スロバキアのトカイのブドウ栽培・ワイン生産地域
Slovak Tokay Viticulture and Winemaking Region


国名 スロバキア
分類 文化遺産
所在地 首都ブラチスラバの東およそ300km


審議歴
2002年 暫定リストに記載。
2004年 審議対象外 … 推薦書の内容が不完全だったため。


解説/文=収斂さん

ワイン産地の北限

  ハンガリーのトカイ地方(Tokaj)で生産されるトカイワインは黄金色をした甘口なワインで、その芳醇さと芳香はデザートワインとしてあまりにも有名だが、ハンガリーのトカイ地方と国境に接するスロバキアにも、同じようなトカイワインを生産する地域があり、かつては同じトカイ地方として扱われていた。トカイ地方の地質は火山性土壌で岩が多く、農耕には適さないものの、ブドウ栽培には理想的とされる。さらに東西北方向がカルパチア山脈(the Carpathian Mountains)によって取り囲まれているため、ワイン生産地としては北限に位置しているにもかかわらず、厳冬期が遅く、秋は暖かい日が長く続き、夜間は10℃前後まで冷え込んで濃霧が発生する日が多い。この時期、1日の気温の寒暖の差は20〜25℃にもなる。これがトカイワイン栽培には欠かせない気候条件となっている。とくにTisza川とBodrog川の合流する一帯は理想的で、この霧のおかげでブドウ表面にボトリチス菌(botrytis fungus:糸状菌類ハイイロカビ属の微生物)が繁殖する。この菌は、昼になって気温が上昇すると死滅するものの、午前中の数時間は生き続け、ブドウの皮質を介して果汁を濃縮し、糖度を高める。これが“貴腐”(noble rot)と呼ばれるゆえんであるとともに、トカイワイン最大の特徴といってよい。
  貴腐したブドウはしだいに しぼんでいくが、これは萎縮効果(shrivelling effect)といわれ、これも果汁の濃縮をうながす。こうなった状態のブドウをスロバキア語でcibebasといい(ハンガリー語ではaszuという)、この状態なってからようやくブドウの採果が手作業で行われる。cibebasのでき具合がその年のトカイワインの品質を決めるともいわれ、理想的なcibebasは数年に一度しかできないという。cibebasは採果後すぐにつぶされ、新鮮な発酵促進用ワイン(freshly fermented wine)が添加される。そして24〜48時間以内に特製の木樽に入れられ、貯蔵庫で長期間熟成される。


敵からワインを隠すためにつくられた地下貯蔵庫

  スロバキアのトカイ地方で最も有名なトカイワイン生産地の一つに、Vel'ka Trna村がある。小さな教会のまわりに100軒ほどの家があるだけの寒村だが、トカイワイン栽培にための最高の条件がそろった村で、毎年、優れたトカイワインを生産している。村の周囲に植えられているブドウ種はフルミント(Furmint)、リポヴィナ(Lipovina)、イエロー・マスカット(Yellow Muscat)などである。
  Vel'ka Trna村に限らず、この一帯のワイン貯蔵庫は、どれも石で頑丈に組まれた地下トンネルのような構造になっており、屋根には草を生やして偽装しているものも少なくない。これは17世紀のオスマントルコの侵略からワインを隠す目的で築かれたもので、中の湿度は常に80〜95%に保たれている。樽詰めされた熟成ワインは、年に容積の2%が蒸発し、洞窟のような貯蔵庫全体にワイン蒸気が充満し、さらに芳醇さが増すとされる。


ハンガリー側の世界遺産登録に反発

  近年、ハンガリーのトカイワインがあまりにも有名になったため、生産量は少なくても同等以上の品質をほこるスロバキア産トカイワインの知名度があまりに小さくなってしまい、感情的な対立はやがて商標権争いにまで発展してしまった。現在、欧州国内では、スロバキア産のトカイワインに「トカイ」という名称を入れることは、主生産地であるハンガリー産トカイワインとの誤解を招くという理由で禁止されている。
  スロバキアのトカイ地方は同国内でもとくに貧しい地域で、失業率は20%を超え、インフラ整備はもちろん、コシツェ(Kosice)からの交通手段さえ乏しいという厳しい現実がある。2002年、ハンガリー側のトカイワイン生産地が世界遺産化されたことに対する反発もあって、スロバキアではこの地域の振興と国の威信をかけた世界遺産運動が活発に行われている




参考サイト
http://www.ecosystems.sk/pages/forests.html
http://www.ecosystems.sk/pages/gal_video2.html






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