スロバキアのトカイのブドウ栽培・ワイン生産地域 Slovak Tokay Viticulture and Winemaking Region
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解説/文=収斂さん ワイン産地の北限
ハンガリーのトカイ地方(Tokaj)で生産されるトカイワインは黄金色をした甘口なワインで、その芳醇さと芳香はデザートワインとしてあまりにも有名だが、ハンガリーのトカイ地方と国境に接するスロバキアにも、同じようなトカイワインを生産する地域があり、かつては同じトカイ地方として扱われていた。トカイ地方の地質は火山性土壌で岩が多く、農耕には適さないものの、ブドウ栽培には理想的とされる。さらに東西北方向がカルパチア山脈(the
Carpathian
Mountains)によって取り囲まれているため、ワイン生産地としては北限に位置しているにもかかわらず、厳冬期が遅く、秋は暖かい日が長く続き、夜間は10℃前後まで冷え込んで濃霧が発生する日が多い。この時期、1日の気温の寒暖の差は20〜25℃にもなる。これがトカイワイン栽培には欠かせない気候条件となっている。とくにTisza川とBodrog川の合流する一帯は理想的で、この霧のおかげでブドウ表面にボトリチス菌(botrytis
fungus:糸状菌類ハイイロカビ属の微生物)が繁殖する。この菌は、昼になって気温が上昇すると死滅するものの、午前中の数時間は生き続け、ブドウの皮質を介して果汁を濃縮し、糖度を高める。これが“貴腐”(noble
rot)と呼ばれるゆえんであるとともに、トカイワイン最大の特徴といってよい。
スロバキアのトカイ地方で最も有名なトカイワイン生産地の一つに、Vel'ka
Trna村がある。小さな教会のまわりに100軒ほどの家があるだけの寒村だが、トカイワイン栽培にための最高の条件がそろった村で、毎年、優れたトカイワインを生産している。村の周囲に植えられているブドウ種はフルミント(Furmint)、リポヴィナ(Lipovina)、イエロー・マスカット(Yellow
Muscat)などである。
近年、ハンガリーのトカイワインがあまりにも有名になったため、生産量は少なくても同等以上の品質をほこるスロバキア産トカイワインの知名度があまりに小さくなってしまい、感情的な対立はやがて商標権争いにまで発展してしまった。現在、欧州国内では、スロバキア産のトカイワインに「トカイ」という名称を入れることは、主生産地であるハンガリー産トカイワインとの誤解を招くという理由で禁止されている。 |