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 日本の原典〜古事記物語〜第81号2005年4月25日発行
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 <第81話 アカヰコ>

 「おや、あの少女は?」

 あるとき雄略天皇は三輪川に遊びに行った際に、川のほとりで衣服を洗ってい
 た少女が目にとまった。

 「うーん、何とも美しい少女だ」

 その少女の容姿はたいそう美しかった。
 すぐさま天皇は少女に声をかけた。

 「お前は誰の子か?」

 「私はアカヰコ(赤猪子)と申します」

 「そうか。うん、お前は他の男のもとに嫁がないでおれ。今に宮中に召そう」

 「本当でございますか?」

 「あぁ、約束する」
 
 そういって天皇は朝倉宮に帰っていった。

 (いつになったらお迎えに来てくださるのだろう…)

 そう思い続けながら、アカヰコは天皇の言葉を信じ、誰が求婚してもその嫁に
 はならなかった。

 (…あれから80年もたってしまった。このままでは私の気持ちが…)

 結局80年たっても天皇はアカヰコを迎えに来なかった。
 そこで、アカヰコ自らたくさんの品を持って参内した。

 「アカヰコという年老いた老婆が多くの献上品を持って参内しておりますが
  …」

 「うーん、その名前に全く覚えがないなぁ」

 そうはいっても、会うことにした雄略天皇。

 「うん、お前はどこのおばあさんだい? わしに何か用か?」

 「私はあなたのお言葉をいただき、お召しをお待ち続けているうちに80年の
  月日が過ぎ去ってしまいました」

 突然の申し出に驚く天皇を尻目に語り続けるアカヰコ。

 「今は容姿もすっかり老いて、お召しに預かる望みも全くなくなってしまいま
  した。それでも、これまで天皇のお言葉を守ってきた私の志だけでも、一言
  お伝えしたく参内した次第でございます」

 「そうであったか。私はすっかり以前言ったことを忘れておった。それなのに
  お前は操を守り、私の言葉を待って、女としての盛りをむなしく過ごしてし
  まったのは、誠に気の毒である」

 (今からでも結婚いたそうか…。いや、もう手遅れだろう)

 アカヰコを気の毒に思った天皇はその場で結婚をしようと思ったが、アカヰコ
 自身がすでに年老いており、結婚ができないことを悲しみ歌を詠んだ。

 御諸の いつかしがもと かしがもと ゆゆしきかも かしはらをとめ

 (みもろの社の神聖な樫の木。その樫の木のように、神聖で近寄りがたいよ。
 三輪の橿原乙女は)

 引田の 若栗栖原 若くへに 率(ゐ)寝てましもの 老いにけるかも

 (引田の若い栗林。そのように若いときに、おまえと共寝すればよかったもの
  を、今はすっかり年老いてしまったよ)

 この歌をきいたアカヰコは涙を流し、着ている赤い摺り染めの衣の袖をぬらし
 てしまった。
 そして、そんな愛情こもった天皇の歌に返して、歌った歌は、

 御諸に つくや玉垣 つき余し 誰にかも依らん 神の宮人

 (みもろの社につきめぐらす立派な垣。その「つく」という言葉ではないが、
  神にいつき仕え過ごして、今は誰に頼りましょうか、神の宮にお仕えする宮
  人は)

 日下江の 入江の蓮 花蓮 身の盛り人 羨(とも)しきろかも

 (日下江の入江の蓮。美しく咲き誇っているその蓮の花。そのように若い盛り
  の人がうらやましいこと)

 そこで、天皇はその老女にたくさんの品物を賜って返してやった。

 <参考文献>
 講談社学術文庫:古事記(上)全訳注(次田真幸) 

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