第54話 長比、刈安攻略
「お館様に申し上げます!」
「何だ」
「浅井長政、朝倉を呼び込み、長比(たけくらべ)、刈安に砦を築いたようでご
ざいます」
「うむ、知っておる」
「かの地は要害なればいかがするおつもりで?」
「ふむ、すでに手は打っておる。そろそろ便りが来るはずだ」
「それはどのような?」
「申し上げます!」
「おっ、やっと来たか」
信長が家臣たちと浅井に対する軍議をしている最中に新たな使者がやってきた。
「して、首尾は?」
「お館様のお指図どおりにしたところ、樋口、堀両名はお館様の味方になると
申しておりました。こちらが今後お館様に忠節を誓うという請願書でござい
ます」
「うむ、ご苦労」
「浅井方の樋口、堀が寝返ったのですか?」
「あぁ、前々から使者を送って説得していたが、ようやく納得したようだ」
「さすがでござりまする」
「これで、浅井攻略はなったも同然だな」
6月19日、信長は岐阜から近江に出立する。
「おい、聞いたか。信長自らここへやってくるという」
「あぁ、そのようだ。我々は大丈夫なのか? 樋口、堀も寝返ったというぞ」
「それは本当か? では、こんな砦なんかひとたまりもないではないか!」
「…そうだな」
「おい、撤退だそうだ。すぐに用意をしろという命令だ」
「ふぅ、助かったな」
樋口、堀が寝返ったということを伝え聞いた、長比、刈安の兵はあわてふため
いて退散してしまった。
6月21日、信長は浅井長政の居城、小谷城まで迫った。
「森、坂井、斎藤、市橋、佐藤、塚本、不破、丸毛はいるか!」
「ここにっ!」
「お前たちはすぐさまあそこに見えるひばり山に向かい、町を焼き払うのだ!」
「ははっ!」
その晩、信長は虎御前山(小谷の南西4キロ)に陣を構えた。
「柴田、佐久間、蜂屋、木下、丹羽は村々は申すまでもなく、谷の奥不覚まで
焼き払うのだ!」
「畏まりましてございます」
翌22日。
「こたびはここまで。一旦兵を引くぞ」
「ははっ」
「梁田、中条、佐々にしんがりを命ず」
「仰せのままに!」
「しんがりの支えとして鉄砲500丁、弓隊30名を与える。めいめい奉行にな
り、見事しんがりの役を務めるのだ」
「どうかお任せを」
「うむ、頼んだぞ」
こうして、信長軍は撤退し、梁田隊は中央から少し左にそれひいたが、追いつ
かれてしまった。
しかし、引き返して戦い、逆に撃退した。
「まだまだ、敵をよくひきつけ…、今だ! かかれっ!」
二番手の佐々成政は八相山で敵をひきつけ撃退した。
三番手の中条も橋の上で戦い、敵兵をもみあい堀に落ちたが、堀の中で敵の首
をとった。
こうして、信長は無事兵を引くことができた。
「今より横山城を攻める」
無事、兵を引いた信長は24日、今度は横山城を囲み、自らは竜が鼻に陣を構
えた。
「徳川家康ただ今参りました」
「おぉ、家康殿、遠路はるばるかたじけない」
この日、三河より徳川家康も援軍に駆けつけた。
いよいよ姉川の合戦の火ぶたが切られようとしていた。
<参考文献>
ニュートンプレス:信長公記(太田牛一:原著 榊原潤:訳)
角川ソフィア文庫:信長公記(奥野高広、岩沢愿彦 校注)