「第42話 信長入京」
「これでひとまず安心だな」
「左様でございます」
「では、清水寺へ向かうぞ」
「かしこまりました」
「ただし、兵たちは京の市内に入れてはいけない。清水寺には供のものだけで
参る」
「それはなぜでございますか?」
「兵が大挙して狭い京の市内に入ったら、中には無法者もいるかもしれない。
わずかなものでも京の市民に乱暴でもしてみろ。一片に京の支持を失ってし
まうぞ」
「なるほど」
「木曽義仲を見てみろ。旭将軍とも呼ばれた男の末路はどうだったか。今すぐ
洛中、洛外の警固を厳しくするように」
「ははっ」
こうして、信長の兵で乱暴狼藉を働き兵は一人もいなかった。
さらに、畿内に残った抵抗する勢力も風に草木がなびくように10日あまりで
ことごとく退散してしまった。
「三献の馳走、この信長にはもったいのうございます」
義昭は信長のはからいで細川信良の屋敷を居所にし、太刀、馬を信長から受け
取った。
その礼として、信長に三献(公家の馳走の一つ)をふるまった。
「ささっ、盃をこちらに」
さらに、義昭は自ら信長の盃にお酌した。
「そして、この剣を授けよう」
「ありがたき幸せ」
「うむ」
10月22日。
「宮中へのご参内、祝着至極でございます」
「うむ」
「ご正装も麗しゅうございます」
信長は足利義昭とともに正式のいでたちで、宮中へ参内した。
そして、義昭は天皇より征夷大将軍に任じられた。
こうして、久しぶりに京都の町に将軍が鎮座することになった。
<参考文献>
ニュートンプレス:信長公記(太田牛一:原著 榊原潤:訳)
角川ソフィア文庫:信長公記(奥野高広、岩沢愿彦 校注)