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 【中国英雄伝】第14号        
 「第14話 藺相如伝4 〜藺相如、秦王を欺く〜」
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 (秦王は、約束を破り、城を決して渡さないだろう)

 秦王に会い、その性質を見極めた相如は、自分の従者を呼びつけた。

 「まず、この粗末な服装に着替えるのだ。そして、この璧を持って、趙の国に
  送り届けるのだ。決して見つかることなく、間道を使っていくように」

 「かしこまりました」

 すでに、和氏の璧が趙の国に送り返されていることを知らない秦王は、相如に 
 いわれるままに5日間斎戒して、九品の礼を朝廷に設け、相如を案内した。
 
 「さぁ。相如よ、約束通り、5日間の斎戒が終わったぞ。壁をこちらに寄こす
  のだ」

 秦王の問いかけに対して藺相如は、平然と答えた。

 「秦の君主は初代から20代を数えますが、いまだ一度も約束を守った者はお
  りません。だから、私も王に欺かれて、趙王の依頼にそむきはしないかと思
  い、人に璧を持たせ間道から趙に帰らせました」

 「な、なんだと!」

 驚く秦王に対して、全く表情を変えずに語り続ける藺相如。

 「しかし、秦は強く趙は弱いので、今、大王が使者を一人でも趙に遣わせれば、
  趙は即座に壁を掲げてやってくるでしょう」

 相如の振る舞いに驚いた秦王はその後の言葉が出てこなかった。
 秦の朝廷には相如の力強い言葉が響いた。

 「まして、いま強大な秦が、まず15城を趙に与えるなら、趙はどうして璧を
  渡すのを拒むことができるでしょうか。」

 相如のこの期に及んでの提案に驚きを隠せない秦王。

 「私が大王を欺いて壁を持ち帰らせたことが、死罪に当たることは重々承知し
  ております。どうぞ、煮殺していただきたい。ただ、大王におかれましては、
  群臣とよくご評定の上、お決めいただけるようお願いいたします」

 あまりの出来事に秦王は群臣と顔を見合わせ、思わずアッと驚いた。

 「何というふてぶてしい奴だ。さぁ、立て。望み通り煮殺してやるからこっち
  へ来い!」

 怒った左右の者が相如を引っ立てて行こうとすると、秦王がそれを止めた。

 「まぁ、待て。今、ここで相如を煮殺しても璧が戻って来るわけでもない。そ
  んなことをすれば、秦と趙の関係が悪くなる。」

 「そうでございますが…」

 「むしろ、相如を厚遇して趙に帰したほうがよい。たかが璧一つのことで、趙
  王がどうして秦を欺けよう」

 こうして、秦王は改めて客礼を持って相如を引見し、礼を終えた後は、無事、
 相如を趙に帰した。

 「相如、よく無事に戻って来てくれた」

 「いえ、璧が無事だったのが何よりです」

 「こうして、璧も無事戻ってきたばかりではなく、使者にたって諸侯に辱めら
  れなかったのはそなたが賢者だからである。この功績に報いるため、そなた
  を上大夫に任ずる」

 「ありがたき幸せ」

 こうして、藺相如の活躍で、秦は城を趙には与えることはなかったが、趙もま
 たついに璧を渡さずにすんだ。

 ●参考文献:「史記」筑摩世界文学大系7 小竹文夫 小竹武夫訳

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