セロ・コロラド
Cerro Colorado


国名 アルゼンチン
分類 自然遺産
所在地 首都ブエノスアイレスの北西およそ700km


審議歴
1987年 登録延期 … ビューロー委員会では、本物件の文化的・自然的価値は国家的なものであり、世界遺産としての顕著で普遍的重要性はないとして、「不登録」との評価だった。世界遺産委員会では、文化的価値について注目され、登録基準の適用可否についてICOMOSの調査を待つため、審議を延期することとなった。
1988年 辞退 (詳細不明)
暫定リストへの掲載歴は不明。


解説/文=収斂さん
  アルゼンチンのコロラド山地(セロ・コロラド)にあるコルドバ山一帯(the Cordoba mountain area)の約30平方キロには、紀元前1000年ごろから近世までの、先住民 Comechigones の貴重な岩絵や生活の痕跡が密集していることで知られている。そしてアルゼンチンで最も重要な考古遺跡として、一帯は史跡公園に指定されている。

  この一帯には目印となる三つの丘があり、それぞれに特徴的な岩絵が描かれているとされる。岩絵の総数は、現在わかっているものだけでも3万5000以上もあり、1カ所にこれほどまとまって岩絵が存在する場所は世界的に見ても珍しく、昔からこの一帯が、宗教的に特別の場所だったことは確実視されている。とくに重要なものは、この丘の洞窟内に描かれた岩絵である。岩絵を有する洞窟は現在までに100以上も発見されているが、洞窟そのものが宗教的に重要な場所だったらしく、洞窟内壁はびっしりと岩絵で埋めつくされている。そういった岩絵は保存状態もよく、当時の宗教観や生活の様子を伝える貴重な考古資料である。また数は少ないが、丘のはるかに高い場所に意図的に描かれた岩絵もあり、今後の研究が待たれる。岩絵の顔料は赤、黒、白が基本色で、とくに赤色は周辺から採取される赤い砂を使っている。また、緑色が使用されている岩絵もあり、これはパームや corab tree や quebrachos など植物の樹液から抽出したと考えられている。

  岩絵の画題は、当時の生活の様子を描写したタイプと、抽象的な模様の2種類に大別できる。後者の抽象的な岩絵は、波模様や連続した縞模様などさまざまだが、その意図するものの詳細はまだほとんど解明されていない。考古学的研究は、むしろ主題がはっきりとした具体的な岩絵のほうが先行している。この種の画題は大まかに2種類に分けられる。一つは狩猟の様子である。このようなタイプの岩絵は世界各地の岩絵とも共通した、最も一般的なものである。こうした狩猟岩絵には、ピューマ、コンドル、ラマ、フクロウ、各種の爬虫類などが描かれているが、いまではこの地域から絶滅したり、数が極端に少なくなった動物も多く含まれている。

  もう一つタイプの岩絵は、15〜16世紀からこの場所に進出したスペイン人と先住民との戦争の様子を伝えるものである。実はこのタイプの岩絵が案外多いのだ。このことは、コロラド山地一帯が、征服者との戦いに勝利を祈願するためにも使われた、宗教上とても重要な場所だったことを意味している。岩絵に描かれている戦いの様子はきわめて詳細で、スペイン人は馬に乗り、先住民が弓で応戦している様子がはっきり描かれている。これは文字をもたなかった原住民の視点から当時の様子をとらえた貴重な歴史資料であり、世界的にも珍しい。

  このコロラド山地一帯からは岩絵ばかりでなく、当時この周辺に住んでいた先住民の生活遺構も多く発見されている。そのなかには石や骨でできた、やじりや斧といった武器も少なくない。こういった文化財は公園内にある博物館で見ることができる





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