「イヴの総て」
イヴの総て 1950・米
イヴの総て

監督:脚本:
    ジョゼフ・L・マンキーウィッツ
撮影:ミルトン・クラスナー
音楽:アルフレッド・ニューマン
衣装デザイン:イーデス・ヘッド

出演:アン・バクスター
    ベティ・デイビス
    ジョージ・サンダース
    マリリン・モンロー
    セレスト・ホルム
    ゲイリー・メリル
    ヒュー・マーロー


ベティ・デイビス(左)とアン・バクスター(右)

マリリン・モンローとジョージ・サンダース

 イヴ役のアン・バクスター

アン・バクスター

物語

この年の演劇界最高の栄誉である、サラ・シドンズ賞が史上最年少のイヴ・ハリントン(アン・バクスター)に贈られようとしていた。会場は拍手の渦に包まれた。しかし、その会場ではイヴの受賞に複雑な思いの人々も少なからずいるのだった。


8ヶ月前、劇作家ロイドの妻カレン(セレスト・ホルム)は、日頃から気になっていた、毎晩劇場の楽屋口の前で佇む娘イヴ(アン・バクスター)を、親友で大女優のマーゴ(ベティ・デイビス)に引き合わせ紹介したのだった。
イヴはマーゴに心酔しており、毎日、マーゴの演劇を観劇していたのだ。
楽屋でマーゴと対面したイヴはレインコートに帽子をかぶった田舎娘だ。
イヴは自分の身の上話を語った。マーゴをはじめそこに居合わせた全員がイヴを気に入った。

マーゴはイヴを自宅の客間に住まわせ身の回りの世話をするようにした。それは、イヴにとって身に余る光栄だった。憧れの大スターの身の回りの世話をする!
何かと気が利き、甲斐甲斐しく働くイヴは皆から好かれていく。

しかし、マーゴはあまりに気が利きすぎるイヴが鼻に付くようになってきた。
マーゴは恋人の演出家ビル(ゲイリー・メリル)に話す。
「あの娘は手の上げ下げまで参考書みたいに真似るのよ」 「君を理想にしてるからじゃないか」 「私だけのものもあるのよ」 「何だ」 「あなたよ」
マーゴはイヴがビルの気を引こうとしているように思えるのだった。
「芸能界の汚い目で判断するのは反対だね」ビルは言った。

ビルの誕生パーティに様々な人たちが集まった。演劇界の実力評論家ドゥイット(ジョージ・サンダース)がミス・カズウェル(マリリン・モンロー)を伴って現れた。カズウェルは演劇学校を出たばかりの新進女優だ。
マーゴは酔っていた。イヴに辛く当たり、親友のカレンにまで悪態をつく。恋人のビルもマーゴに辟易した。

イヴはそんな時、代役の話があったら是非自分にやらせて欲しいと、カレンに頼むのだった。イヴはマーゴの台詞から演技まで全て見につけているのだ。
そして、マーゴの知らぬ間にイヴがマーゴの役でテストを受けると上々の評価だった。
マーゴはそれを知ると益々荒れた。ビルはそんなマーゴに愛想が尽き家を出て行く。

カレンの夫で作家のロイド(ヒュー・マーロー)はカレンに言った。
「イヴは素晴らしかったよ。あれは天性の女優だ。勘が良くてメリハリが利いてる」 「べた褒めね。マーゴもいいわ」 「あれは大女優だ。だが、荒れ出したら手がつけられん」

カレンは妙案を考えた。次の日曜のドライブで・・・。そして、イヴに電話を掛ける。
日曜のドライブの日。ロイドの運転で、マーゴとカレンが乗っている。田舎道の途中で車が動かなくなった。「ガス欠だ。おかしいな、朝、確認したのに・・・」とロイド。その日はマーゴが舞台に立つ日だが、間に合わない。
実は、マーゴを懲らしめようとカレンが密かにガソリンを抜いてあったのだ。

翌朝の新聞に評論家ドゥイットの記事が載った。
「ミス・イヴ・ハリントンには脱帽する。拍手喝采を惜しまない。彼女は思うことを率直に語った。年長の女優をいつまでも使って無理な若い役をさせるのは演劇界の悪習であると。また、長老女優たちが保身のため、若手の進出を妨げていることを・・・・」

マーゴが新聞を読み怒りに震えていると、ビルが新聞を片手に駆け込んできた。そしてマーゴを抱きしめる。

マーゴとビル、カレンとロイドの4人がレストランで食事中、ビルはマーゴとの結婚の約束をした。マーゴは喜び、4人は乾杯した。
その時、カレンにメモが届いた。イヴからだった。
化粧室に出向いたカレンにイヴは言う。「コーラの役をやらせて、あの件(ガス欠の件)を新聞に書かれてもいいの」 イヴの目は悪意に満ちて怪しく光っている。
カレンはイヴに脅迫され、テーブルに戻る。いたずら心とはいえ、あの件がばれるとマーゴとの仲も破綻するし、ロイドにも影響する。
その時、マーゴが言った。「コーラの役はやりたくないの。もう年だし、結婚もするし・・・」
カレンが笑い出した。“マーゴが自らコーラの役を降りるなんて、渡りに船とはこのことだわ” 笑いつづけるカレンを見て、他の3人には訳がわからない。

「ロイドが離婚して、私と結婚するの」 イヴがドゥイットに言った。ドゥイットはイヴを見下して言う。「・・・君が今まで騙してきた人間と一緒にするな。なめるんじゃない」 ドゥイットはイヴが経歴を偽ったことも、カレンを脅迫したことも、ロイドとのことも全てお見通しだった。
「今日からお前は俺のものだ。好きなタイプじゃないが他人とも思えん。似た者同士だからな」
さすが悪女のイヴも老獪な演劇界の評論家ドゥイットには歯が立たない。悔しさと屈辱でベッドに臥せって泣くイヴだった。

かくして、サラ・シドンズ賞の授賞式。イヴ・ハリントンは万来の拍手の中、殊勝に受賞の言葉を述べた。謙虚でしおらしいイヴの態度は会場内の好感を得た。イヴを取り巻く何人かを除けば・・・

イヴが疲れてホテルの部屋へ入ると、自分のベッドに若い女が寝ている。驚くイヴと同時に目覚めたのは、フィービーという女子高生でイヴ・ハリントンクラブの会長なのだという。イヴと話がしたくて来たのだが待っている間に眠り込んでしまったらしい。
フィービーはイヴの目を盗んで鏡に向かいイヴの舞台衣装を自分にあてがってみた。彼女も演劇に憧れる女優志願なのだ。
ドゥイットがサラ・シドンズ賞の像を届にきた時、ドアを開けたフィービーに言うのだった。
「教えてもらうがいい、賞を取るコツをな・・・」
映画館主から

ジョゼフ・L・マンキーウィッツ監督が放った演劇界内幕物の傑作。

恩人の女優を欺いてまでスターの座を掴もうとする演劇志願の若い女をアン・バクスターが見事に演じ、その顔に似合わぬ悪女ぶりにぞっとするような戦慄を覚えます。その小悪魔的なイメージは「十戒」’56年のファラオの王女役へと引き継がれていきます。

大女優で(実際にも)酒のみ役のベティ・デイビスはさすがの貫禄で、演技なのか実像なのか分からないほど。
後年の傑作スリラー「何がジェーンに起ったか?」’62年でも芸能界に未練を残す老女を怪演しています。

老獪な演劇評論家を演じたジョージ・サンダースはヒッチコックの「レベッカ」’40年、「海外特派員」’40年にも出演した個性派男優で多くの映画出演で強い印象を残しましたが、’72年スペイン、バルセロナのホテルで睡眠薬自殺を遂げました。遺書に『退屈だからこの世を去る』とあったそうです。

デビュー間もないマリリン・モンローが新進女優役で出演しており、その後の「ナイアガラ」’53年で見せた“モンロー・ウォーク”が評判を呼び、スター街道へと突き進んでいったのは、まさに“事実は映画より奇なり”でありました。

ジョゼフ・L・マンキーウィッツ監督は本作で、前年の「三人の妻への手紙」に続いてアカデミー監督賞と脚本賞を受賞しています。
その他、アカデミー作品、助演男優(ジョージ・サンダース)、録音賞、衣装デザイン賞を獲得しています。

芸能界の内幕ものとしては同年の「サンセット大通り」(ビリー・ワイルダー監督)もかなりの傑作でした。
 映画館へ戻る