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日本の原典〜古事記物語〜第84号2005年6月6日発行
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<第85話 遺骸の発見>
「父上…」
顕宗天皇が飛鳥宮で即位して8年がたった。
その間、亡き父親、イチノベノミコの遺骸を探し続けていた。
「どんな小さな情報でもよい、誰か父の亡くなった場所を知るものはいないの
か?」
一向に父の遺骸が分からない中で、落ち着かない日々が続く。
「申し上げます! イチノベノミコ様の遺骸について知っているという老婆が
現れました!」
「何! 誠か! すぐにここへ連れて来るのだ!」
それは近江国に住む卑しい老婆で、イチノベノミコの歯を持っていた。
「父上は三枝のような八重歯だったと聞いている。確かにこの歯は父上のもの
だ」
「私はイチノベノミコ様が殺された場所にたまたま居合わせました。そして、
御遺骸を埋めた場所もよく存じております」
「そうか、よく来てくれた。すぐに人をやって父の御遺骸を探し出してくれ!」
こうして、人を動員し、無事イチノベノミコの遺骸を発見し、蚊屋野の東の山
に丁重に埋葬した。
「こたびはそなたのお陰で無事に、父上を埋葬することができた。礼をいう」
「恐れ多いことでございます。私はただ怖くて見ていただけでございます」
「いや、父上の遺骸をこうして探し出せたのも、そなたがその場所を見失わず、
正確に覚えていたからだ。今後そなたはオキメノオミナと名乗り、宮殿にも
立派な部屋を与えよう」
「もったいのうございます」
そこで、天皇は老婆を大層手厚くいつくしみ、毎日決まって会うようにした。
しかし、あるとき、老婆は天皇にお願いをした。
「私はひどく年をとってしまいました。できれば故郷に帰りとうございます」
「そうか、いつまでもその恩に報いたかったものを」
無事、父親を埋葬することができた後、顕宗天皇はまだ怨みに思っていたこと
を晴らそうとした。
「父上が亡くなった際に、私たち兄弟が命からがら逃げていた際に、食糧を奪
った猪飼の老人がいた。すぐに探し出すのだ」
すぐにその老人は天皇の前に連れ出されてきた。
「お、お許しください」
「許さん。この男を飛鳥川の河原で殺してこい」
「あわわわ」
「そうだ、この男の一族も同罪だ。みな膝の筋を切ってしまえ!」
こうして、この一族の子孫が大和に上る日には決まってびっこを引くようにな
ったのである。
<参考文献>
講談社学術文庫:古事記(上)全訳注(次田真幸)