「第43話 能見学」
「今回のいくさで命を捨て戦った者たちのために、慰労のため能を見物させよ
うではないか」
15代将軍になった足利義昭は能を上演させることにした。
「何? 能見物だと。まだ平定しなければならない国があり、いくさが完全に
終了した訳でもないだろうが」
義昭の提案にあきれ顔の信長。
「では、いかがいたしますか?」
「とはいえ、お止めすれば将軍の顔をつぶすことになる。仕方ない、将軍には
まだいくさが済んだ訳ではないから能は13番ではなく、5番までにするよう
にお伝えしろ」
「かしこまりました」
こうして、細川殿の屋敷で能が上演され、信長も出席した。
その信長の元に、細川、久我、和田が再三やってきた。
「織田殿にはぜひとも副将軍に就任していただきたいのですが…」
「この私にはもったいない話です。辞退申し上げます」
「義昭様もぜひにと申しております」
「せっかくですが…」
「どうしてもお受けいたしませんか」
「申し訳ございません」
こうして副将軍を辞退した信長のことを人々は、「世にも珍しいなされ方よ」と
感嘆したという。
能が上演されている最中に、信長は義昭自らの酌で盃を賜り、鷹、腹巻を拝領
された。
さらに能の演目が進んだとき、義昭が信長に話しかけた。
「そなたのつづみを聞きたいものよ」
「私などこのような場には似合いません。ご辞退申し上げます」
「そうか」
無事、能の上演が終わった後、信長は能を演じた者全てに引き出物を与えた。
その後、信長はある通達を出した。
「これより、我が領国では関所の税を廃止する」
「よろしいのでしょうか?」
「これも天下のため」
「といいますと」
「関所で税をとれば街道を往来する旅人が困るだろう。」
「さすがお館様でございます」
この信長の関所の税を廃止するとの通達は身分の上下を問わずみな「かたじけ
なし」と満足したという。
<参考文献>
ニュートンプレス:信長公記(太田牛一:原著 榊原潤:訳)
角川ソフィア文庫:信長公記(奥野高広、岩沢愿彦 校注)