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日本の原典〜古事記物語〜第74号2005年2月14日発行
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<第74話 禁断の愛2〜許されぬ恋の結末〜>
ポッポッポッポッ
アナホノミコがオホマヘヲマエの門前にやってきたときに激しい氷雨(ひさめ)
が降って来た。
(このまま一気に攻め込むか?)
「アナホノミコ様、オホマヘヲマヘが舞を舞いながらこちらにやってきており
ます」
「うむ、警戒を怠るな」
今後の方針を決めていたアナホノミコの前にオホマヘヲマヘが手を挙げ、膝を
打ち、舞を舞いながらやってきた。
「天皇であらせられる皇子に申し上げます」
「何だ」
「カルノミコはあなたの同母兄。その同母兄に対して兵を差し向けないでくだ
さい」
「それはできない」
「もし、兵を遣わすことが世間に知れればきっと笑われることでしょう」
「ではどうすればいいのだ」
「私がカルノミコを捕らえお引渡しいたします」
「うむ、頼んだぞ」
そこで、アナホノミコは兵の囲みを解いて後方に下がった。
そして、オホマヘヲマヘはカルノミコを捕らえ、アナホノミコに差し出した。
「あれは…」
オホマヘヲマヘに捕らえられてアナホノミコの前に連れ出されるカルノミコの
目に涙を流すカルノオオイツラメの姿が写った。
そんなカルノオオイツラメのそばに駆け寄りそっと小声でささやいた。
「軽の少女よ、お前がそんなに泣いたら私との仲を他の者が知ってしまうだろ
う? だから鳩のように忍び泣いておくれ」
その言葉を聞いたカルノオオイツラメは小さくうなずきカルノミコの顔を見つ
め泣くのをやめた。
捕らえられたカルノミコは伊予の湯(道後温泉)に流された。
「カルノミコ様からこの手紙を託されました」
「お兄様から?」
その手紙には、鶴を使者にするから私の名を言って、私のことを尋ねてくれと
書いてあり、必ず戻ってくるからそれまでは私のいた畳は決して汚さないよう
に、身を慎むようにと書いてあった。
「…お兄様」
その手紙を読んだカルノオオイツラメはすぐさま返事を書き、その日から空を
眺めることが多くなった。
「妹様からの便りでございます」
「そうか! すぐに寄こせ」
その手紙には戻ってくる際に白浜の貝殻に足を傷つけないようにお気をつけて
くださいと書いてあり、愛する兄に会えない寂しさが書かれていた。
「…我が妻よ。愛しき君よ」
引き離されて想いが募るのはカルノミコだけではなく、カルノオオイツラメも
同じであった。
「…もう待つのは嫌。今すぐ会いに行きたい」
離れ離れになって月日が流れ、もう耐えられなくなったカルノオオイツラメは
ついに伊予にいるカルノミコに会いに行くことにした。
その知らせを聞いたカルノミコは大いに喜んだ。
「おい、すぐに山の峰に大きな旗を立てるのだ。小さな峰にも旗を立てるのだ。
妹がすぐに私のいる場所が分かるように!」
松山に流されてから寝ても覚めても妻である妹のことを想っていたカルノミコ。
カルノオオイツラメが松山の海岸に降り立つとすぐに抱きしめ放さなかった。
「いとしき妻よ。お前さえいたら私はもう何もいらない」
「…お兄様、私もです」
「妹よ、わが妻よ」
「…あなた」
現世では許されない二人の恋。
いつまでも抱き合う二人。
そして、カルノミコがカルノオオイツラメを見つめる。
うなずくカルノオオイツラメ。
来世を約束しあった二人はそのまま海に入り帰らぬ人となった。
<参考文献>
講談社学術文庫:古事記(上)全訳注(次田真幸)