世界の記憶 概要

 

全体の3割が20世紀の記憶
古代〜近世が中心の世界遺産を補完

 人類は文字を発明して以来、岩肌に文字を刻み、パピルスや羊皮紙に文書を記すことで、自らの歩みを記録してきました。19世紀には写真やシリンダー、カセットテープ、フィルムといった新たな媒体が登場し、人類の記録の幅は格段に広がりました。そのいっぽう、これらの記録は幾多の戦争で失われ、現在も酸化や多湿化による劣化が進んでいます。そこでUNESCOは、貴重な記録遺産を保存する目的で、1992年に「世界の記憶」事業を開始しました。
 世界の記憶は、登録対象をデジタルデータ化して「積極的な利用」をうながしています。現状維持(保護)を原則とする世界遺産とは、まったく対照的な制度なのです。また、世界遺産の「危機リスト」のような、保護の急を要する物件リストはありません。
 世界の記憶の守備範囲は書籍や古文書にとどまりません。石碑、地図、図面、写真、音声、映像など、およそ「記憶」や「記録」といえるものはすべて登録対象になっています。
 世界遺産に比べ、実に多種多様な「記録」を網羅しているのが、世界の記憶のおもしろいところ。悪くいえば「玉石混交」といえなくもありませんが、それだけに、リストを眺めるだけでも楽しくなってしまいます。20世紀の「記憶」が全体の3割ほどを占めているため、世界遺産がカバーしきれない現代史を俯瞰できる点でもおもしろいと思います。

登録は2年に一度
個人や団体でも推薦可能

 世界の記憶と世界遺産の相違点はほかにもあります。たとえば、世界遺産は国際条約の「世界遺産条約」に基づいた制度ですが、世界の記憶にはそうした条約はありません。1995年に策定されたガイドラインが唯一の根拠となっています。
 また、世界遺産は毎年1回の世界遺産委員会にて新規登録が決まりますが、世界の記憶は2年に一度、西暦奇数年に開かれる国際諮問委員会にて審査されます。
 推薦母体も、「条約批准国政府」に限られている世界遺産に対し、世界の記憶には、推薦者の資格に関する規定はありません。国(政府)はもちろん、自治体、団体、さらには個人までもが、UNESCOに推薦書を提出することができます。2010年には福岡県田川市と福岡県立大学が、記録絵師・山本作兵衛が残した炭鉱画や日記類697点を推薦。11年の会議で登録が認められ、国内第一号の記憶遺産となりました!!

高まる国内での知名度
続々と「登録候補地」が名乗りをあげる

 「山本作兵衛コレクション」の登録をきっかけに、国内では世界の記憶の知名度が急上昇。全国各地で「おらが村にも記憶遺産を」という動きが見られ、すでに「上毛三碑」(じょうもうさんぴ=群馬県)、「舞鶴引揚記念館」(京都府)、「知覧特攻隊の遺品」(鹿児島県)などが名乗りをあげています。
 注目されるとすぐに飛びつくのが日本人の極端なところ。しかし「史料」という、世界遺産に比べ決して華やかではない、むしろマイナーかつニッチなジャンルが脚光を浴びるのなら歓迎すべきことだと思います。
 2013年には日本国政府が推薦した「御堂関白記」(みどうかんぱくき)と「慶長遣欧使節関連史料」の2件が新たに登録されました。海外からは、世界最古の星図といわれる「ネブラ・ディスク」(ドイツ)が工芸品でありながら登録されるなど、「世界の記憶」の幅はますます広がるいっぽう。今後もどんな「記憶」が推薦・登録されるのか、注目していきたいです。


作成 2013.05.19
浦に〜と


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