<第70話 スミノエノナカツミコの反逆>
「はははははっ」
「今日は新嘗祭だ。皆も大いに飲むがいい」
履中天皇が難波宮にいるときに、新嘗祭をし、酒宴を開いていた。
「ふぅ、少し飲みすぎたな。ちょっと休むとしよう」
……zzzzz
「天皇は寝たか?」
「はい、今眠そうな顔をして奥に入られました」
「よし、今しかないな。手はずは整っているか?」
「すでに用意できております」
「これで今日から俺が天皇だ」
彼の名はスミノエノナカツミコ(墨江中王)。
履中天皇の弟である。
パチパチパチパチ…
「なんだか、焦げ臭いな…」
いち早く御殿の異変に気付いたアチノアタイ(阿知値)は、辺りを見渡す。
「あっ! 火が! これはいけない早く天皇を逃がさないと」
しかし、天皇は完全に酔いつぶれ意識を失っていた。
「こうなったら、仕方ない。このまま馬にお乗せしてお連れするしかない」
こうして、意識を失ってままの天皇を馬に乗せ、大和国まで無事逃げおおせた。
「う、ううん」
「お目覚めになられましたか?」
「ふぁぁぁぁ、うん? お前はアチノアタイではないか。おや? ここはどこ
だ? わしは御殿で酒を飲んで休んでいたはずだが?」
「ここは河内の丹比野でございます。御殿は弟君、スミノエノナカツミコが火
をつけ燃やしてしまいました」
「何だと」
「そこで、眠っていらっしゃった天皇をここまでお連れしたというわけでござ
います」
「…そうか」
「申し訳ございませんが、今宵は野営させていただきます」
「ふぅ、丹比野に来るのがわかっていたら、風除けにたてる薦(こも)でもも
ってくるのだったな…」
「急のことゆえ気がつかず申し訳ございません」
「いや、いい。よくぞ救い出してくれた」
さらに歩みを進め、河内の埴生坂に着いたときに難波宮が遠くに見えた。
「まだ、白煙を上げているな。あぁ、妻や家族の者は大丈夫だろうか?」
「すぐに確認に行かせたいと思います」
「うむ、頼む」
大坂の山口に着いたときに一人の少女に出会った。
「今からこの山を越えようとされていますか?」
「あぁ、この山を越えれば大和へはすぐだからな」
「それはなりません。この山には武器をもった人がたくさんいました」
「では、どうしたらいいのだ?」
「当芸麻道(たぎまじ)を行かれる方がよろしいかと思います」
「それでは遠回りになってしまうが、仕方ない」
こうして、履中天皇は大和に戻り、石上神宮に居を構えた。
<参考文献>
講談社学術文庫:古事記(上)全訳注(次田真幸)