新見の羅生門周辺の自然環境



登録運動の有無:なし

登録の可能性評価★★(中)

所在地:岡山県津山市


【世界遺産に登録できるか?】
  新見には貴重なコケの群生地があります。
掲示板にもそのことに関するものを載せています(こちら)。 もう一回要約します。

  新見市はカルスト大地の上に存在し、 市内に多くの鍾乳洞やドリーネという円錐状の竪穴があります。 石灰岩大地は浸食され、 やがて大きな洞窟ができます。 さらに時間が経過すると洞窟は大きくなり、 地面の重みに耐えきれず崩落します。 そうしてところどころに、 かっての洞窟の名残が、 アーチ橋のように残ります。 さらにそこにドリーネという円錐状の穴が形成された場所があり、 その最深部に、 横穴が伸びている場所があります。 ここからはたえず冷気が吹き出しており、 夏の平地の気温が30℃でも、 このドリーネ最深部は常に12℃くらいに保たれているそうです。 また日光が全くといっていいほど射し込まないため、 入り口周辺だけに霧が発生し、 常に低温・高湿度の状態が保たれていました。 そのため氷河時代の生き残りとみられる貴重なコケが現在でも生き残りました。 このドリーネだけでなく、 その周辺一帯は陥没によって平地より低く、 日光がほとんど当たらないためコケの種類が多く密集しています。 このコケをここでは南方系のコケと呼ぶことにし、 ドリーネ深部の北方系のコケと区別して呼びます。 つまりこの一帯は、 狭い空間で、 南方系から寒冷地域のコケが同時に見られる貴重な場所なのです。

  このドリーネの大きさはせいぜい直径20メートルくらいですが、 この狭い空間に高地性、 もしくは北方系のコケが生き残っています。 ここはもともと人が立ち入る場所ではないので、 50年くらい前は周辺一帯にコケがものすごかったそうで、 当時はサガリゴケというコケが樹木に蔦のように絡まってカーテンのような状態だったそうです。 ここが今も当時の状態なら、 屋久島・白神山地とともに国内最初の世界自然遺産に指定されていた場所だそうです。

  しかし30年くらい前の観光開発で付近まで道路を造り、 木を伐採したため、 霧が発生しにくくなり、 さらに洞窟内部に観光客を入れるように入口を大きくしたため冷気が弱くなり、 湿度が下がってしまいました。 そのため貴重なコケの集落が大幅に減少し、 絶滅の危機に瀕しています。 現在は、 洞窟周辺一帯は立ち入り禁止になっていますが、コケはほとんど回復していない状況です。 サガリゴケも樹皮などにわずかに見られるにすぎません。 それでもこの一帯にまだ200種くらいのコケが生き残っているといわれています。 (調査自体が貴重なコケを傷つける可能性があるため、 近年はほとんど調査が行われていない。 そのため現時点では160種くらいとか、 もっと少なくなったとか、 いろいろ意見がある。)

  ちなみに北方系のコケが全て絶滅危惧種のように重要というわけではありません。 しかし、 この新見一帯の標高は400〜500メートルですが、 剣山の1600メートル以上の高地にしか見られないコケもここでは見られるのです。 特にイギイチョウゴケは絶滅危惧種であり、 現在では発見することすら難しいそうです。 またセイナンヒラゴケ、リボンゴケ、トサノサガリゴケのような北方系のコケは成長が遅く、 年間数ミリしか生長しないため、 一度数が減少すると、 なかなか回復しないそうです。

  現在、 ドリーネ最深部は立ち入り禁止ですが、 その近くまでは観光名所になっている人が近づけます。 でも知名度がいまいちで観光客は少なく、 それが幸いして、 保護が決定した時点の状態を辛うじて保っているそうです。 このコケをフラスコ内で培養し、 成長してから現地に移植する取り組みが地元の新見北高校で行われています。 しかし成果があったのは南方系のコケだけで、 北方系のコケは全然うまくいっていないそうです。 ドリーネ深部の気温は今でも、 調査を開始した時点とほとんど変り無いらしいので、 やはりコケの生育には湿度管理が重要であると思われますが、 北方系のコケの生育には最低でも80%〜90%くらいの湿度が保たれていることが必須条件らしく、 それはフラスコ内の培養では難しいのです。

  また、 伐採した木があった場所を植林し、 環境を回復しようという取り組みは行われていません。 それには二つの問題があるからだそうです。 一つは地権の問題です。 一帯は国の天然記念物に指定されているそうですが、 木が生えてあった場所は新見市に属するそうです。 そのため費用負担とか手続きとかが煩雑で、 全然進展していないそうです。 もう一つは、 どういう種類の木を植えたらいいのか不明なのです。 当時の現状を回復するために植えた木が、 さらに環境を悪化させる心配もあるのです。

  この一帯の自然環境の保全は、 現段階では全く手付かずの状況のようです。 でも私は何らかの対策を講じ、 貴重なコケの保護・再生に取り組むべきと考えます。 この場所は本来世界遺産クラスだった場所であることをもう一度思い起こし、 関係自治体に頑張ってもらいたいものです。(著=収斂)

2003/02/08



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