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 【中国英雄伝】第13号       
 「第13話 藺相如伝3 〜怒髪天を衝く〜」
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 「秦王様、趙の国より使者が参りました」

 「そうか、我々の要求を断りきれなったのだな」

 「そのようで、使者は和氏の璧をうやうやしく持って参ったとのことです」

 「よし、すぐここへ通せ。それから皆に見せてやろう。皆を集めるのだ」

 「ははっ」

 こうして、相如は秦王に引見した。

 「こちらが和氏の璧でございます」

 「おぉ、遠路ご苦労。では、近くで見せてもらおうか」

 そういうと秦王は和氏の璧を相如から受け取り、大いに喜んだ。

 「どうだ、これが天下にまたとない和氏の璧だぞ」

 得意げな秦王は、宮女や左右の者に手渡して見せびらかした。

 「万歳! 万歳!」

 その光景を見た近臣のものは万歳を唱えた。

 (秦王は約束を果たすつもりはないな。このまま和氏の璧を奪われてなるもの
  かっ!)

 そう心中に思った相如は、秦王にこう告げた。

 「実は璧には傷があるのです」

 「何? それは誠か?」

 「はい、今からお見せいたしますから、璧をこちらへ」

 「うむ、分かった」
 
 こうして和氏の璧を言葉巧みに奪い返した相如は、そのまま璧を手に持ち、退
 きながら柱を背にして立ち上がった。

 ???

 相如の突然の行動に驚いた秦王と近臣はただ、相如を見つめるばかり。
 その姿は怒髪天を衝かんばかりの形相。
 その形相のまま相如は秦王を叱り飛ばした!

 「大王は璧を手に入れようと、趙王に書簡を送りました。だから趙王は群臣を
  集めて評定を開かれた」
 
 あまりの相如の剣幕にただ彼の言葉を聞くことしかできない秦王。

 「すると、みなは『秦は貪欲で、大国なのを頼み、空言で璧を求めたのだ。代
  償の城はおそらく手に入らないだろう』と言っていた。」

 「……」

 「しかし、その中で私は『匹夫(ひっぷ)の交わりでさえだましあいはしない
  のに、まして大国の交わりにそんなことがあるものか。ともあれ、趙のため
  には璧一つのことで強秦に逆らい、その機嫌を損ねるべきではない』と強く
  反対したのだ」
 
 辺りには相如の言葉だけ強く響き渡る。

 「そこで趙王は斎戒すること5日、私に命じて璧を捧げ、書簡を秦の朝廷に届
  けさせたのである。それというのも、大国の威光をはばかり、敬意を払うか
  らである」

 「……」

 「しかし、今来てみれば、大王は群臣とともに私を引見し、儀礼ははなはだ傲
  慢である。しかも、璧を手にするや、これを美人に手渡したり、たわむれも
  てあそんだ。」

 秦王はまだ相如の剣幕に押されただ聞くのみであった。

 「私は大王には代償として城を趙王に送る考えがないと思って、壁を取り戻し
  たのである。もし、大王が、あくまでも私に迫って璧を奪い返そうとするな
  らば、私の頭をこの璧もろとも柱に打ち付けて砕いてみせよう」

 見ると、相如は壁を持ち柱をにらんで、今にも柱に打ちあてんばかりの勢いだ
 った。

 「ま、待て! 分かった、わしが悪かった。無礼を謝るから、和氏の璧を壊さ
  ないでくれ」

 璧を砕かれることを恐れた秦王は、無礼をわび、すぐに役人を呼んで地図を持
 ってこさせた。

 「約束通り、ここから向こうの15都を趙に差し上げよう」

 しかし、秦王はやはり城をくれるつもりはないと見透かした相如。

 「大王様に申し上げます。和氏の璧は天下の人がともに伝えてきた宝です。趙
  王は璧を送るときに5日の間、斎戒されました。だから、大王様にも5日の
  間斎戒いただき、九賓の大礼を朝廷に設けていただきたいと思います。そう
  していただけるなら、私も璧を奉れます」

 「…うむ、分かった。そのようにいたそう」

 こうして、とても相如から和氏の璧を強奪できないと思った秦王は、5日の斎
 戒を承諾し、相如を宿舎に宿らせた。

 *前回、「璧」を「壁」と書いておりました。お詫びして訂正いたします。
  ご指摘くださった方に感謝いたします。

 ●参考文献:「史記」筑摩世界文学大系7 小竹文夫 小竹武夫訳

 【今回のエピソード】

 怒髪天を衝く:今回の藺相如が秦王に対してとった行動がこの言葉のもとにな
        りました。怒り心頭の様子をうまく表現していますね。

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