===================================
【中国英雄伝】 第8号 2004年7月28日発行
「第8話 伍子胥伝8 〜子胥の諫言〜」
===================================
越と和睦して5年の月日が流れた。
「呉王様に申し上げます。斉の景公が亡くなられたようでございます」
「ほう、景公はまだ若かったではないか」
「はい、ですので、跡を継いだのはまだ幼い若君のようでございます」
「と、なると斉の国で内乱が起こるな」
「そのようで。すでに残された大臣たちが己の栄達のために画策しているよう
でございます」
「つけいるなら今しかないな」
「お待ちください!」
「何だ、子胥よ」
「越の句践が食事を二菜にし、死んだ兵を弔問し、病兵を慰問するのはなぜか
お分かりか?」
「分からぬが」
「すべては将来越のために役立てるためでございます」
「それで?」
「お分かりになりませぬか? 句践が死なない限り、必ず呉にわざわいをもた
らすでしょう」
「それはお前の考えすぎだろう」
「いえ! 今、越があるのは、呉にとってはちょうど人の内臓に病いがあるの
と似ています。王におきましては、越のことを後回しにし、斉を攻めようと
するのはなんと間違っているでしょう!」
「ええい、うるさい。斉を攻めるには今をおいてない。下がっておれ」
「……」
こうして、呉王は子胥の諫言を聞き入れず、斉を討って大いに破った。
「ほれみたことか。子胥ももうろくしたな」
これ以後呉王は、子胥のはかりごとをうとんじるようになった。
「越王様に申し上げたいことがございます」
「何だ、子貢(しこう)よ」
「聞くところによれば、呉王は再度斉の国に攻め入ろうとしているとのこと」
「そのようだな」
「王よ、これは好機ですぞ」
「それはなぜだ?」
「王におかれては、手勢を率いて呉王に援軍を申し出るのです」
「ふむ」
「そうすれば、呉王の喜びはひとしお、王への信用も増すというもの」
「なるほど」
「さらに、太宰ヒには今まで以上に莫大な宝物を送り、篭絡するといいでしょ
う」
「分かった。さっそくそのようにいたそう」
こうして、ワイロをたびたびもらった太宰?は、越を信愛すること格別で、日
夜呉王にとりなし、越のことをほめたたえた。
それを聞いた呉王は、越軍の援軍申し出もあり、ますます越を信用した。
「王に申し上げます」
「なんだ、子胥」
「かの越は腹心の病でございます。」
「また、その話か」
「今、越のでまかせな言葉や偽りを信じて斉を攻めようとされていますが、斉
を破っても石ころだらけの田んぼのように全く役にたちません」
「それで?」
「どうか、王におきましては、斉を捨て置き、越を滅ぼすことを先になされま
すように」
「まだ、そのようなことをいうのか? お前は4年前の勝ち戦のことをもはや
忘れたか?」
「覚えておりませぬ。今、越を後回しにされますと、後日後悔されても遅いで
すぞ!」
「まだ言うか! ええい、黙れ、黙れ! もう、下がらぬか!」
こうして、呉王は子胥の諫言を無視して、子胥を使者として斉に送った。
「わしはたびたび王を諌めてきたが、王は聞かなかった」
出立に及んで我が子に語りかける子胥。
「わしが呉が滅びるのを見るのはやむを得ないとしても、お前が呉に殉ずるの
は無駄なことだ」
「何をおっしゃりますか。私はいつまでも父上とともにありたいと思います」
「いや、ダメだ。お前はこのまま斉の国に残り、鮑牧(ほうぼく)の世話にな
るといい」
こうして、子胥は、斉への使いを終えた後、息子を鮑牧に託し、呉の国に戻っ
た。
参考文献:「史記」筑摩世界文学大系7 小竹文夫 小竹武夫訳