フヴスグル湖と近隣のシャーマンやツァータンの景観 (2003年の推薦名)
Hovsgol Lake and nearby Shamanistic and Tsaatan Landscape

フヴスグル湖とその周辺 (2007, 08年の推薦名)
Hovsgol Lake and its Watershed

国名 モンゴル
分類

複合遺産(03年)、自然遺産(07、08年)

所在地 モンゴル北部。首都ウランバートルの北西およそ560km


審議歴
1996年 暫定リストに記載。
2003年 審議対象外 … 推薦書の内容が不十分であるため。
2007年 審議対象外 … 推薦書の内容が不十分であるため。
2008年 不登録 … 自然遺産の登録基準を満たしていない。


解説/文=収斂さん

世界の淡水の1%を保有する湖

  フヴスグル湖(Hovsgol)はモンゴルの北西部にあり、「モンゴルの深青の真珠」(dark blue pearl of Mongolia)の異名をもつ。フヴスグル湖は Hovsgol Nuur とか Lake Khovsgol とも書く。この湖は数百万年前に、バイカル湖周辺の地溝から延びた山脈や渓谷周辺に数多く形成された湖の一つで、世界でも屈指の古い湖である。湖の長さは136キロ、幅20〜40キロ、最深部は262メートルで、モンゴル最大、中央アジアでも2番目に大きな淡水湖である。湖の体積は380立方キロメートルであり、体積では世界14位の淡水湖である。そしてこれは、世界の淡水の1%以上に相当する。
  公園内には標高3491メートルのサヤン山脈(Sayan)があり、高山地域から、森林地帯、ステップ地域など、さまざまな植生、動物相が見られるが、湖に生息する生物(植物・動物)に関しては、200キロほど東にあるバイカル湖で見られる生物と酷似している。フヴスグル湖は海抜1,645メートルの高地にあるため、1月から3・4月までは湖表面が凍結する。
  湖には96もの河川が流れ込むが、湖から流れ出る川はエギーン川(the Egiin River)だけである。エギーン川は南東に流れ、セレンゲ川(the Selenge River)に合流し、モンゴルで最も人口が密集した地域を流れ、生活用水を提供している。モンゴルの水需要の約70%は、このフヴスグル湖からまかなわれている。ただし支流のHankh川や Khoroo川は渡り鳥の貴重な中継地でもあるため、野性鳥類保護地域が設定されている。


本格的な学術調査は10年前に開始

  モンゴル政府の民主化政策の影響で、湖が国立公園化されたのは1992年のこと。公園面積は8380平方キロあり、現在、モンゴルで最も厳格な自然保護がされている特別な国立公園だ。湖の透明度はとくに素晴らしく、また、周囲の自然の美しさも目を見張るものがある。
  95年に自然科学アカデミー(the Academy of Natural Sciences [ANSP])が、モンゴル国立大学(National University of Mongolia)とモンゴル科学アカデミー(the Mongolian Academy of Sciences [MAS])と共同で、湖とその周辺地域の調査を行った。この調査はアメリカとロシアの大学や研究機関からも調査隊が参加した、大規模なものだった。その後もさまざまな国際機関が調査を継続して行い、現在、分析や分類が行われている。
  これまでのところ、湖周辺には68種類の哺乳類の生息が確認されている。主なものはヘラジカ、ジャコウジカ(musk deer:中部、東部アジアに生息する角なしの小鹿で、雄は腹部から麝香[じゃこう]を分泌する)、オオツノシカ(エルク)、トナカイ、アルガリ(argali:中央アジアに生息し、角が大きく曲がるヒツジの一種)、アイベックス(ibex:ヨーロッパ、アフリカ、アジアのヤギ属のうち、野性のヤギの総称)、クマ、オオヤマネコ(lynx:アフリカ、北米、ユーラシア産のオオヤマネコ属の総称)、テン、 ビーバー、 オオカミなどである。
  また244種類の鳥類、約750種の植物が見られる。このなかには、薬草として昔から利用されてきた稀少な植物が約60種含まれる。固有種の割合(the level of endemism)は生息種の10〜20%と考えられているが、学術調査があまりされてこなかったので、詳細はまだ不明である。


トナカイの放牧で生活を営むツァータン族

  ツァータン族(Tsaatan)とはモンゴル語で「トナカイを放牧して生活する人々」という意味で、フヴスグル湖の北と南を走る山脈地域の森に住む少数民族である。草原で馬や羊の放牧で暮らすイメージが強いモンゴル国内では、森でトナカイを飼うツァータン族の文化や思想は特異とされている。
  ツァータン族の起源は、現在のロシアから南下したトルコ語系のトゥヴァ族(Tuvinian)の一派とされ、彼らの言語の語源は、モンゴル国境近くのロシア領内で同様のトナカイ放牧生活をしている Dukha族に近いとされている。ツァータン族とDukha族は、ともにタイガで生活する代表的な少数民族だが、今日、昔ながらの生活を守るツァータン族は、モンゴル国内にたった30〜40家族しかいない。
  なお、フヴスグル湖周辺国立公園内では、Khalkh族、ブリヤート族(the Buryat)、Darkhat族などが、毎年決まった時期にやって来て放牧を行うことが認められている。

<現在の問題点>
  公園内には Khatgal と Khankh の町がある。互いに湖の対岸にあるため、これら2つの町を結ぶ道路が、湖畔に沿って建設されている。そのため湖の周辺部には人間の影響が出ている場所もある。全体的にはまだ大丈夫なレベルであるが、湖への汚染物質の流入は常に心配されている。また過度の放牧や森林の不法伐採、クマやシカ、エルクなどの密猟の問題も深刻である。



参考サイト
http://www.acnatsci.org/~gelhaus/chapters/lake_hovsgol.htm






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