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【中国英雄伝】
「第7話 伍子胥伝7 〜越王句践〜」
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「子胥に孫武よ、頼りにしておるぞ」
当時、呉は子胥と孫武のはかりごとによって、西は楚を破り、北は斉、晋を脅
かし、南は越人を服従させた。
「申し上げます。越で反乱が起こりました」
「越が服従して五年。しかし、愚かな奴らだ。呉にかなうはずがあるまいに。
よし、わし自ら黙らせてやろう」
こうして、呉王闔盧自ら軍を率い、越を討った。
「皆の者、ひるむな! ここで呉軍を迎え撃つのだ!」
「おぉ!」
越を率いるのは、越王句践(こうせん)。
「ぐわぁ!」
「あ、呉王様! 大丈夫でございますかっ!」
「くそぅ、指をやられた」
「ここは一旦、お引きになられたほうがよろしいかと」
「うむ、仕方ない、退却だ!」
しかし、呉王の傷は悪化し、重態に陥ってしまった。
「夫差(ふさ)を呼べ」
己の死期をさとったのか、呉王闔盧は太子の夫差を枕元に呼び寄せた。
「いいか、句践がおまえの父を殺したことを決して忘れるな」
「どうして忘れることができましょうか!」
その夜、呉王闔盧は死に、夫差が立って王になった。
「句践め、今に見ておれ。ハクヒよ、すぐに兵を鍛えあげるのだ」
「かしこまりました」
王になった夫差は、ハクヒを太宰(たいさい)にし、兵の訓練を怠らなかった。
「父が亡くなられて、すでに2年の月日がたった。我が兵はたくましく鍛えら
れた。今こそ、父の恨みを晴らすときが来た!」
こうして、越を攻めた呉軍は、越軍を破った。
「くそう、最早ここまでか」
敗れた越兵5千は越王句践とともに会稽山(かいけいざん)に逃げ込んだ。
「まだ、あきらめるのは早すぎます」
「しかし、この山が囲まれるのも時間の問題だ。一体どうすればいいのだ」
「呉王夫差の家臣、伯?は利に釣られやすいとの専らの噂でございます。伯?
にわいろを渡せば、きっと王の命は助かりましょう」
「そうか、頼んだぞ」
「はい、全てはこの種(しょう)にお任せを」
こうして、大夫種は越王句践の使者として、たくさんの貢物を持って太宰伯?
のもとを訪れた。
「呉王夫差の信頼も厚い伯?様に折り入ってお頼み申し上げたいことがござい
ます。」
「ふむ、敗軍の使者が何用か」
「越王句践は、こたびの敗戦によって呉王のご威光を改めて実感いたしました。
つきましては、越王は国をゆだねて、自らは呉王の家臣として、妻は呉王の
妾(めかけ)になりたいと申しております。」
「越王は呉王に和を請いたいというのだな」
「はい、この旨、ハクヒ様より呉王にお伝え願えればと思います。これは少ない
ですが…」
「ううむ、そこまでの覚悟があるのだったら、わしからも夫差様に申し上げて
みよう」
「ありがとうございます」
こうしてハクヒより、越王が臣下の礼をとるということを聞いた呉王夫差は、こ
れを許そうとした。
それを伝え聞いた子胥が呉王の元に駆けつけた。
「申し上げます! 呉王に置かれましては、こたび越王をお許しになるとお聞
きいたしましたが、本当ですか?」
「あぁ、本当だ」
「なりませぬ! 越王の人となりをごらんになりましたか」
「いや、見ていないが…」
「越王はよく辛苦に耐えることができる人物です。今のうちに滅ぼさなければ、
後日必ず後悔いたすでしょう」
しかし、呉王夫差は、子胥の発言を聞かず、越と和睦した。
参考文献:「史記」筑摩世界文学大系7 小竹文夫 小竹武夫訳