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日本の原典〜古事記物語〜第72号2005年1月24日発行
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<第72話 ミヅハワケの策謀>
「スミノエナカツミコを殺して参りました」
「うむ、でかした」
「これで私は大臣になれるのですね」
「あぁ、もちろんだ」
ソバカリのお陰でスミノエナカツミコを殺すことができたミヅハワケだったが、
その表情は暗かった。
「ソバカリは私のために大きな仕事をしてくれたが、自分の主君を殺してしま
った。これは許されないことだ」
ソバカリを引き連れヤマトに向かっていたミヅハワケは大坂の山の入り口で悩
んでいた。
「とはいえ、その功績に報わないのは信義に反するだろう。約束を守らなけれ
ばソバカリの怒りが恐ろしい」
天皇に会う前にこの問題を解決しなければならない。
しばし悩んだ後、ある結論に達した。
「そうだ、その功績に応え、ソバカリを大臣にしてやろう。そして、そのすぐ
後に殺してしまえばいい。そうすれば約束は果たしたことになる」
こうして、ソバカリを殺すことを決断したミヅハワケは、ソバカリを呼んだ。
「お呼びでしょうか?」
「うむ、こたびのそなたの功績に早く応えるため、今日はここ大坂に留まり、
まずそなたに大臣の位を与え、その後ヤマトに向かおう」
「ほ、本当ですか! ありがとうございます!」
こうして、すぐに仮宮を造り、急遽酒宴を催した。
「今日からこのソバカリを大臣に任命する」
「ははっ、このソバカリ大臣の名に恥じぬ仕事をいたします」
(これで今日から俺も大臣だ。願いがかなったぞ!)
百官に大臣に対する拝礼をしてもらいすっかり満足しているソバカリ。
(これで約束は果たした)
「ソバカリよ、今日は大臣であるそなたと同じ酒を飲もうではないか。これ大
椀を持て」
さっそく大きな椀が運ばれた。
それは顔を隠すほどの大きな椀だった。
「まずは私からいただこう」
そういうとミヅハワケは自ら大きな椀の酒を飲み干した。
「では、大臣どうぞ」
「ありがとうございます」
ソバカリが酒を飲もうとすると、椀が顔をすっぽりおおい、周りが全く見えな
くなった。
(よし、いまだっ!)
ソバカリが見えないことを確認したミヅハワケは、席の下に隠していた剣を取
り出した。
バシュッ
一太刀でソバカリの首をはねて殺してしまった。
「ふぅ、仕方ないこととはいえこの身がケガレてしまったな。ミソギをしてか
らヤマトに向かおう」
ミソギをすませた後、ミヅハワケは天皇のいる石上神宮に向かい、天皇に会う
ことができた。
「無事、スミノエナカツミコを征伐し、平定して参りました」
「うむ、ご苦労」
こうして、天皇とミヅハワケはお互いこれからのことを語り合った。
天皇を救ったアチノアタイには蔵官に任命し、土地を与えた。
<参考文献>
講談社学術文庫:古事記(上)全訳注(次田真幸)