セルヴァージェンス諸島
Ilhas Selvagens

国名 ポルトガル
分類 自然遺産
所在地 大西洋。マデイラ諸島(ポルトガル領)とカナリア諸島(スペイン領)のほぼ中間にある


審議歴
2002年 暫定リストに記載。
2004年

辞退 … IUCNより「不登録」勧告を受け、辞退した。ポルトガル政府は登録基準(9)(10)のもとで推薦していたが、IUCNは以下のとおり、いずれにも該当しないと判断した;
(9)に関しては、手つかずの植生が保存され、外来種が少ない点は貴重だが、このような島は地球上のほかにも存在する。それに、小セルヴァージェンス島とフォラ島は、環境を維持するにはあまりにも小さすぎる。進行しつつある生態的・生物学的過程についても、世界のほかの島しょ生態系に比べ、それほどきわだつものではない。
(10)に関しては、確かに固有種や手つかずの環境が残っているのだが、世界遺産に登録されているほかの孤島と比べても、種の重要性はいくぶん劣るし、生物多様性や固有性の程度もそれほど高くない。


解説/文=好古学のすすめさん

「未開」と名づけられた無人の群島

  大西洋上のモロッコ沖にある無人の小諸島。マデイラ諸島(注1)から南南東に約280km。北緯3010分、西経1550分に位置するポルトガル領の最南端である。スペイン領のカナリア諸島(注2)からは北に約165kmである。アゾレス諸島(注3)、マデイラ諸島、カナリア諸島、カーボヴェルデ(注4)諸島と同様、起源は火山性である。(なお、これらの諸島は、生物地理学上マカロネシアと総称されている)。
  セルヴァージェンス諸島は、約
15kmの幅の海峡に隔てられた2つの群島からなる。北東の群島は「大セルヴァージェン島」(Ilha Selvagem Grande)と2つの小島からなる。南西の群島は「小セルヴァージェン島」(Ilha Selvagem Pequena)、「フォラ島」(Ilheu de Fora)およびいくつかの小島や岩礁からなる。陸地の総面積は2.73km²である。
  先史時代の遺跡もあるが、
1438年にポルトガルの航海者によって、無人島として発見された。マデイラと異なり植民は成功せず、英語の savage(未開)にあたる selvagemselvagensは複数形)の名が与えられた。(salvageと訳されることがあるが誤り)。スペインによるポルトガル併合時代(1581-1640)と、英国のマデイラ占領時代(19世紀初頭)を除き、一貫してポルトガル領であり、行政的にはマデイラ自治領に属する。個人の所有だったが、1971年に国有地となった。

(注1) マデイラ諸島では、「マデイラ島の月桂樹林」が1999年に世界遺産に登録された。
(注2) カナリア諸島では、ゴメラ島の「ガラホナイ国立公園」が
1986年に、テネリフェ島の「サン・クリストバル・デ・ラ・ラグナ」の町並みが1999年に世界遺産に登録された。
(注3) アゾレス諸島では、テルセイラ島の「アングラ・ド・エロイズモの中心地区」が
1983年に、「ピコ島のブドウ畑文化の景観」が2004年に世界遺産に登録された。
(注4) カーボヴェルデ共和国は暫定リストに6件の遺産を登録している。


国有化後に整えられた厳格な保護体制

  これらの島は希少な動植物種や独特の環境のため、学術上重要である。国有地となった1971年、ポルトガル政府は、この諸島を自然保護区域とした。陸域のすべてと水深200mまでの海域の約95km²が保護区域になっている。上陸にはマデイラ自然公園局の許可が必要であり、保護区域での投錨、漁業、釣りや大きな船の航行が禁止されている。76年以降、継続的に学術調査が行われ、90年代以降保護体制も充実している。
  大セルヴァージェン島は周囲
5kmの五角形の島である。島全体は標高約100mの台地状をなし、浸食された海岸は切り立っている。灯台があるが、自然保護のための監視員以外は無人である。
  小セルヴァージェン島の標高は
1114mだが、北端には49mの円錐状の「Pico do Veado」がある。海岸には岩や石が多いが、島の大部分は砂地である。無人島だが、かつては7〜8月にはカナリア諸島から漁師が訪れていた。現在は季節によって監視員が駐在しており、漁業は禁止されている。


外来動植物が移入していない貴重な島

 海鳥の営巣に適した条件にあり、とくにミズナギドリの仲間のカオジロウミツバメ(White-faced Storm-Petrel、学名Pelagodroma marina)や、アナドリ(Bulwer's Petrel、学名Bulweria bulwerii)のほか、カモメ科のベニアジサシ(Roseate Tern、学名Sterna dougallii)など、北大西洋の亜熱帯地域の海鳥の貴重な生息地である。陸上の哺乳類は生息していない。
  植物は多くが ほふく植物であり、自生する
90種のうち10種が固有種である。固有種にはユリ科ツルボ属の一種(Scilla madarensis)の変種、キク科アルギランテマム属の一種(Argyranthemum thalassophilum)、アブラナ科ロブラリア属ロブラリア(Loburaria maritime)の変種、トウダイグサ科ユーフォルビア属の一種(Euphorbia desfolliata)などがある。
  とくに小セルヴァージェンス島とフォラ島は、かつて外来の植物(作物)や草食動物(家畜)の導入が行われたことがなく、植生に人の手がまったく入っていないことが注目すべき特徴である(注5)。

(注5) 草食植物(家畜)の導入によって自然植生は大きく損なわれる。ガラパゴス諸島では野生化ヤギなどによって失われた自然植生の復元事業が行われている。



参考サイト
http://www.lanecc.edu/library/don/savage.htm
 文献からの抜粋。小縮尺の地図1枚、写真3枚。
http://en.wikipedia.org/wiki/Savage_Isles
 解説及び大縮尺の地図1枚。
http://www.confluence.org/confluence.php?lat=30&lon=-16
緯度経度交差点探訪プロジェクト。北緯30度西経16度への航海記。上記の文献より新しい情報が含まれている。写真あり。
http://ct3ee.s5.com/about.html
 固有種の植物名が載っている。
http://sea.unep-wcmc.org/wdbpa/sitedetails.cfm?siteid=32568&level=nat
 UNEP-WCMCがIUCNのWCPAと共同で作成しているデータベース。情報は少ない。
http://www.eic.or.jp/news/?act=view&serial=2141
 マカロネシアにおけるEUの保全地域に関するニュース。セルヴァージェンス諸島は含まれていると思われるが、記事中には記載がない。






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