解説/文=収斂さん
バラヤン湾を望む小高い丘の上にタール旧市街がある。この街は1732〜54年までバダンガスの州都として発展し、いまではフィリピンで最も美しい街として、市街地全体が文化遺産指定(Taal
Heritage)を受けている。
タールはパンシピット川(Pansipit
River)の東に栄えてきた。古い街並みには、植民地支配を受けていたときに建てられた教会や大聖堂とともに、高床式の木造家屋やコロニアル風の石造りの家が多く残っている。
聖母マリア・カイササイ教会(Church
of
Our
Lady
of
Caysasay)
パンシピット川の東岸にある教会。高さ27センチという小さな木製マリア像を安置している。このマリア像は1603年に、地元の漁師が偶然網の中から引き上げたものだ。このマリア像には不思議な話があり、教会中でどんなに大事に保管していても、ときどき見つからなくなるという。そして、その都度、思いがけぬ場所から発見されてきたという。
あるとき、また紛失事件が起こり、すぐに発見されるのだが、そのときすぐそばにカイササイという種類の鳥がいて、マリア像を見守っていたという。この話は街で評判になり、以後教会はカイササイ教会と呼ばれるようになった。教会内部の天井画は、そのときの逸話を描いている。
奇跡の井戸(Miraculous
Well
of
Sta.
Lucia)
カイササイ教会のすぐ近くにある。聖母の姿が現れたという逸話があり、いまでもこの井戸水は万病に効くといわれ、来訪者が絶えない。
タール大聖堂(Taal
Basilica)
タール旧市街といういうよりも、フィリピンが誇る重厚な大建築である。全幅95メートル、奥行き45メートルという規模は、東アジアの教会建築では屈指の大きさをほこる。しかしながらこの教会は、1754年のタール火山の噴火や1849年の地震など、数々の天災で破壊されてきた。現在の建物は1856年に再建されたものだ。タール大聖堂はフランスの守護聖人と同じく、聖マーティンを祭っていて、毎年11月11日に盛大なお祭りがある。
このタール旧市街は、1989年に世界遺産に推薦されながら落選した経緯がある。その苦い経験から、市民の景観にかける情熱は強く、それまで以上に街の美観が整ったといわれている。いまは、バダンガス州一番の観光名所になっている。
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