第58話 森三左衛門討ち死に
「申し上げます! 朝倉、浅井軍、ここ大津坂本に向かっているとのことでご
ざいます!」
「何? 誠か? して、兵は?」
「3万!」
「あい、分かった。ものども準備はいいか! すぐに出陣だ!」
「おぉ!」
9月16日。突如、越前の朝倉、浅井が大津坂本に進軍してきた。
おりしも、信長本体は摂津の野田、福島にいて大津は森三左衛門がわずか千の
兵で守っていた。
「お館様にすぐさまこの状況をお伝えするのだ! われらはお館様がお越しく
ださるまで少しでも時間を稼ぐのだ!」
そういうと森は佐和山を駆け下り、わずか千の兵を率い、3万の朝倉、浅井軍
に立ち向かい、足軽相手の戦いに勝利した。
「ものども! この勝利に気を許すなよ! これから朝倉、浅井の本陣が到着
する。お館様のためにも絶対にこの坂本を死守するのだ!」
「森殿、その役目われらにお任せあれ」
「おぉ、そなたは道家兄弟」
「お館様から頂いたこの『天下一の勇士なり』の旗の名に恥じぬ働きをいたし
ましょうぞ」
「それは頼もしい。頼んだぞ」
「こたびも敵将の首をあまた討ち取り、またお館様におほめいただこうぞ。の
う弟よ」
「そうだ、兄じゃ、道家兄弟ここにありとこの名を上げようではないか」
「では、皆の者、参ろうか」
一同生きて帰れないことを覚悟して30倍もする敵に向かっていった。
全ては信長のため。
「申し上げます! 浅井、朝倉勢、大挙して大津坂本に進撃! 佐和山城から
討って出た森三左衛門殿討ち死に!」
「何? 森が!」
「はっ、見事な最期でございました」
「状況は?」
「森殿は討ち死にしましたが、武藤殿、肥田殿両名が宇和山城を守り、出城は
占拠されましたが、なんとか城は死守しておりまする」
「そうか」
「申し上げます!」
「何だ」
「浅井、朝倉勢、大津の馬場、松本に放火。その後、逢坂を越え、醍醐、山代
を焼き払い、京都を目指して進軍中でございます」
「奴らが京に入るとやっかいだな」
22日、信長は浅井、朝倉両軍が迫り来るのを摂津の中島で聞いた。
<参考文献>
ニュートンプレス:信長公記(太田牛一:原著 榊原潤:訳)
角川ソフィア文庫:信長公記(奥野高広、岩沢愿彦 校注)