ハワール諸島
Hawar Islands


国名 バーレーン
分類 自然遺産
所在地 バーレーン島の南西部。バーレーン島とカタール半島に挟まれた海域


審議歴
2001年 暫定リストに記載。
2004年

登録延期 … 現地調査したIUCNは、「不登録」との判断を下した。バーレーン政府が登録根拠とした基準(9)に関しては、「本物件の海草原は国境を越えて広がっているし、島しょの形成に関連する地質学的過程も世界的に見てはそれほど珍しいものではなく、すでに本物件よりも優れた見本として世界遺産に登録されている場所が存在する」とし、(10)に関しては、「本物件は世界で二番目に多くのジュゴンが生息する場所であり、ペルシャウにとって世界でもとくに重要な繁殖地である。だが、ジュゴンはサルワ湾の海域を移動し、生息地のすべてが本物件で保護されているわけではない。また、海鳥の生息地としても、ここよりも多様性に優れる場所は世界中に多く存在する」とした。
しかし世界遺産委員会はIUCNの報告を受け、バーレーン、カタール、アラブ首長国連邦、サウジアラビアの4カ国による共同推薦を示唆。各国に対し、「限定的な地域のみの推薦ではなく、国境をまたいだ広範な海洋地域(サルワ湾)の推薦が可能か、調査するように」と求め、本物件の登録審議を延期することとした。


解説/文=収斂さん+浦に〜と

  ハワール諸島はバーレーン島の南西24kmに位置し、16の島からなる多島海を形成している。面積は38平方キロ。島の周囲の浅い海底にはサンゴ礁があり、昔は真珠の採取地としても有名だった。現在の住民はおよそ5000人で、ほとんどが漁師である。


66年間にわたり繰り広げられた、カタールとの領有権争い

  ハワール諸島は、美しい自然景観よりも、1935年からバーレーンとカタールが領土問題で対立したことで有名である。発端は1925年にバーレーンで油田が発見されたためだった。両国間の最初の武力衝突は37年8月に起こった。このときは、当時バーレーンを植民地支配していた英国が調停に入り、39年にバーレーンの首都マナマで開催された会議では、ハワール諸島はバーレーン領であることが確認された。しかしカタールは納得しなかった。

  1975年6月にカタール政府は、39年の協定は無効であるという声明を一方的に発表し、現実的な打開策として、バーレーンからのハワール諸島の購入案にまで言及した。78年4月、カタールの沿岸警備隊が、バーレーンの漁船がハワール諸島近海に近づくことを妨害する事件が発生。バーレーン政府はすぐに海軍を派遣し、両国間の緊張は一気に高まった。さらに86年4月26日、カタール軍が Fasht-el-Dibal島という小島に上陸し、 29人のバーレーン人を13日間も拘束するという事件も起きた。
  そこでサウジアラビアと湾岸協同評議会(Gulf Cooperation Council)が調停に入ったが、バーレーン政府は、ハワール諸島のほかにも、歴史的にバーレーンを統治してきたカリーファ家(the Khalifa family)の所有地だったズバラ地方(the Zubara area)の返還をカタールにつきつけ、一方、カタールはハワール諸島、およびその近海にある Qitat Jaradahサンゴ礁の領有権を要求したため、話し合いは決裂した(91年11月)。
  92年4月17日、カタールはそれまでの海上の国境線を、従来の国境線より12マイル(約19km)もバーレーン側に延長したため、バーレーン政府はただちにハーグの国際司法裁判所(the International Court of Justice in The Hague)に提訴した。

  2001年3月16日、ハーグの国際司法裁判所は、湾岸協同評議会の監督・立会いのもと、ハワール諸島と Qitat Jaradah浅海はバーレーン領であると認定し、一方、ズバラ地方と Fasht-el-Dibal島周辺の浅海はカタール領であるという決定を下し、ようやくこの領土紛争は決着した。


アラビア半島のラムサール湿地第1号

  ハワール諸島は周辺海域を合わせた約581平方キロが保護地区に指定されている。バーレーンのTubli Bayとともに、1997年にはアラビア半島で最初のラムサール条約登録湿地となった。ちなみに2008年現在も、アラビア半島のラムサール湿地はこの2カ所のみである。
  ここはとりわけシギ類をはじめとする鳥類の繁殖・越冬地として重要な場所である。また、地球上に40万羽がいるペルシャウの1割がコロニーをつくっていることや、世界的に絶滅の危機にあるジュゴンにとって貴重な生息地であることでも知られる。
  ペルシャ湾は平均水深35mの浅い海で、外洋とつながった水道(ホルムズ海峡)が狭く、海水の流出入量が少ないことなどから、塩分濃度が高いのが特徴である。そのペルシャ湾の内部にあるサルワ湾に、ハワール諸島は位置している。諸島を構成する石灰岩の小島は、ほとんどが海岸に向け緩やかに傾斜した平坦な砂漠の島だが、ところどころに20〜30mほどの崖をともなう丘陵性の地形を見ることができる。


多島海ならではの複雑な潮流がはぐくむ生態系

  ハワール諸島周辺では、水深5m以上のところはほとんど見られない。また、小島や岬が連なる地形の影響から、周辺海域は塩分濃度や透明度、潮流も一定ではない。そのような変化に富んだ潮間帯や海岸地帯による生態学的・生物学的過程が、ハワール諸島の顕著な特徴である。 亜潮間帯にはウミジグサやウミヒルモなど、ジュゴンの食草にもなる植物が生い茂る。そして海底に散在する巨石には、ハオリムシやカイメンのような固着動物が。干潟では、ゴカイ類や二枚貝といった数多くの無脊椎動物が見られる。これらの小動物が、数千羽にのぼる鳥類にとって欠かせない食料源になっているのである。
  ハワール諸島の植物には、特徴的なサルワ湾の植物景観を構成するハマビシソウ科ハマビシ属、ナス科クコ属に属する種のほか、塩性湿地性のアカザ科の種が含まれる。しかしハワール諸島で重要な植生といえば、低木林である。低木林はあらゆる動物に生息環境を与えているばかりか、ミサゴなどの鳥類に巣材を提供するなど、極めて重要な生態的意味をもっているのである。
  このような植物が茂るハワール諸島の陸地には、ヒメミユビトビネズミ、フトスナネズミなど砂漠性の小動物や、エジプトトゲオアガマなどのトカゲ類が生息している。


多くの水鳥がコロニーを形成。ジュゴンの個体数は世界第2位

  ハワール諸島の代表的な海生動物がジュゴン(IUCNレッドリスト「危急種」指定)で、世界で2番目に多い7,000頭以上がここに集まっている。 またハワール諸島はアオウミガメ(同「絶滅危惧種」指定)の生息地としても重要で、サルワ湾内のサウジアラビア沿岸部の島々では、毎年1,000匹が産卵のため上陸する。
  顕著な鳥類多様性はハワール諸島の東側で見ることができる。毎年、繁殖のために多くの渡鳥が飛来し、世界でも他に類を見ないほどの巨大なコロニーが形成される。鳥類の種数など未解明の部分もあるが、ペルシャ湾に固有のペルシャウ(同「危急種」指定)や、サギ・ミサゴなどの鳥類に安定した繁殖地を提供する、類例のない場所である。とくにペルシャウはハワール諸島の象徴とも言える鳥で、世界に2つあるペルシャウの大コロニーのうち1つがここに形成され、その数は4万羽以上にのぼる。



参考ウェブサイト
http://www.fahnenversand.de/fotw/flags/bh%7Dhaw.html
http://www.wetlands.org/RDB/Ramsar_Dir/Bahrain/BH001D02.htm
http://www.adias-uae.com/publications/Hawar-MP.pdf






アラブ諸国の裏世界遺産目次へ

裏世界遺産の館目次へ