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日本の原典〜古事記物語〜第78号2005年3月21日発行
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<第78話 悲劇の結末>
ザッ
オホハツセは矛を突き刺し杖にし、ツブラオミの家を伺った。
「もしや私が結婚の約束をした乙女はこの家ではないだろうな?」
その言葉を聞いたツブラオミはたった一人で屋敷から出てきた。
「あっ、ツブラオミがやってきました!」
「しかも、武器を身につけておりません」
するとツブラオミはそのままオホハツセの方を向き、八度も礼拝した。
「先日は我が娘を妻にしてくださる約束をしていただきありがとうございます。
もちろん、娘は嫁がせたいと思います」
そういうツブラオミの声は非常に穏やかだった。
「さらに、我が領土である5ヶ所の屯倉を合わせて献上いたします」
ツブラオミの言葉を黙って聞いているオホハツセ。
「しかし、娘の父である私があなた様に敵対するのは理由があるのです」
穏やかだったツブラオミの言葉に力がこもる。
「昔から今に至るまで臣下の者が皇族の宮殿に隠れることはあっても、皇子が
臣下の者の家に隠れた例はございません。これはとても名誉あることでござ
います。しかし、私のような賤しい者が全力を尽くして戦ってもあなた様に
はかないますまい」
ツブラオミの顔に悲痛さはなく、むしろその表情は非常にすがすがしかった。
「けれども、私を頼ってこの賤しい家に入ったマヨワノミコを私は決してお見
捨てになることはできません!」
そういうと、ツブラオミは再び武器をとり、家に帰って戦った。
しかし、多勢に無勢。
ついに力尽き矢もなくなってしまった。
「マヨワノミコ様、私はすっかり痛手を負い、矢もなくなってしまいました。
もう戦うことはできません。いかがいたしましょうか?」
「それならばいたしかたない。ここまでよく尽くしてくれた。もう私を殺して
欲しい」
「…、ごめん!」
こうして、ツブラオミは刀でミコを刺し殺し、そのまま返す刀で自らの首を斬
って死んでしまった。
<参考文献>
講談社学術文庫:古事記(上)全訳注(次田真幸)