「モロッコ」
モロッコ 1930・米
モロッコ

監督:ジョゼフ・フォン・スタンバーグ
原作:ベノ・ビグニー
脚本:ジュールズ・ファースマン
撮影:リー・ガームズ
音楽:カール・ハヨス

出演:ゲーリー・クーパー
    マレーネ・ディートリッヒ
    アドルフ・マンジュー
    ウルリッヒ・ハウプト

アミー(マレーネ・ディートリッヒ)

左からクーパー、ディートリッヒ、マンジュー

「気が変わった、元気でな」

クーパーとディートリッヒ
物語

外人部隊の一行がモロッコの街に入ってきた。街はにわかに活気付く。人々はアラーに祈りを捧げる。
大富豪のベシェール(アドルフ・マンジュー)は船で憂いを秘めた美しい女アミー・ジョリー(マレーネ・ディートリッヒ)を見初め、「何か困ったことがあったらここに・・・」と名刺を渡した。「ありがとう」 アミーは名刺を受け取った後、船のデッキでそれを引きちぎり弾き飛ばす。ベシェールは笑みを浮かべ遠くから見ていた。
ベシェールが船員に聞く。「あの女は何者だ?」 船員は答えた。「キャバレーの歌手でさぁ、自殺乗船客と呼ばれてる。いつも片道切符しか持ってない」

外人部隊に所属するトム・ブラウン(ゲーリー・クーパー)は部隊一のプレイボーイだ。女に目が無く飽きっぽい。モロッコに入って既に何人もの女に色目を使いその気にさせていた。

キャバレー。モロッコの上流社会の社交場。
トップ・ハット、タキシードの男装の麗人に扮したアミーが舞台に現れる。けだるく煙草を吸いながらステージから客たちを眺める。そして唄い始めた。
「♪恋に夢中なとき、人は誓いを立てる・・・永遠に愛し合おうと恋する女は輝いている・・・春の夜も照らすほどに・・・だがやがて甘いときは過ぎる・・・愛は花と共に朽ちる・・・そして残ったのは胸の痛みと溢れる涙ばかり・・・♪」
人々は喝采を送る。大富豪のベシェールもいる。プレイボーイのトムも聴衆に混ざって聞いていた。

次にリンゴ売りの娘に扮装を買えたアミーは唄いながら篭のリンゴを売り歩く。ベシェールも買う。トムの近くに来たアミーは「ただでもいいわ」 と小さく言いリンゴをトムに渡す。「おつりよ」 アミーはトムの手にそっと何かを掴ませた。それは部屋の鍵だった。

その夜、トムはアミーの部屋の鍵を開けて中に入った。アミーがいる。二人は互いに惹かれあいながらも口から出てくる言葉は何故か皮肉交じりだ。
「女を下に見てるのね」 アミーが言うと、「そう思わせる女が悪い」と返すトム。
「今まで亭主にしたい程の男はいなかったわ」 「女房にしたいのもだ」 アミーはトムを見つめる。「もう帰って・・・あなたを好きになりそう」 トムは部屋を出る。

夜道にセザール夫人が待っていた。セザール夫人は前からトムに片思いしていた。そのトムがアミーの部屋に入るのを見ていたのだ。
トムを追って部屋を出てきたアミーを部屋に戻すトム。セザール夫人は嫉妬に狂い逆上した。モロッコ人の殺し屋を使いトムを襲わせたが逆に叩きのめされる。

セザール将校(ウルリッヒ・ハウプト)はこの騒動を無視する訳にいかず、翌日自室にトムとアミーを呼びつけた。そこへベシェールも現れる。
トムがセザール夫人のことを黙っていてくれたのでセザール将校は内心ほっとする。しかしトムの行状は元々気にかかっていたのだ。
結局、トムは営倉送りになる。ベシェールの計らいでトムに外出許可が出る。だがすぐさま遠征に出されることになった。

アミーの部屋を訪れたベシェールはアミーに宝石を差し出し求婚した。アミーにとっては願っても無い幸運の筈だった。しかしアミーは求婚をすぐに受け入れない。「考えておくわ」と言うのみだった。
そこへトムが現れた。別れを告げに来たのだ。ベシェールは気を使って席を外す。
「又会えるわよね」 「無理だろう。今度は戻れない気がする」 アミーは深刻な顔になる。するとトムは「今夜、脱走し欧州へ行く。一緒に来ないか」 アミーは喜色満面で「行くわ!」 そのあとアミーはショーに出演するためステージに出て行く。
トムはアミーの部屋で豪華な宝石を見た。アミーがベシェールに貰ったのだと合点がいく。トムはアミーの口紅で鏡に文字を書いた。
『気が変わった。元気でな』

別れを惜しむ兵士と女たち。トムも幾人かの女と別れを惜しんでいた。ベシェールの車でアミーが来ていた。トムたちの一行が行進して行く。その後に続く女達の一行。
「あの人たちは?」 アミーの問いにベシェールが答える。「言うなら後衛部隊だな」 兵士の妻や愛人達が兵士の世話をするために戦地近くまで赴くのだった。行進をじっと見つめるアミー。その日を境にアミーは酒に溺れる日々になった。

そんなアミーをベシェールが気遣う。「兵士にしては上手ね」 アミーはトムが書いた鏡の口紅の文字を見せる。そしてグラスの酒を鏡にぶちまける。グラスを叩きつける。
ベシェールはアミーを自宅に引き取るしかなかった。

前線ではセザール将校が死んだと報告が入った。
ベシェールとアミーの婚約式の席上だった。太鼓とラッパの兵士の行進の音は聞こえてくる。帰還兵達が帰ってきたのだ。アミーは気になって仕方が無い。
遂に立ち上がり贈られたばかりの真珠のネックレスを椅子に引っ掛けばらけさせてしまう。アミーは祝いに来てくれた客がいるにも関わらず屋敷の外に出て兵士の行進を見る。だがトムの姿はない。
「トムは?」 兵士の一人に聞いた。「まだアマルファだ、生き延びるさ」 「怪我をしたの?」 アミーは居ても立ってもいられない。
屋敷に戻りベシェールに言う。「彼はアマルファよ、行くわ」 「重症なのか?」 「分からないの」 ベシェールはすぐ車の手配をし、あっけに取られている客達に言った。「私の願いは愛する女性の幸せだけなのです」

アマルファの病院で負傷兵のベッドを見て回るアミー。だがトムは見当たらない。負傷兵の一人が言った。「トムは馬鹿な奴だ。怪我をしたと嘘を言ってばれたんだ。分遺隊へ飛ばされた」
アミーは酒場で女と酒を飲んでいるトムを見つけた。「何しにここへ?」 トムが言うと、「負傷したかと・・・」 とアミー。「かすり傷もないさ。あの富豪と結婚するのか?」 「もちろん」 「本当に?」 「気は変わらないわ」 その時、集合ラッパが聞こえてきた。 「幸せを祈るよお嬢さん」 トムが出て行った後、アミーは酒場の木のテーブルにナイフで削った跡を見た。そこにはハートマークに矢が刺さった絵の下にアミー・ジョリーと名があった。アミーは感慨に浸った。

翌朝、トムたちの一軍が新たな戦場に向けて行進していた。熱砂に向けての行進だった。兵士達の後に女達が続く。兵士の妻や愛人の一行だ。
アミーはベシェールと見送りに来ていた。今、アミーの心は揺れていた。突如、アミーはベシェールを抱擁すると砂漠に向かって歩き出した。ベシェールは見守っているしかなかった。
アミーは途中でハイヒールを脱ぎ捨てる。アミーは女達に追いついた。アミーの姿が小さくなる。太鼓やラッパの音も小さくなっていく。
映画館主から

ジョゼフ・フォン・スタンバーグ監督とマレーネ・ディートリッヒのコンビで「嘆きの天使」(’30年)に続いて製作された恋愛映画の名品。

男装の麗人に扮したドイツ生まれのマレーネ・ディートリッヒは微笑の影に謎を秘めた美女。このとき彼女は29歳。ジョゼフ・フォン・スタンバーグの「嘆きの天使」で脚光を浴び「モロッコ」で決定的になりました。
文豪ヘミングウェイは「高い頬骨のすぐ下の窪み、いつも胸張り裂ける思いをさせるあの窪み」と書きその不思議な容貌を絶賛したそうです。
かのヒトラーもハリウッドに渡った彼女に特使を送り、ドイツに帰るよう説得に当たったそうですが、彼女は拒否したばかりか反ナチ運動にも積極的に参加する反骨の持ち主だったようです。後年の「情婦」(’57年、監督:ビリー・ワイルダー)では驚くような演技を披露してくれました。1992年、91歳の長寿を全うしました。

外人部隊の一兵卒であるゲーリー・クーパーは名だたるプレイボーイ。このとき彼も29歳。大スターも若かった。本作でのプレイボーイとは実像は違い、ハリウッドでは珍しい離婚経験なしなのだそうです。晩年「真昼の決闘」(’52年、監督:フレッド・ジンネマン、共演:グレース・ケリー)で初老の保安官を演じ二度目のアカデミー主演男優賞を受賞しますが1961年、癌のため60歳という若さで亡くなりました。

そしてアドルフ・マンジュー。優しく紳士的な振る舞い。ハリウッドの伊達男として名を馳せた彼は後年、スタンリー・キューブリックの「突撃」(’57年、主演:カーク・ダグラス)で老獪なフランス将軍を演じています。

熱砂の中に行進して行く兵士達。その後を追うディートリッヒ。その姿と共に太鼓とラッパの音が小さくなっていく。映画史に残るラストシーンであります。

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