第68話 信長の謀略
7月27日。
「ここ虎御前山の砦を厳重に築くように」
「ははっ!」
(このままではらちがあかないな…)
しばらく思案した信長はあることを命じた。
「申し上げます! 浅井長政殿より伝令が届いております」
「うむ、すぐにここへ」
あるとき、越前の朝倉義景のもとに浅井長政からの使者がやってきた。
「義景様に主君長政からの伝言を申し上げます」
「申してみよ」
「我がほうの調べでは、尾張の河内長島にて一揆が起こり、尾張と美濃を結ぶ
通路が妨げられ、信長はその収拾に追われております」
「なんと! それは誠か?」
「はい、誠でございます。そこで、この機会にぜひとも朝倉殿が出馬されれば、
美濃の兵を全て壊滅できるでしょう」
「そうだな。よし、すぐに兵を集めよ! 今こそにっくき信長を滅ぼすのだ!」
「おぉ!」
こうして朝倉義景は1万5千もの兵を起こし、7月29日には浅井氏の居城、小
谷城に到着した。
「ふふふ、信長め、今ごろあわてふためいているだろう」
伝令を浅井に送った朝倉義景は、戦況を確認後、すぐに浅井長政の軍とともに
美濃に攻め入ろうと気をせいていた。
「も、申し上げます!」
「何だ、何を慌てておる」
「先日の浅井殿の伝令は真っ赤の偽りでございました!」
「な、なんと!」
「尾張河内長島では一揆など起きておらず、信長は虎御前山にて待機しており
まする!」
「長政は何と申しておる!」
「そのような伝令送った覚えはなし。きっと信長の姦計であろうと申しており
ました」
「たばかられたか!」
「いかがいたしましょう?」
「ううむ、このままではまずい。一旦高峰の大嶽に登って陣を築くしかあるま
い」
「かしこまりました」
見事朝倉をおびき寄せることに成功した信長は、朝倉軍が布陣する場所に兵を
送り込み、若武者を野に伏せ、山に忍び込ませ日々襲撃させた。
8月8日。
「お館様に申し上げます!」
「何だ」
「朝倉一族である前波九郎兵衛親子三人がたった今やってまいりました!」
「そうか! ようやくやってきおったか! すぐにここへ通せ!」
「ははっ!」
信長の喜びは並大抵ではなく、すぐさま帷子(かたびら)、小袖、馬、馬具を取
り揃え、前波に与えた。
「よくぞ参った。必ず重く召抱えよう」
「ありがとうございまする」
さらに、翌日には、富田長秀、戸田与次、毛屋猪介が味方に加わった。
それぞれに対し、信長は厚く恩賞を与えた。
<参考文献>
ニュートンプレス:信長公記(太田牛一:原著 榊原潤:訳)
角川ソフィア文庫:信長公記(奥野高広、岩沢愿彦 校注)