アジアの「世界の記憶」
・説明文は原則としてUNESCO公式サイトからの抄訳です。一部、ほかの資料を参考にしたものは文末に注記しました。 ・写真は特記のないものはUNESCO公式サイトからの転載です。各写真に転載元のリンクを貼っています。 |
■イラン |
名称 | 登録年 | 説明 | |
ワクフ文書:ラビ・ラシーディ(ラビ・ラシーディのワクフ)の13世紀の文書 The Deed For Endowment: Rab' I-Rashidi (Rab I-Rashidi Endowment) 13th Century manuscript |
2007 |
ラビ・ラシーディ(ラシード区)は、イルハン帝国の大法官であり、大著『集史』の著者として知られるラシード・アッディーン(1249/50〜1318)が整備した施設群。製紙工場や図書館、病院、孤児院、キャラバンサライ、さらには神学校まで開設され、はるか中国からも学生が訪れた。 |
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『バヤサンゴーリ・シャーナーメ』(バヤサンゴール王子の王書) "Bayasanghori Shâhnâmeh" (Prince Bayasanghor's Book of the Kings) |
2007 | イランの高名な詩人フェルドウスィー(941〜1020)の死から10年後に完成をみた叙事詩『シャーナーメ』(王書)は、ペルシア口語による古典文学作品であり、ギリシア・ローマ文学の『イーリアス』『エネーアース』にも匹敵するといわれる。科学や文学の分野でアラビア語が使われていた当時、フェルドウスィーはペルシア語のみを用い、現在6500万人が使うこの言語の復権と普及に貢献した。 複写を繰り返しながら、『シャーナーメ』は中央アジアからインド、さらにはオスマン帝国の版図にも影響を与えた。「世界の記憶」に登録された本件は、1430年にバヤサンゴール王子(1399〜1433)のために作成されたもので、現在はテヘランのゴレスタン宮殿で保管されている。 →この作品を読む Amazon.co.jp:王書—古代ペルシャの神話・伝説(岩波文庫)※抄訳・絶版 |
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サファヴィー朝時代のアースターネ・クドゥス・ラザウィーの行政文書 Administrative Documents of Astan-e Quds Razavi in the Safavid Era |
2009 | 938年に創設された巡礼者のための複合施設アースターネ・クドゥス・ラザウィーは、世界最古の慈善機関の一つとされる。「世界の記憶」の登録対象は、1589〜1735年に書かれた6万9000ページにおよぶ文書。サファヴィー朝時代の行政組織のアーカイヴとして、現存最大のコレクションだ。当時の社会・経済・宗教・農耕生活や、地震・洪水・干ばつといった自然災害を含む時代背景について、詳細に記録されている。 | |
『占星術教程の書』 Al-Tafhim li Awa'il Sana'at al-Tanjim |
2011 | イランの高名な科学者アブー・ライハーン・アル・ビールーニー(973〜1048)がまとめた自然科学の手引書。数学や占星術を記したペルシア語の著作として現存最古のもの。アラビア語版も現存するが、どちらがアル・ビルーニーの手によるものなのか、あるいは、いずれもアル・ビルーニーの作であるかは明らかではない。初心者に占星術の基本を教えるために書かれたものであり、当時の知的状況を知るうえで類例のない貴重な資料。 参考/「ビールーニー著『占星術教程の書』(1)」山本啓二・矢野道雄訳、イスラーム世界研究2010年3月号所収 |
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ニザーミーの『パンジュ・ガンジュ』コレクション Collection of Nezami's Panj Ganj |
2011 | ニザーミー・ガンジャウィー(1141〜1209)は、生涯に2万句の叙情詩を残したとも伝えられるイランの詩人。当時の王者たちに献じられた5編の長編詩は、マスナヴィー体(定型詩の一種)として有名で、総じて『ハムセ』(五宝)とか『パンジュ・ガンジュ』(五部作)と呼ばれている。フェルドウスィーの『シャーナーメ』(王書)とともに、ペルシア文学史上最も重要な詩作とされる。今回、イランにて保存されている『パンジュ・ガンジュ』の古写本のうち、文字や装丁の美しさから5点が選ばれ、登録された。最古の写本はテヘラン大学が所蔵する1318年製のもの(左写真)。 参考/平凡社『世界大百科事典』 |
■インド |
名称 | 登録年 | 説明 | |
アジア研究所のタミール医学書コレクション The I.A.S. Tamil Medical Manuscript Collection |
1997 | タミール医学書の大半を所蔵するアジア研究所のコレクション。ヨガ行者により実践されてきた古代の医術をいまに伝え、薬用効果のある植物の葉や根、花、樹皮、果実の利用方法を記述している。 | |
TANAPより転載 |
オランダ東インド会社の文書 Archives of the Dutch East India Company |
2003 | オランダ東インド会社は1602年から1795年までの全活動期間をとおして、インドとセイロン島(スリランカ)の全域で活動していた。インド・チェンナイにあるタミル・ナードゥ公文書館には、これらの活動を記録した24万タイトルにおよぶ書類が保管されている。2003年にジャカルタ(インドネシア)、コロンボ(スリランカ)、ハーグ(オランダ)、ケープタウン(南アフリカ)で保管されている関連資料とともに「世界の記憶」に登録された。 左写真は17世紀初頭のインドの地図。このときすでにほぼ全域に商業圏をもち、ポルトガル商人に代わってインド交易を独占しつつあった。 ※インド、インドネシア、スリランカ、南アフリカ、オランダ共同登録 |
ポンディシェリーのサイヴァ写本 Saiva Manuscript in Pondicherry |
2005 |
主にシヴァ神信仰に関する、ヒンドゥー教サイヴァ・シッドハンタ派の1万1000点もの写本。同派は10世紀にヒンドゥー教の中心勢力となり、インド亜大陸からカンボジアにまで浸透した。コレクションは同派の教義やマントラ(聖句)を書いたものから、『ラーマーヤナ』(古代インドの叙事詩)、占星術にまつわる記述、そのほか様々な神話や伝説から構成される。1955年、ポンディシェリーにあるフランスの研究機関が収集を始めた。現在インド・フランス両国政府により、全文をオンライン登録し、各国の研究者に資料提供できる体制づくりを進めている。詳細は以下サイト参照。 |
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リグヴェーダ Rigveda |
2007 | ヒンドゥー教の聖典として知られるヴェーダは、人類最古の文学作品でもある。なかでもリグヴェーダは4つあるヴェーダのうち最も古く、前1000年までに成立した。マハーラシュトラー州プネーにあるバンダルカル研究所には2万8000点のヴェーダ写本が保管されているが、そのうちとくに貴重なリグヴェーダ写本30点が登録された。最古のものは1464年。 | |
ヴィマラプラバー laghukalacakratantrarajatika (Vimalaprabha) |
2011 | ヴィマラプラバーは、チベット仏教の聖典『カーラチャクラ・タントラ』の注釈書の一つ。東インドで使われたガウディー文字(古ベンガル文字)で書かれた10世紀の写本(左写真)と、ネパールのネワーリ文字で書かれた15世紀の写本の2点が登録された。 | |
『ティムール朝史』 Tarikh-E-Khandan-E-Timuriyah |
2011 | 20年以上の歳月をかけ、ムガル帝国アクバル帝(位1556〜1605)の治世の1578年までに完成した手書きの挿絵入りの書籍。ティムール(1336〜1405)に始まり、アクバル帝にいたる、ティムール朝およびムガル帝国歴代皇帝の歴史を詳細に記録している。 |
■インドネシア |
名称 | 登録年 | 説明 | |
TANAPより転載 |
オランダ東インド会社の文書 Archives of the Dutch East India Company |
2003 | 5カ国5館の共同登録となった東インド会社の文書。各地にて保存されている史料は、オランダが主導した文書保存計画のTANAP(Towards
a New Age of Partnership)プロジェクトによって管理・修復が進められてきたが、インドネシア共和国公文書館(左写真=同館書庫)は参画せず、オランダ国立公文書館と協同で保管作業を行っている。 ※インド、インドネシア、スリランカ、南アフリカ、オランダ共同登録 |
『ラ・ガリゴ』 La Galigo |
2011 | スラウェシ島南部で話されているブギス語は「美しく、かつ難解」と評価されているが、このブギス語で書かれた最も有名な書が、叙事詩『ラ・ガリゴ』である。その起源は王家の伝統にあり、14世紀には成立したと考えられている。上質な文学表現のなかに、イスラム以前の神話体系が表されているのが特徴。19世紀前半に書かれた217ページの写本(インドネシアのラ・ガリゴ博物館所蔵/左写真)と、1850年代に書かれた2851ページの写本(オランダのライデン大学図書館所蔵)が登録された。 ※インドネシア、オランダ共同登録 |
■ウズベキスタン |
■カザフスタン |
名称 | 登録年 | 説明 | |
ホジャ・アフメド・ヤサウィの写本コレクション Collection of the manuscripts of Khoja Ahmed Yasawi |
2003 | 中世チュルク語で書かれた、合計1400ページほどの写本。古代チュルク人の宗教文化の発展に寄与した、12世紀の聖人ヤサウィとその弟子の活動を記録する。 | |
国際反核運動「ネヴァダ・セミパラチンスク」の視聴覚記録 Audiovisual documents of the International antinuclear movement "Nevada-Semipalatinsk" |
2005 | カザフスタン北東部のセミパラチンスクには、旧ソ連が初めて核実験を成功させた実験施設があった。「ネヴァダ・セミパラチンスク」は、1989年に設立された旧ソ連初の反核NGO組織。カザフスタンに残る核実験施設の解体や、民衆による産業廃棄物の抑止、地域の生態系マップ制作などを目的に活動している。 「世界の記憶」には、大陸間弾道ミサイル基地であるサリ・オゼクの解体を記録した『サリ・オゼク 武器よさらば』など3本のフィルムをはじめ、写真、録音資料が登録された。 |
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アラル海の記録 Aral Sea Archival Fonds |
2011 | アラル海を襲った「生態学的悲劇」とそれへの抵抗の歴史を刻んだ記録群。アラル海は1960年代以降、急速に水量が減り、湖面面積は90%以上も減少した。65年から90年にかけてまとめられた調査報告書、法令、書簡などで構成され、アラル海の研究上、重要な手がかりを提供する。類例のない記録群であり、かつ、地球規模での自然保護に資することが高く評価された。 |
■カンボジア |
■スリランカ |
名称 | 登録年 | 説明 | |
TANAPより転載 |
オランダ東インド会社の文書 Archives of the Dutch East India Company |
2003 | 近世初期のヨーロッパ商社として、最も強烈な存在感を放っている東インド会社(1602〜1795)。5カ国5館で保管されている総計2500万ページにもおよぶ同社の記録が、「世界の記憶」の登録対象。 このうちオランダでの史料の保存状況は良好だが、そのほかの国では劣悪であることが多い。そのため、アジア・アフリカの文書保存と協力を推し進めるための共同登録だったといえるだろう。左写真はスリランカ国立公文書館の東インド会社関連史料倉庫。 参考/島田竜登著「歴史学はすでに『国境』をこえつつある グローバル・ヒストリーと近代史研究のための覚書」 ※インド、インドネシア、スリランカ、南アフリカ、オランダ共同登録 |
■タイ |
■大韓民国 |
名称 | 登録年 | 説明 | |
朝鮮王朝実録 The Annals of the Choson Dynasty |
1997 | 朝鮮王朝25代、470年間(1392〜1863)の記録。各王代の史実を、政府がそのつど編纂したものである。中国、日本、琉球、欧米との国交にまつわる記事もあり、東アジア国際関係の記録としても重要。日本では「李朝実録」とも呼ばれる。 →この作品を読む Amazon.co.jp:朝鮮王朝実録【改訂版】(キネマ旬報社) ※抄訳 |
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訓民正音(フンミンジョンウム)の写本 The Hunmin Chongum Manuscript |
1997 | 1443年、朝鮮王朝第4代の世宗(セジョン、位1418〜50)は、それまで使われていた漢字に代わって新たな表音文字として訓民正音を制定した。それが現在のハングル。文字名と同じ書名をもつ『訓民正音』は、その普及のため、1446年に作成された。 内容は、本編(8ページ)と解説(58ページ)の二部構成。本編の序文では、民族固有の文字をもつ意義を高らかに宣言し、それに続けて世宗が自ら考案した28字を紹介する。解説パートでは字形の意味、発音、使用例をこと細かに記述している。 現存する写本は2冊。このうち澗松(ガンソン)美術館の所蔵本(1940年発見)が登録対象。もう1冊は2008年に発見されたもので、欠落ページが多く状態はよくない。 →この作品を読む Amazon.co.jp:訓民正音(東洋文庫) |
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白雲和尚抄録仏祖直指心体要節(ペクウンファサンスリョクプルチョチクジシムチェヨジョル)(下巻)、高尚な仏僧による禅説法の第二集 Baegun hwasang chorok buljo jikji simche yojeol (vol.II), the second volume of "Anthology of Great Buddhist Priests' Zen Teachings" |
2001 | 略して『直指(チクジ)』。白雲和尚が編纂した禅に関する書物を、1377年に印刷したもの。活字は現存しないが、金属活字だったと考えられ、もしそれが事実ならば、知られる限り世界最古の金属活字本ということになる。上下巻があったが、上巻は消失し、韓国ではその「捜索」が続けられている。 なお、本件の所有者はフランス国立図書館だが、韓国の清州(チョンジュ)古印刷博物館の推薦で登録された。 |
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承政院日記(スンジョンウォンイルギ)、国王秘書室の日記 Seungjeongwon Ilgi, the Diaries of the Royal Secretariat |
2001 | 17〜20世紀初頭の朝鮮王朝の歴史を記した、最も信頼性の高い記録。とくに19世紀末以降、鎖国状態にあった朝鮮王朝が、ヨーロッパの影響を受けて開国するまでの過程が書かれている。1997年に「世界の記憶」に登録された『朝鮮王朝実録』の編纂に際し、重要な資料にもなった。 参考/韓国観光公社 |
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高麗大蔵経と各種仏典の木版 Printing woodblocks of the Tripitaka Koreana and miscellaneous Buddhist scriptures |
2007 | 1236〜51年に、8万1258枚の版木に刻まれた膨大な仏典。ブッダの聖句や教訓、僧侶の規則集などからなる。仏教伝播とともに、ブッダの教えはインドや中央アジアの諸言語から各地方の言語へ翻訳され、その訳文が版木に刻まれたが、現在アジア大陸部で完品として残るのは高麗大蔵経のみ。海印寺(ヘインサ、1995年に世界遺産に登録)に収蔵されている。 1枚の版木に刻まれた文字は、表・裏にそれぞれ約640字。版木の横幅はほとんどが68cmか78cm、縦幅は24cm、厚さは2.8cmで、重さは3.4kg。印刷や持ち運びに便利なように、両端に持ち手がつく。刻字は熟練の職人でも1日に40字程度が限度。そのため、少なくとも1日300人が作業にあたったと考えられている。 2000年、全文のデジタルデータ化が完了し、web上で公開されている。詳しくは以下サイトを参照のこと。 (社)蔵経道場高麗大蔵経研究所 参考/『Koreana』2011冬号(18巻4号)(韓国国際交流財団) |
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korea.netより転載 |
儀軌(ウィグェ):朝鮮王朝の国家儀礼書 Uigwe: The Royal Protocols of the Joseon Dynasty |
2007 |
朝鮮王朝時代(1392〜1910)に行われた様々な王室儀礼の記録であり、作法書でもあるという、ユニークな書籍。文字とイラストをもって、王室の冠婚葬祭の風景や日常生活を著している。当時の建築についての記録も豊富で、1975〜79年には『儀軌』の記述に基づき、伝統的な建材と工法で水原華城(スーウォンファスン)を復元。その後、華城は世界遺産に登録(1997年)された。 |
wikipediaより転載 |
東医宝鑑(トンイボガム):東方医術の百科事典 Donguibogam: Principles and Practice of Eastern Medicine |
2009 | 王の勅命で1613年に名医・許浚(ホジュン、1539〜1615)が編纂した伝統医術の百科事典。東アジアでの医学発展の歴史を伝える貴重な原典。18世紀以降、中国や日本でも刊行され、各国の医術発展に大きな足跡を残した。注目されるのは、薬の使用法だけでなく、予防医学や公衆衛生についても書かれていること。これらの概念は19世紀になって世界に広まったが、17世紀初頭にこのような書籍が編纂されていたことは驚嘆に値する。 国立中央図書館、韓国学中央研究院で保管されている初版が登録対象。 |
1980年5月18日に大韓民国光州(カンジュ)で起きた反軍事政権の民主主義運動に関する人権記録遺産 Human Rights Documentary Heritage 1980 Archives for the May 18th Democratic Uprising against Military Regime, in Gwangju, Republic of Korea |
2011 | 1980年5月18日から27日まで、光州を中心に展開された民主化運動(光州事件)と、その後の被害者補償に関連した文書・写真・映像・証言などの資料。5・18記念財団、国家記録院、陸軍本部、国会図書館と米国務省に分けて管理されている。光州事件は、大韓民国民主化の大きな転機になり、80年代以降、東アジア諸国の民主化にも少なからず影響を及ぼしたと評価されている。 参考/中央日報 |
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日省録(イルソンノク):日記記録 Ilseongnok: Records of Daily Reflections |
2011 | 1760年から1910年まで、国政に関する諸般事項を記録した編年体の記録。内容は重要項目別に簡潔に記述されており、各記事の冒頭にその内容の要約と表題をつけ、閲覧の便利を図っている。1873年の景福宮(キョンボックン)の火災で大部分が焼失し、492冊を修復した。 参考/ソウル文化財 |
■タジキスタン |
■中国 |
名称 | 登録年 | 説明 | |
伝統音楽の音源記録 Traditional Music Sound Archives |
1997 | 中国の伝統音楽に関する最も網羅的な資料。中国芸術研究院音楽研究所に保管されている7000時間以上の録音資料からなる。民謡、曲芸(伴奏つきの説話)、歌劇、伝統舞踊・現代舞踊、器楽演奏(ヨーロッパの楽器で演奏したものも含む)、宗教音楽、さらには物売りの掛け声までが含まれ、50以上の民族の音楽を保管している。 | |
清の内閣大学士の記録−中国における西洋文化の浸透 Records of the Qing's Grand Secretariat - 'Infiltration of Western Culture in China' |
1999 | 漢族文化が生まれて以来、中国は東洋文明の中心地であり続けてきた。その封建的な国家が、17世紀に近代ヨーロッパ文明と邂逅したことは、世界史上の重要なできごとといえる。当時の内閣大学士(清代の官職)が残したこの記録群は、17世紀の中国におけるキリスト教聖職者の活動をいまに伝え、中国の変容期の証拠として重要である。 | |
古代納西(ナシ)族の東巴(トンパ)文字写本 Ancient Naxi Dongba Literature Manuscripts |
2003 | 東巴とは中国南西部の先住民、納西族の司祭のこと。独特の儀礼と信仰をいまに伝えるが、最もよく知られているのが「現存する最後の絵文字」といわれる東巴文字だ。聖典を記す際に組み合わせて用いる、2000以上の絵文字である。しかし現代文化の影響を受け、その継承は危機に瀕している。東巴文字で書かれた歴史資料・写本は、雲南省麗江の東巴文化研究所をはじめ、中国内外で2万点が保存されている。そのうち複製品を除いたおよそ1000点が、「世界の記憶」に登録された。 | |
清王朝の科挙の金榜 Golden Lists of the Qing Dynasty Imperial Examination |
2005 | 中国では6世紀以降、国家公務員の選抜試験として科挙制度を運用し、清王朝時代まで続けられた。金榜とは科挙の合格者名簿のことで、黄色い紙に書かれたことがその名の由来。皇帝が閲覧するための小金榜と、市内に掲示するために清書した大金榜とがある。現在、第一歴史档案館にて、1667〜1903年に作成された200点の金榜が保管されている。中国語と満州語で書かれ、その流麗な文体により、美術的価値も高められている。 参考/歴史文物陳列館 |
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清王朝の様式雷 Qing Dynasty Yangshi Lei Archives |
2007 | 北京、天津、河北、遼寧、山西の各地に建てられた王家の建造物の図面集。18世紀半ばから20世紀初頭にまとめられた。各棟の配置から細部のプランに至るまで、きわめて詳細にまとめられていて、中国の建築史上、最も重要な資料群に位置づけられる。 | |
『本草綱目』 Ben Cao Gang Mu (Compendium of Materia Medica) |
2011 | 明代の医師・李時珍(1518〜93)が著した漢薬書。全52巻に1903種の薬品を記載している。完成までに26年を費やした。宋代までの漢薬書からの引用や、時珍が自ら各地をまわって実地見聞した内容で構成され、明代の薬物を研究するうえできわめて価値がある。1607年には日本に伝わり、江戸時代の薬学に大きな影響を与えた。 参考/『日本大百科全書』(小学館) |
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『黄帝内経』 Huang Di Nei Jing (Yellow Emperor's Inner Canon) |
2011 | 著者・制作年代ともに不明の中国の古典医学所。前漢(前206〜後8)末にはすでに存在していた。『素問』9巻、『霊枢』9巻からなっていたといわれる。その後、何度も複写や校訂をくり返したが、中国では南宋(1127〜1279)のころから亡失してしまった。「世界の記憶」に登録されたのは1339年の複写本で、中国国家図書館が蔵している。ちなみに日本の京都・仁和寺に14世紀の古写本が残り、国宝に指定されている。 参考/『日本大百科全書』(小学館) |
■日本 |
■パキスタン |
■フィリピン |
名称 | 登録年 | 説明 | |
フィリピンの古代文字(ハヌノー、ブイド、タグバヌア、パラワン) Philippine Paleographs (Hanunoo, Buid, Tagbanua and Pala'wan) |
1999 | フィリピン独特の音節文字は、人類が考案した最も特徴的な音節記号の一種といえる。少なくとも10世紀にさかのぼり、17世紀の文書に記録がある。現在でもミンドロ州のハヌノー族、ブイド族、パワラン州のタグバヌア族、パラワン族の間で継承されていて、とくに伝統的な韻文詩アンバハンの記述に使われている。 | |
フィリピン・ピープル・パワー革命のラジオ放送 Radio Broadcast of the Philippine People Power Revolution |
2003 | おそらく20世紀に起きた政治事件のなかで、もっともユニークなものが、1986年のフィリピン・ピープル・パワー革命(二月政変)だろう。自然発生的に沸き起こった民衆運動により、独裁者を平和裏に退陣させた革命である。4日間にわたって報じられた革命のラジオ報道の録音テープが、「世界の記憶」として登録された。 | |
ホセ・マセダ・コレクション José Maceda Collection |
2007 | 作曲家ホセ・マセダ(1917〜2004)が1953〜2003年に収集したフィリピンと東南アジアの伝統音楽の記録。1936年録音のテープ(合計1760時間)や、古写真、伝統楽器、マセダ氏のフィールドノートなどから構成される。コレクションは以下サイトで公開されている(音源はない)。 フィリピン大学学術誌センター |
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マニュエル・L・ケソンの公文書 Presidential Papers of Manuel L. Quezon |
2011 | マニュエル・L・ケソン(1878〜1944)はフィリピン独立準備政府の初代大統領(1935年就任)。彼の残した文書は準備政府の歴史そのものであり、フィリピンと米国の間で揺れた政府の姿をいまに伝えている。外国電報、書簡、演説やインタビューのブックファイルなど、その文書は多岐におよぶ。20世紀前半の東南アジアにおけるヨーロッパ諸国と植民地との関係史をひもとくうえでも、貴重な資料だ。 |
■ベトナム |
■マレーシア |
名称 | 登録年 | 説明 | |
ケダ州の後期スルタンの書簡(1882〜1943) Correspondence of the late Sultan of Kedah (1882-1943) |
2001 | ヨーロッパ型の植民政策が浸透する前のマレー半島のスルタンについて教えてくれる唯一の資料。全14巻にまとめられている。マレーシアのジャウィ文字を用い、スルタン一族の日常生活や州議会の議事、王家の予算・決算などが記録されている。 | |
『ヒカヤット・ハン・トゥア』 Hikayat Hang Tuah |
2001 | 『ヒカヤット・ハン・トゥア』(ハン・トゥア物語)は伝統的なマレー叙事詩であり、マレー文学の傑作とされる作品。ハン・トゥアは15世紀に実在した伝説的な英雄。仲間とともに暴徒を退治した功績でマラッカ宮廷に仕えたが、役人の計略にかかり、国王に処刑を命じられてしまった。すると、仲間の一人ハン・ジュバットが処罰の不当性を訴え、国王に反旗をひるがえす。のちに国王は自らの裁定の過ちに気づき、ハン・トゥアに謝罪。謀反者であるハン・ジュバットの討伐を命じた。国王への忠誠と友情の間で苦しみながらも、最後には忠誠を立てたハン・トゥアの行動と、彼に討たれたハン・ジュバットの生きざまは、マレー人の生き方の具現である。 マレー人であればだれもが知っている有名な古典だが、作者は不詳。「世界の記憶」には、マレーシア国立図書館で保管されているおよそ200年前の写本2点が登録された。 参考/マレーシア百科 |
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『スジャラ・ムラユ』(マレー年代記) Sejarah Melayu (The Malay Annals) |
2001 | 15世紀〜16世紀初頭のマレー半島のスルタン領に関して記述した唯一の資料。史実と神話的記述(伝承・伝説を含む)とが絶妙にからみ合い、大マレー海洋帝国の起源から崩壊までを描いた一大歴史文学の様相を呈する。当時の社会体制や政治についても記録され、マレーの王権を考察するうえできわめて貴重な情報を提供してくれる。「最も重要なマレー語の歴史書」「マレー文学の王座を占める」などと評価されている。 参考/『民族學研究』46巻1号(1981年)所収、「『スヂャラ・ムラユ』の構造」 |
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トレンガヌの碑文 Batu Bersurat Terengganu (Inscribed Stone of Terengganu) |
2009 | 1303年に作成された、現存する最古のジャウィ文字の碑文。ジャウィ文字とはマレー語を表記するためアラビア文字をもとに作成された文字である。石碑は高さ89cm、幅は頂部で53cm。四面すべてに碑文が刻まれ、マレーシアでのイスラム教の普及などを記録している。 |
■モンゴル |