解説/文=収斂さん+浦に〜と
北極圏の代表的な景観と生態系
2万8500平方kmもの広大な面積を有するレナ川三角州は、北極圏における主要な景観のすべてが観察される場所であり、北極圏の要所ともいえる。デルタの北西部には典型的なツンドラの植生帯が見られ、南部にはいくつもの中州の島々があり、一部では山岳地帯まで形成されている。このデルタ地域のツンドラでは比較的多くの植物が見られ、400種近い草木・木本類のほか、100種を超える蘚苔類や、70種以上の地衣類が確認されている。レナ川の河口付近は海水と淡水が混じった汽水域となっており、プランクトンや湖底生物などの水生態系を探査するうえで、格好の場を提供している。
またレナ・デルタは、北極圏における渡り鳥の営巣地として中心的な役割を果たす場所であり、118種の鳥類が確認されている。哺乳動物としてはカリブーやホッキョクギツネなど17種が確認されていて、とくにロシアのレッドリストに記載されているセイウチなど、全体的に生息数が減少傾向にある。
世界第10位の大河、レナ
レナ川はロシアを代表する大河で、長さは4400kmで世界第10位。そして流域面積は、249万平方kmという広大さである。レナ川はバイカル湖の西岸の山脈を源にして、シベリアを縦断し北極のラプテフ(Laptev)海に注ぐ。とくに河口は広大な三角州を形成しており、上述のとおりきわめて貴重な自然が残るが、レナ川全体を見ても人為的な汚染がほとんどなく貴重な自然である。レナ川は、ヤクート(Yakut)人たちからは
Ulakhan-Iuriakh
と呼ばれている。これは「大きな川(Big
River)」という意味である。
レナ川は、源からビチム(Vitim)川との合流点までの上流、ビチム川合流点からアルダン(Aldan)川との合流点までの中流、および河口の三角州からラプテフ海にかけての、約1500km区切りで3つに大別できる。
ビチム川までの上流域は、周囲に300mを超す岩だらけの荒々しい山脈がせまり、レナ川はその渓谷の間を流れる。この渓谷の幅は1.5〜9kmくらいだが、場所によっては幅がたった200m以下と、急に狭くなるところもある。そういう場所として、Pyany
Byk
(ロシア語で“酒酔いの雄牛”[Drunken
Bull])と名づけられたポイントが有名だ。
ビチム川に合流するあたりまでくると川幅が広がり、深さも10mくらいまでになる。ここから先の「中流域」では、さらに支流から流れが集まり、支流のオリョークマ(Olyokma)川が合流するころには、川幅は1.6km以上にもなる。ビチム川が合流する辺りからオリョークマ川までの間は、川はパトム(Patom)高原を抜け、ゆっくりと大きく湾曲する。このあたりで流域の幅は32km以上にもなるが、その高低差は小さいため、流れはゆっくりで、流域には原生森や湖沼も多く点在する。
オリョークマ川をすぎると、川岸のようすが一変してくる。600km以上にわたって、レナ川は狭い渓谷の間を流れる。とくにオリョークミンスク(Olyokminsk
[Olekminsk])からポクロフスク(Pokrovsk)までが有名である。ここでは両岸にごつごつした岩がせまる奇観が見られ、観光客にも人気がある。また近年では、ロッククライミングの場所としても知られるようになった。この先でレナ川に大きな支流、アルダン川が合流する。
四国の1.5倍の面積をもつデルタ地帯
アルダン川の河口に近づくと川の流域は幅20〜26kmにもなり、氾濫原(高水時に流水でおおわれる平地)は6〜15kmにもなる。この一帯はヤクート低地帯(the
Yakut
Lowland)とよばれ、レナ川の堆積平野であるため湖沼、湿地も多く、無数の支流が多くの中州や島を形成している。また川の深さは15〜20mにもなるが、浅い砂底のところも少なくなく、変化に富んでいる。
特に
Zholdongo島からデルタ形成地にかけてはレナ川の流れの旅の最後であり、無数の支流に分かれていく。このため、川幅はどれも1〜2kmくらいになるが、流域は広大に広がり、川はその丘陵の間を抜けていく。デルタ地帯はラプテフ海に突き出た四角い半島のような形をしている。その範囲は120km×280kmにもおよび、面積2万8500平方kmは四国の約1.5倍。デルタで複雑に交わりあう水路は、まるで網目のようであり、そこに無数の島が浮かんでいる。その陸地の低い丘陵は泥炭でおおわれている。そしてところどころに永久凍土も見られる。
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