解説/文=収斂さん
日干し煉瓦でつくられた古代遺跡
トルヒーヨはペルー北部のモチェの谷に挟まれた海岸沿いにあり、一年中温和な気候に恵まれた、ペルー屈指の歴史・観光都市である。トルヒーヨにはスペイン人の征服以前の、プレ・ヒスパニック時代(the
pre-Hispanic
period)に栄えたチムー王国(the
Kingdom
of
the
Great
Chimu)(注)やモチェ文明といった時代に建設された、アドーベ煉瓦(adobe:米国南部からメキシコ一帯に伝わる伝統的日干し煉瓦)でできた遺構が残っている。また植民地時代からペルー共和国建国初期に建てられたコロニアル風の大邸宅や教会も多数現存している。さらにマリネラ(marinera)というペルー独特のダンス舞踊もここが発祥の地であり、ペルーの伝統文化史上極めて貴重な都市である。
(注)チムー王国の首都のチャンチャン(Chan-Chan)もトルヒーヨ近くのモチェの谷(Moche
valley)にあり、これもアドーベ煉瓦を主な建築材としている有名な遺跡だ。チャンチャンは、泥でできた遺跡としては世界最大規模(面積は約20平方キロ)を誇り、1986年に世界遺産に登録されている。しかし、泥でできた都市遺跡(チャンチャンに限らず)は保存が難しく、また文化財盗難が極めて深刻で、同年に「危機にさらされている世界遺産」にも登録された。以来、有効な対策がないまま現在に至っている。
トルヒーヨにあるプレ・ヒスパニック時代の遺構としては、高さ20メートルの階段ピラミッドのワカ・デル・ソル(the
Huaca
del
Sol)や、アドーベ煉瓦でできた高さ30メートルのピラミッド、コンプレホ・デル・ブルホ(the
Complejo
del
Brujo)、美しい壁画で知られるワカ・デ・ラ・ルナ(the
Huaca
de
la
Luna)などが有名である。
窓の装飾が特徴的なコロニアル建築
トルヒーヨは、チムー王国やモチェ文明が滅亡してから16世紀初頭までは無人の原野だったが、パチャカマ(Pachacamac:現在のリマ近くの歴史都市)に向かってモチェ川(the
Moche
river)を進んでいたディエゴ・デ・アルマグロ(Don
Diego
de
Almagro,
1479-1538)がたまたまこの場所を通過したとき、彼はこの一帯の地形が新たな都市建設に最適と考えた。そして1534年に、現在みられるコロニアル風のトルヒーヨの街を建設した。なおトルヒーヨの街の名前は、1533年にペルーのインカ帝国を征服したフランシスコ・ピサロ(Francisco
Pizarro)の出生地であるスペインの街にちなんで、彼が名づけたものである。
トルヒーヨの街は建設されるやいなや、周辺の物資の集散地として急速に発展した。そして大きなキリスト教の教会や大邸宅がいくつも建設されたが、こういった建築の多くは、とくに窓の部分に繊細で卓越した装飾をもっていることから、「トルヒーヨ建築」という一つの建築様式として見なされるまでになった。主な歴史文化財は以下である。
中央広場
The
Main
Square
典型的なコロニアル風の広場であり、スペイン風の建築や教会、市公会堂、1824年創立の国立トルヒーヨ大学(Universidad
Nacional
de
Trujillo)、リベルタドール・ホテルなど、伝統的な歴史文化財が密集している。
コロニアル様式の大邸宅
トルヒーヨには、主に植民地時代からペルー共和国建国初期に建てられた、貴族階層や豪農の邸宅が残る。当時はそれぞれの邸宅が多彩な色を塗られていたという。主なものは以下の通り。
・Ganoza
Chopitea
:
トルヒーヨにあるコロニアル様式の大邸宅の代表で、街のシンボル的存在。
・Casa
de
la
Emancipacion
:
1820年12月29日にこの場所で独立運動が起こった記念すべき場所。
・そのほか、Condes
de
Aranda,
Mariscal
de
Orbegoso,
Palacio
de
Iturregui,
Casa
del
Mayorazgo
de
Falcala,
Bracamonte,
Calogne
などが代表的。
カテドラル
The
Cathedral
1647〜66年に建設され、1768〜81年に再建された。内部、外部ともに美しい装飾が施され、説教台やその背後の祭壇装飾(アルターピース、Altarpiece)はバロック様式からロココ様式である。コロニアル風の宗教絵画や彫刻も多く収蔵し、博物館も併設されている。
それ以外のコロニアル様式の教会群の主なものは以下の通り。全体的に、金や銀で過剰なまでの装飾が施されている美しい建築である。
エル・カルメン教会・修道院
Iglesia
y
Monasterio
El
Carmen
1725年に建造。1759年の地震で多くが破壊されたが、幸いなことに説教台や祭壇装飾は破壊を免れた。これは1759年に
Fernando
Collado
de
la
Cruz
がつくった傑作で、全体を金や銀で装飾した貴重なものである。この教会はその後、人々の熱意によって再建され、いまではトルヒーヨで最も有名で貴重な教会とされる。
ラ・メルセド教会
Iglesia
La
Merced
1636年に建設された教会で、屋根は美しく彩色され、正面は平らになっている特徴がある。またこの教会には裁判所として利用されていた古い女子修道院もある。収蔵品としては、トルヒーヨで唯一のロココ式のオルガンがある。
サンタ・クララ教会
Iglesia
Santa
Clara
美しい説教台と祭壇装飾があることで有名。
サント・ドミンゴ教会
Iglesia
Santo
Domingo
碑文によると、この教会は1641年に黒人奴隷達の寄付で建設された。説教台はリマノサンタ・ロサ(Santa
Rosa
de
Lima)に捧げられたものだという。
サン・フランシスコ教会
Iglesia
San
Francisco
この教会も美しい祭壇装飾と保存状態のいいルネサンス様式の説教台があることで有名で、サン・フランシスコ・ソラーノ(San
Francisco
Solano)がここで説教したことでも知られている。
ラテンアメリカ・カリブ海地域の裏世界遺産目次へ
裏世界遺産の館目次へ
|