===================================
日本の原典〜古事記物語〜第86号2005年6月13日発行
===================================
<最終話 御陵の土>
(なんとかして、父上を殺した雄略天皇に復讐をしてやりたいが…)
無事、父イチノベノオシハノミコの遺骸を埋葬した後も、顕宗天皇は父を殺し
た雄略天皇への恨みは消えず、どうやって報復してやろうか絶えず思案してい
た。
(そうだ、やつの墓を暴いてやろう!)
そして、その墓をあばくことで辱めてやろうと思い立った。
「おい、今から雄略天皇の墓を破壊して来い」
「…かしこまりました」
すぐに命令を下す顕宗天皇。
「何! 天皇がそう申したのか? いけない、すぐにおいさめしなければ…」
その命令を知った兄オケノミコは驚いて顕宗天皇のもとに駆けつけた。
「申し上げます! 雄略天皇の墓を破壊するのに他人を遣わしてはなりませ
ん。私自ら行って天皇の思いのまま破壊して参ります」
「分かった。では、頼みました」
こうして、オケノミコは自ら行き、陵の傍らを少し掘って皇居に戻った。
「オケノミコ様がお戻りになりました」
「何? もう戻ったのか。すぐにここへ来るように伝えよ」
「はっ」
すぐに復命したオケノミコがやってきた。
「早かったではないか。もう壊したのか?」
「はい、もう取り壊しました」
「どう破壊したのか?」
「陵の土を少し掘りました」
「少し掘っただけ?」
「はい、少し掘っただけでございます」
その言葉を聞いた顕宗天皇は怒気をはらんで問いただした。
「父王の仇を討とうと思ったら、その陵墓をことごとく破壊するのは当然だろ
う! 少しだけ掘ったとはどういうことか!」
「その理由はこうです」
怒り心頭な顕宗天皇に対して、兄であるオケノミコは冷静に受け応えた。
「父上の恨みをその霊に仕返ししようと思うのは誠に最もなことでございま
す」
「そうだろう、なのになぜ破壊せぬ」
「けれども、あの雄略天皇は父上の怨敵ですが、私たちの叔父であり、また、
天下を治めた天皇です」
「……」
「ここで、今父の仇という理由だけで天下を治めた天皇の御陵を完全に破壊す
れば、必ず後世の人から非難されるでしょう」
「そうではあるが、では、この恨みを晴らすことはできないのか…」
「いえ、違います。もちろん、父上の仇だけは討たなければなりません」
「だからか」
「そうです。だからこそ、陵のほとりを少し掘ったのです。このはずかしめで、
後世に私たちの報復の志を示すのに十分でしょう」
「うん、大変道理にかなっています。その報復で構いません」
兄にさとされ、すっかり冷静になった顕宗天皇はおだやかな顔でそういった。
こうして、野蛮な復讐劇が繰り返されることはなくなった。
顕宗天皇が亡くなった後、兄のオケノミコが即位し、仁賢天皇になった。
仁賢天皇後は子の武烈天皇が即位し、武烈天皇は後継者もなく亡くなった。
近江から継体天皇を招き、安閑天皇、宣下天皇、欽明天皇、敏達天皇、用明天
皇、崇峻天皇、推古天皇と続いた。
以上で、古事記の記述は終わる。
<参考文献>
講談社学術文庫:古事記(上)全訳注(次田真幸)