解説/文=収斂さん+浦に〜と
気候変動をさぐる研究フィールド
スロバキアの原始林(Slovak
primeval
forests)として最も有名なものは、ドブロチスキー(Dobrocský)原始林である。ここは欧州の酸性雨被害や大気科学といった気候変動を研究する研究森として、古くから保護されてきた歴史がある。とくに
S.Korpel'教授と
H.
Leibundgut教授らは、この森の研究をとおして、原始林の世代交代や成長変化(growth
patterns)の仕組みを解明したことで知られる。
そのほかにもスロバキアに現存する原始林としては、バディン(Badín)原始林、ストゥジツァ(Stuzica)原始林、ヴィホルラト(Vihorlat)原始林などがある。これらの原始林の樹木組成を見ると、ブナ(beech
trees)科の樹木のみからなる森と、モミ(fir)やトウヒ(spruce)などの常緑針葉樹が混在する森の2種類があり、これらはカルパチア混相林(Carpathian
mixture)と呼ばれる。
スロバキア原始林では、モミの寿命は350〜400年に対し、ブナは210〜230年の寿命しかないことがわかっている。このことは、モミの1世代が、ブナの1.7世代に相当することを意味し、モミは成長初期には、成長の早いブナに駆逐されるものの、成長がモミを追い越したり、ブナが先に枯死すると、今度はモミがブナを駆逐する。スロバキア原生林では、いまでもこのような生態系がダイナミックに進行中である。
国境を越えて広がるブナの森
スロバキア原始林のなかでも、カシヴァロヴァ(Kasivárová)原始林とレスナ(Lesná)原始林(世界遺産の推薦対象外)は、樹相がほかの原始林とは異なっており、高さ30メートル以上のオーク(oak:カシ、ナラなどのブナ科ナラ属の総称)が主体である。また、カシヴァロヴァ原始林では、生息する動植物のうち73種が自然保護の対象になっている。
カシヴァロヴァ原始林やストゥジツァ原始林は、ウクライナとの国境に近接している。同様の生態系をもつ森は国境を越えて広がり、今後は、近隣諸国との足並みをそろえた保護策の確立が課題となるだろう。また、ドブロチスキー原始林は1964年の暴風で森の大木の多くが折れ、主に植物の生態系バランスが壊れてしまった。こうした不慮の災害に対する備えも必要だといわれている。
2007年、一部の森林が世界遺産に登録
本物件は、スロバキアのほぼ全土に点在する22カ所の森林を、まとめて登録推薦したものだ。それらの中には、1992年に世界遺産に推薦され、「不登録」と評価された「タトラ国立公園」に位置するものもある。
また、22カ所の森のうち、Havesova、ヴィホルラト、ストゥジツァの3カ所は、2007年に「カルパチア山地の原始ブナ林群」として世界遺産に登録された。「カルパチア山地の…」は、スロバキアとウクライナ2カ国による共同登録物件で、合わせて10カ所の森(コア・エリアの総面積およそ293平方キロ)を登録したもの。世界最大のヨーロッパブナの原生地域として、ブナ優占林はもちろん、他種との混交林が広がることから、植物多様性の保全上重要な場所と評価された。
ところで、2002年に暫定リストに記載された「カルパチア山地の原始林群」「タトラ山の自然保護区群」は、2008年現在もスロバキアの暫定リストに留め置かれたままである。今後、追加・拡大登録の動きがあるかもしれない。
参考サイト
http://www.ecosystems.sk/pages/forests.html
http://www.ecosystems.sk/pages/gal_video2.html
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