第64話 比叡山焼き討ち

 「これより叡山を焼き討ちにする!」

 「な、なんと申されました!」

 「叡山を焼き討ちにすると申したのだ」

 「そ、それは…」

 「できんと申すのか?」

 「…」

 「思い出せ! 昨年今一歩で野田、福島を落とせるというときに、浅井、朝倉
  が坂本に打って出てきた。京に乱入してはやっかいだから急遽陣を払い、逆
  に奴らを局笠山に追い詰め、兵糧攻めにしようとしたときに、叡山の奴らが
  何をしたか!」

 「あのときはお館様が中立を保つようにとおっしゃいました」

 「あぁ、わしは筋を通して奴らにどうするか選ばせたのだ。そして、あのとき
  に中立を保てずにどうしても浅井、朝倉に肩入れするならば、根本中堂、山
  王21社をはじめ、堂塔ことごとく焼き尽くすと言ったのだぞ。それを無視
  して浅井、朝倉への援助を惜しまぬ叡山をお前たちは許せと申すのか!」

 「い、いえ、決して…」

 「奴らは王城の鎮守という地位に甘んじ、仏道の修行をおろそかにし、戒を破
  り、淫行を好み、生臭い魚や肉を食べ、物欲にまみれ、あまつさえ世俗の勢
  力、浅井、朝倉に加担したのだぞ!」

 「し、しかし、比叡山を焼き討ちするなぞ…」

 「ええい、まだいうかっ! このままではいつまでたっても天下布武なぞ夢の
  また夢。叡山ごときになめられておきながら、天下統一なぞできるはずがな
  い。文句のあるやつは来なければいい。今より叡山攻めを行う!」

 9月22日、信長は比叡山に押し寄せた。

 「やれっ!」

 パチパチパチッ

 ゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォォォォ!

 「ギャーーーーーーーーーーー」

 「う、うわぁぁぁ」

 「お、お許しください!」

 雲霞のごとく煙が巻き上がり、あたり一面は火の海になる。
 山中は逃げ惑う人々で一杯になり、奥宮に逃げ込んだり、社内に逃げ込んだり
 したが、その後を追うように兵が四方からときの声を上げながら攻め立てた。
 すぐに比叡山は生き地獄と化してしまう。

 僧俗、児童、学僧、上人すべてを捕らえきては首をはね、信長の前に持ってく
 る。
 名のあるもの、名のなきものの区別なく次々に運び込まれる首、首、首。

 「お館様! 女、子供はいかがいたしますか?」

 そこへ数え切れないほどの女、子供がつれられてきた。

 「悪僧が首をはねられるのは致し方ありません。しかし、女、子供はお許しく
  ださい」

 「ならん」

 「な、なんと申された! 年端のいかぬ子供までも殺すというのか!」

 「あぁ、許さん。そこで一人一人首をはねよ!」

 「お館様、せめて女子供の命は…」

 さすがに女子供を殺すのは気がひける兵を前に信長は冷酷に命じた。

 「早くやれっ!」

 こうして、信長は比叡山を焼き討ちにし、数千の死体があたり構わず転がって
 いた。
 その光景はまことに哀れで目も当てられない有様だった。

 「十兵衛、こたびの叡山攻め、見事だった。そちに坂本の城を与える」

 「ありがとうございます」

 「しっかり励めよ」

 「はっ!」

 9月20日、信長は美濃に戻った。

 <参考文献>

 ニュートンプレス:信長公記(太田牛一:原著 榊原潤:訳)
 角川ソフィア文庫:信長公記(奥野高広、岩沢愿彦 校注)

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