自分の主君の手に巻いてあった玉の腕輪を、まだ肌にぬくも
りがあるうちにはぎ取ってきて、それを妻に与えるとはどういうことです!」
(なぜ、ばれたのだ!?)
「その罪を許すことはできません。この者をすぐに死刑にいたしなさい」
こうして、オホタテノムラジは死をもってその罪をつぐなうことになった。
<参考文献>
講談社学術文庫:古事記(上)全訳注(次田真幸)