解説
ブダペストからドナウ川をさかのぼること40キロ、ヴィシェグラードは中世に王宮が置かれた場所であり、いまはドナウ川で有数の景勝地として観光客を集めている。高さ300メートルほどの山頂にある山城は13世紀に築かれ、ドナウ川の蛇行部を見下ろす立地のため、象徴的存在と見なされてきた。そのふもとには、かつて「地上の楽園」とたたえられた宮殿の跡がある。建造したのは14世紀のカーロイ王で、間もなく宮廷もこの地に移された。15世紀にはマーチャーシュ王が、イタリアから芸術家を呼び集めてルネサンス様式に改築し、華麗で美しい大宮殿に生まれ変わった。しかし16世紀以降衰退し、戦争などによってヴィシェグラードは破壊されてしまった。1934年、農夫がワイン蔵を作ろうとして偶然発見されてから発掘が始まり、いまも調査が続けられている。
ハンガリー政府は、宮殿に隣接して王家の狩猟場が残されていることをヴィシェグラードの唯一性として主張したが、ICOMOSは、「そのような宮殿はヨーロッパにおいて決して珍しいものではない」と判断した。また、ヨーロッパに数多くの歴史的な宮殿建築が現存するなかで、ヴィシェグラード宮殿が近代の復元であることも、世界遺産に登録されなかった理由の一つとなった。
参考文献
『中欧
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世界の歴史と文化』
沼野充義監修、新潮社、1996
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