解説/文=収斂さん
ムバラカジュ森林自然保護区(Mbaracayu Forest Nature Reserve)はパラグアイ東部に位置し、内陸性大西洋森林(Interior
Atlantic
Forest)のほぼ中核地域を形成するとともに、現在ほとんど失われてしまったブラジル大西洋岸森林(Atlantic
Forest
of
Brazil)の面影を、かろうじていまに伝える貴重な森林である。この森林は、いうまでもなく生物多様性に優れており、とくに貴重な鳥類が多く生息する森林として有名である。そのためIBA(Important
Bird
Area)という厳格な保護地域に指定されている。
この自然保護区内には、パラグアイに生息する鳥類の62%に相当する421種もの鳥類が生息している。このなかには南米大陸で絶滅が危惧されている種も含まれており、世界で2カ所しか生存が確認されていないハジロヨタカ(white-winged
nightjar:IUCNレッドリスト「絶滅危惧種」指定)をはじめ、カオグロナキシャクケイ(black-fronted
piping-guan:同「絶滅危惧種」指定)、ナキクマゲラ(helmeted
woodpecker:同「危急種」指定)などがとくに貴重である。また、シロオビコビトクイナ(rufous-faced
crake:同「危急種」指定)や、ハゲガオホウカンチョウ(bare-faced
curassow)という、中南米産のキジ目の一種も貴重である。
ムバラカジュ森林自然保護区周辺にも貴重な森林が広がっている。保護区周辺(ブラジル側を含む)には、19の貴重な植物群落(plant
community)が確認されている。ちなみにそのうちの9カ所がパラグアイ側にある。貴重な植物としては、木生シダ(tree
fern)、cedro、calaguala、kirandy
plantsなどがあげられる。また、ここには絶滅危惧種の哺乳類として、ジャガー(jaguar)、バク(tapir)、アリクイ(anteater)なども生息している。
<環境保護対策>
ムバラカジュ森林自然保護区の最大の特徴は、公園面積663平方キロのうち、644平方キロがモイセス・ベルトーニ財団(FMB:Fundacion
Moises
Bertoni)という私立財団によって管理されていることだ。私立財団が管理する湿潤亜熱帯森林(humid
subtropical
forest)としては、世界最大規模の森林の一つなのである。
ムバラカジュ森林自然保護区の保全活動が行われるようになったのは、数多くの鳥類学研究機関から要請や提言が数多くなされた1988年以降のこと。パラグアイ政府はPIP計画(the
Parks
in
Peril
program)という保全計画を発表し、92年から実施を開始したが、ムバラカジュ森林一帯はすべて私有地だったため、政府や公社による土地の買収が遅々として進まなかった。所有者たちはFMBという団体を組織し、森林伐採、伐木搬出用の道路建設、農地造成や土地改良といった土木開発を日常的に行っていたうえ、密猟も珍しくなくなく、森の状態は危機的だった。
そこで政府は、FMBと共同で自然保護活動を取り組むよう提案。具体的には、森林の個人所有を認め、保全に関わる費用はすべて国が負担する代わりに、FMBに対して森林保護を義務づけるというものだった。ねばり強い交渉の結果、FMBもようやくその提案に同意し、世界でも稀な管理体制が確立した。
FMBはただちに、公園内に住むいくつかの少数部族から監視員を雇用し、自然保護活動に従事させた。また公園周辺に居住するほかの少数部族に対しても環境教育を行ったり、基金を使って監視員待機所や観光客案内施設を整備したりした。さらに、焼畑などの森の破壊をしなくても自立した生活ができるように、イェルバ・マテ(yerba
mate
trees:モチノキ科の常緑樹。葉はマテ茶の原料として利用される)の植樹や商品作物の栽培を奨励するなど、地道な自然保護活動も精力的に行った。
今日、FMBとPIPの関係はより緊密かつ強固なものとなっており、森林の保全活動が最もうまく機能している顕著な成功例として、国内外から高く評価されている。世界遺産委員会でも、この独特の管理体制は絶賛された。
<問題点>
近年、ムバラカジュ自然保護区内を流れるJejui川上流では、土壌の浸食による河川の汚濁や農薬の流入が頻発しており、下流地域での環境悪化が危惧されている。また、人口増加によって最低限必要な食料や燃料が不足し、公園北西部や南東部では密猟や木材の伐採被害が深刻になっている。アリクイの一種のミナミコアリクイ(collared
anteater)や、オオカワウソ(giant
river
otter:IUCNレッドリスト「絶滅危惧種」指定)も絶滅の危機にさらされている。
<その他>
公園内に住んでいるAche族の文化の継承も重要な問題である。彼らはムバラカジュの森とともに生きてきた経験があるため、公園内での最低限の狩猟が特別に認められており、保存運動協議会において
Honorary
Council
という名誉職が与えられている。ムバラカジュの森の保護における原住民の生活の知恵は今日、大いに注目されている。
参考サイト
http://www.birdlife.org/news/news/2000/12/78.html
http://parksinperil.org/wherewework/southamerica/paraguay/protectedarea/mbaracayu.htm
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