第59話 比叡山との交渉

 「今より、この陣を引き払い、浅井、朝倉に向かう」

 9月23日、信長は、野田、福島の陣を引き払い、京都まで迫った浅井、朝倉
 軍のもとに向かった。

 「殿は和田、柴田に申し付ける」

 「お任せを」

 「京都へは江口川を越えて行くぞ」

 江口川とは、淀川、宇治川の下流にあり、水の勢いの激しい場所である。
 そして、信長軍が中島から江口川を越えて京都へ向かうことを察知した本願寺
 勢は、周辺で一揆を起こさせ、川を渡るための船を全て隠してしまった。

 「お館様! 船が一隻も見当たりません!」

 「慌てるな!」

 見ると、川の向こう岸には稲、麻、竹、あしに身を隠した一揆勢が竹やりを手
 に持ち、待ち構えていた。

 バシャシャ バシャ

 信長は自ら川の上下流を見て回り、馬を川に乗り入れて調べた。

 「川を渡れ!」

 「しかし、この川はとても馬で渡れるものではございませんが…」

 「いいから、全軍に川を渡るように伝えよ」

 「かしこまりました」

 突然の信長川を渡る下知に驚きながらも馬を河に入れると思いのほか水は浅く、
 徒歩の兵も含め全員無事川を渡ることができた。

 こうしてその日のうちに京都に戻ることができた信長は、将軍義昭とともに本
 能寺に入った。

 翌日になると江口川はもとのように水量が増え、もう徒歩では渡れなくなり、
 前日の出来事を近辺のものは不思議に思った。

 24日。

 「おい、あの旗は!」

 「あぁ、信長の本陣の旗だ」

 「すぐにお館様にお伝えするのだ」

 予測より早く信長が姿を現したことに驚き慌てた朝倉、浅井勢は敗走した兵の
 ように比叡山に逃げのぼり、はちが峯、青山、局加笠山に布陣した。

 「すぐに山門に使いを出せ」

 比叡山に浅井、朝倉勢が立てこもったのを見た信長は、すぐに山門(比叡山)
 の僧兵を呼び出した。

 「お呼びでしょうか?」

 信長によって呼び出された僧兵は十数名。
 その者たちに向かって信長は二つの条件を出した。

 「こたびの戦いにこの信長に忠節を誓うならば、私の領国内にある山門領は元
  通りお返しするだろう」

 パチン

 こう言った後、信長は、刀のつばを打ち合わせて誓いを立てた。

 「もし、出家の道理で、一方のみをひいきすることができないならば、いずれ
  にも加担せず見逃していただきたい」

 こう丁寧に僧たちに告げた信長は、さらに今言った内容を書いて朱印状を作成
 し、僧たちに渡した。
 
 「ただし、この二か条のいずれにも従えぬというならば、根本中堂(延暦寺本
  堂)、山王21社をはじめとする一山ことごとく焼き払おうぞ」

 <参考文献>

 ニュートンプレス:信長公記(太田牛一:原著 榊原潤:訳)
 角川ソフィア文庫:信長公記(奥野高広、岩沢愿彦 校注)

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