第70話 三方が原の合戦
「申し上げます! 武田信玄、遠江二俣の城を取り囲んだとのことでございま
す!」
「な、何だと! それは誠か!」
「はっ! 誠でござりまする。武田の兵、およそ2万! 二俣の城より援軍の
急使が参っております」
「…そうか、すぐに皆を集めよ! 軍議をいたす」
「ははっ」
11月下旬、武田信玄が遠江二俣の城を取り囲むの報に徳川家康は震え上がった。
「我がほうの兵は三河、遠江の兵を合わせてもわずか7000。対する武田は2
万強。その差は歴然としておりまする」
「うむ、篭城しかあるまい」
「二俣の城はいかがなさるおつもりか?」
「…」
「まさか、見捨てるおつもりか?」
「…致し方ない」
「なんと、なんと情けない」
「では、玉砕しろと? 今は織田殿の援軍を待つしかないではないか!」
「……」
その言葉に一同黙り込む。
「申し上げます! 織田殿の援軍、到着したとのことでございます!」
「おぉ、そうか! すぐにお通しせよ!」
「ははっ!」
頼りの織田軍が到着して、希望の光が見えた徳川家。
しかし、すぐにその希望も絶望に変わってしまう。
「佐久間右衛文尉、平手甚左衛文、お館様の命にて徳川殿の援軍に参りました」
「ご苦労でございます」
しかし、その兵はわずか3000。
家康の軍と合わせても1万にしかならず、とても武田軍に太刀打ちできる兵力
ではなかった。
「申し上げます! 二俣の城、ついに落城いたしました!」
「何! それで信玄の動きは?」
「はっ! そのまま堀江の城に向かっているとのことであります」
「うぬ、やりたい放題やりおって」
「徳川殿、ここは自重を。お館様も決して討って出ることまかりならぬと申し
ておりました」
「しかし、我が領土が荒らされているのに手をこまねいていては、領民のわし
に対する信頼がなくなってしまうではないか」
「そこを何とかお忍びください。今しばらくすればきっとお館様自らお越しく
ださると思いますので」
「…あい、分かった」
そうこうするうちに、信玄が浜松を無視して、直接尾張に向かいつつあるとい
う報が届いた。
「むむ、信玄め! どこまでわしを愚弄すれば気がすむのかっ! 我が領土を
無傷で素通りできると思うなよ!」
「お待ちください! これは信玄のわなでございます」
「…それは分かっておる、佐久間殿。しかし、ここで攻めなければこの家康の
永遠の恥辱になる。家康とは領土を素通りされても亀のように城で縮こまっ
ていた臆病な武将とな」
「しかし! 敵は我がほうの2倍ですぞ! 死ににいくおつもりか!」
「自分の領土も守れず何の命か! 皆の者、三河武士の意地を見せてやれ!」
「おぉ! 我らは皆、殿と死の果てまでお供仕りまする!」
「よし! 出撃だ! 佐久間殿、平手殿は、城内で待機していてください」
「ここにいたってはぜひもなし。我が軍もお供仕ります」
「かたじけない」
こうして、いよいよ三方が原の合戦が始まる。
<参考文献>
ニュートンプレス:信長公記(太田牛一:原著 榊原潤:訳)
角川ソフィア文庫:信長公記(奥野高広、岩沢愿彦 校注)
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