|
解説/文=収斂さん セントヘレナレッドウッド最後の自生地 セント・ヘレナ島が最初に発見されたとき、島の高地全体にわたってレッドウッド(redwood)の広大な森が広がっていた。この島のレッドウッドは幹がまっすぐに成長する特徴があり、また成長しても木の高さは6メートルくらいの中木である。葉は美しいパールグリーンをしており、長さ75ミリ、幅50〜60ミリである。葉は年をとるとすぐに黄色に変色し、小さな斑点がついてすぐに落葉する。花は長さ75ミリ、直径50ミリで、純白色だが、開花後しだいにピンク色に変わり、枯れると深紅になる。また開花時期は11月だが、1年中花を咲かせることもある。ちなみに一般にレッドウッドといえば、100メートル以上に成長する北米産スギ科の植物を指すことがあるが、これは和名でセカイヤメスギといい、セント・ヘレナ島のレッドウッドとは別種である。(区別するため、セント・ヘレナの種をとくに「セントヘレナレッドウッド」と呼ぶこともある)。 このレッドウッドの木は素材がよく、材木として利用しやすかったうえ、樹皮も、なめすことによってさまざまな生活用具に加工できた。そのため入植者たちによってあっという間に切りつくされ、1718年には早くも島のほとんどの地域で消滅し、ダイアナ山とハイ・ピーク山付近でしか見られなくなった。20世紀に入るころまでに現存していたレッドウッドは、いくつかの私立植物園と、ハイ・ピーク山のピーク・ガット(Peak Gut)の滝の下で生き残っていた一本だけになっていた。しかしその最後の一本も1960年代初頭に枯死した。つまり現在、自然の中で生き残っているレッドウッドは完全に絶滅し、レッドウッドの保護林といわれているキャベツ・ツリー林地(Cabbage Tree Woodland)にも野生株は存在しない。現存するレッドウッドは、研究用にスコットランドに移植された株と、ハイ・ピーク山とプレザント山(Mount Pleasant)の株だけである。
今日、レッドウッドは、同種交配が続いたため、樹高はせいぜい3メートルまでしか成長しない。また幹も真っ直ぐに成長するものは稀で、形がゆがんで成長するなど、奇形が見られる木がほとんどである。そこでノーマン・ウィリアムス(Norman Williams)のグループは、レッドウッドの木の上方にある枝を人工的に広げることで成長を早め、樹高を4メートルまで回復させる取り組みをしている。この方法は自然治癒力で樹木の活力を伸ばそうとういうものである。また育てたレッドウッドの苗木を、島のレッド・ロック(Red Rock)に移植する試みも行われている。しかしどの苗木も自己受粉で育てたものなので、同血統交配の弊害が深刻なことは変わらない。
そこで1997年4月に、ダイアナピーク国立公園(the
Diana's
Peak
National
park)に、スコットランドの株と島の株を交配させた、異種交配株の苗木が初めて移植された。この苗木が成長すれば、レッドウッドの森の回復も期待できる。しかし必ずうまくいくという確証はない。なぜなら、これまでの過度の同種交配によって、遺伝情報が回復できないほど弱くなっている可能性もあり、むしろ逆に、レッドウッドの成長に致命的な悪影響をおよぼす危険も指摘されている。 |