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日本の原典〜古事記物語〜第73号2005年2月1日発行
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<第73話 禁断の愛〜カルノミコの嫌疑〜>
「もうお前を放さない」
「…もう終わりにしましょう。お兄様は天皇になられるお方。このような人の
道に外れた行為は決して許されません」
「何をいうか。私は本当にお前を愛しているのだぞ」
「…その想いは私も同じです。私もお兄様を心より愛しています。しかし…」
「もう何もいうな。私はお前と一緒になれるのだったら天皇の地位など捨てて
も構わない」
「…お兄様」
允恭天皇の皇太子、カルノヒツギノミコ(軽太子)は皇太子の地位にありなが
らも、その同母妹であるカルノオホイツラメ(軽大郎女)を愛し、密通してい
た。
「申し上げます!」
「何だ、後にしろ」
「允恭天皇が崩御なさいました」
「何! 父上が! すぐに参る」
「お兄様!」
「しっ! お前はすぐに部屋に戻るがいい。私はこのまま朝廷に行かねばなる
まい」
允恭天皇が崩御し、官吏たちはすでに朝廷に集まっていた。
「おい、聞いたか? 皇太子であるカルノミコは実の妹と密通しているらしい
ぞ」
「何!? それは本当か?」
「あぁ、俺の妹がカルノオホイツラメ様にお仕えしているのだが、カルノオホ
イツラメ様がカルノミコ様の寝室に行かれるのを見たと申すのだ」
「まさか、実の兄と妹で…」
「わしもその話を聞いたときは耳を疑ったぞ」
「カルノミコ様は皇太子だぞ。それがこのような人の道に外れるようなことを
…」
「允恭天皇が崩御された今、カルノミコ様が次の天皇になる訳だが…」
「…本当にそれでいいのだろうか?」
「あぁ、允恭天皇のもう一人のお子様であるアナホノミコ様(穴穂御子)が天
皇の位を継いだほうがいいのではないか…」
「おい、カルノミコ様がこられたぞ」
朝廷に急ぎやってきたカルノミコは、官吏たちの様子がおかしいことにすぐに
気付いた。
今まで皇太子であった自分に対する敬意が失われて、目を合わせてもそらすも
のが大勢いた。
(なぜ、官吏たちは皇太子である私によそよそしい態度を取るのだ?)
そこへ、アナホノミコがやってきた。
すると、官吏たちはみなアナホノミコに対して皇太子としての礼をした。
(もしや、カルノオホイツラメとのことがばれたのか!?)
自分に対する態度とアナホノミコに対する態度からことが露見したことをさと
ったカルノミコは慌てた。
(このままでは、私の身が危ない!)
そう思ったカルノミコはすぐに朝廷から逃げ出し、オホマヘヲマヘノスクネノ
オオオミ(大前小前宿禰の大臣)の家に逃げ込んだ。
そして、アナホノノミコはすぐさま軍勢を率い、オホマヘヲマヘの家を囲んだ。
<参考文献>
講談社学術文庫:古事記(上)全訳注(次田真幸)