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▲タリアセン・ウエスト Photo credit:Fine Arts Department |
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解説/文=収斂さん 米国の近代建築を確立した英雄、F・L・ライト フランク・ロイド・ライト(Frank Lloyd Wright)は、アメリカの近現代建築、すなわち「民主的アメリカ建築」を確立し、それまでのアメリカ富裕上流社会に多く見られたヨーロッパ様式の建築から、アメリカ建築を自立させることに成功した英雄とみなされている。そしてそのことは、いまでも高い評価を得ており、彼の作品はアメリカ合衆国の貴重な建築文化財として、保護の対象になっているものが多い。 <注意1>作品番号は、フランク・ロイド・ライト研究の第一人者である、ウィリアム・アリン・ストーラーが再編したものを使用した。
彼が生きた20世紀初頭の建築は、それまでの様式中心の流れからの脱却が叫ばれ、混沌としており、機能性重視の建築、および一般大衆向けの住宅の模索がなされた時期でもあった。
ちなみにこのユニットシステムは、日本建築に見られる「畳」という概念にきわめて近い発想である。すなわち、畳の枚数で部屋の広さが規定され、ふすまや障子の寸法も畳の長さと対応させることで部屋の高さも決まり、柱の数から構造までが、互いに相互作用しているのである。
彼の作風は、プレーリー建築からユーソニア建築、有機的建築と進化していく。ユーソニア建築(Usonia : United States of North America)とは、もともとは英国の作家サミュエル・バトラーの造語だが、ライトが使うユーソニア建築とは「住むための空間」という意味であり、平均的なアメリカ人のための建築という感じが強い。よって構造上のものではなく、むしろ哲学に近い。この理想を実現するために用いられた手法が、ユーソニア的と解釈されている。ただし定義はいろいろあるのも事実である。
ユーソニア建築では、最も重要な空間として「居間(living
room)」、すなわち家族全員が共有する空間をかかげ、住宅建築の中心にすえる。そのため一般的に居間が最も大きい部屋として設計され、副次的活動領域である仕事場、台所は小さい。
「有機的建築」とは基本的に、プレーリー建築からユーソニア建築までの特徴をすべて含んだものと理解すればよいだろう。合理的でむだがなく、空間全体がそれぞれ機能的で、価格も施主の意志に沿ったもの、ただし建築は美しくなくてはいけない、という考え方である。
ライトはよき指導者でもあった。彼のもとでは多くの建築家が育っている。例えばウォルター・バーリー・グリフォン、バリー・バーン、マリオン・マーフニー、ウィリアム・ドラモンド、ジョン・H・ハウ、カール・カムラス、アーロン・グリーン、ウィリアム・ウェスリー・ピーターズ、ニルス・シュバイツァー、ジェームズ・フォックス、モートン・デルソン……などがそうだが、このほかにも多くの建築家が彼の有機的建築を受け継いでいる。なかでも
ジョン・H・ハウの建築が、最もライトのものに近いという。 ライトの建築を語るなら、タリアセン*とタリアセン・ウエスト*だけでは全然たりないだろう。むしろライト自邸(1895年当時)、モリスギフトショップ、バーンズドール邸、エニス邸、ハナ邸(ハニカムハウス)、ジョンソン・ワックス・ビルおよびジョンソン研究棟*、ダナ邸、ユニティ・テンプル*、ロビー邸*、カウフマン邸(落水荘)*、グッゲンハイム美術館*、プライス・タワー*、ベス・ショ−ロム・シナゴーグ、ギリシャ正教会、マリン郡シビックセンターの建築群*、ガメージ記念講堂などが、とくに重要になる。これらの多くがアメリカ建築会協会により、「アメリカ文化へのライトの建築的貢献の例として保存すべき17の建造物」として保存されている。 *これら9作品に、ホーリーホック邸を加えた10作品が、2008年に「フランク・ロイド・ライトの建築群」として暫定リストに記載された。 |
地元の建材でつくられたライト自邸の「タリアセン」
タリアセンはタリアセン・ウエストと対比するため、タリアセン・ノースとも呼ばれる。タリアセンとは「輝く頂」という意味のウェールズ語である。しかし現在はライトの自身が住んだ家や、フェローシップを招いた場所を指す意味で使われることがある。 タリアセン第一(作品172番) タリアセン第二(作品182番) タリアセン第三(作品218番) |
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「タリアセン・ウエスト」で試されたプレーリー建築 |