|
「ニュールンベルグ裁判」 |
| ニュールンベルグ裁判 1962・米 |
|
![]() 製作:監督: スタンリー・クレーマー 脚色:アビー・マン スタンリー・クレーマー 撮影:アーネスト・ラズロ 音楽:アーネスト・ゴールド 出演:スペンサー・トレーシー バート・ランカスター リチャード・ウィドマーク マクシミリアン・シェル マレーネ・ディートリッヒ ジュディ・ガーランド モンゴメリー・クリフト ウィリアム・シャトナー ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |
物語 1948年、ニュールンベルグの市街をダン・ヘイウッド判事(スペンサー・トレーシー)は車で法廷に向かった。
「ひどい・・・」 判事はつぶやいた。ニュールンベルグの町は連合軍の
爆撃で瓦礫と化していた。建物は至る所で崩れてみる影も無い有様だった。
判事はアメリカ政府からこの裁判のために派遣されたのだ。ニュールンベルグでの長い裁判で、今回は軍人ではなく、ナチス首脳部を支えた法律家たちが被告だった。判事の顔のしわが思慮深さを物語っていた。
被告席に4人の被告が入廷してきた。ワイマール憲法を立案した一人で、ナチス政権化で法務大臣だったエルンスト・ヤニング(バート・ランカスター)を含む法律家たちだ。続いてヘイウッド判事が着席し法廷が幕を開けた。
既に起訴状を読んでいる被告達にヘイウッド判事は尋ねる。罪状をどう思うかと。 3人の被告は「無罪」であると答えたがヤニングは無言のままだ。替わってロルフ弁護士(マクシミリアン・シェル)が答える。「無罪」であると。 ローソン検事(リチャード・ウィドマーク)は口火を切った。 「ナチスは殺人、拷問、残虐行為を繰り返した。被告達は第三帝国の指導者達と最も悪意に満ちた計画的で破壊的な罪を犯したのです」 ロルフ弁護士が弁舌を振るう。 「ヤニングの著書は大学の教科書として世界中で採用されている。1935年にドイツ国の法務大臣に就任した。弁護側としても責任の所在を明らかにしたい。ヤニングだけが裁かれるのではない。ドイツ国民もです。ヤニングを裁くことは全ドイツ人を裁くことです!」 ヤニングは無言のまま聞いている。 ヘイウッド判事が裁判中借り受けている屋敷はベルホルト将軍の屋敷だった。ベルホルトは既に死刑を執行されていた。 ベルホルト夫人(マレーネ・ディートリッヒ)が地下室の忘れ物を取りに立ち寄った。夫が死刑になったにもかかわらず凛としたたたずまいの女性だった。 夫人が帰ったあと、ヘイウッドはかってベルホルトに仕えた執事夫妻に話を聞いた。 執事夫妻 「ヒトラーもいいこともしたんです。アウトバーンを整備し仕事を増やしました。私達は大虐殺のことは何も知りませんでした」 検察側の証人ルドルフ・ペーターゼン(モンゴメリー・クリフト)は、ナチスにより断種の手術を受けていた。 ロルフ弁護士が、「精神不適格者の断種は合法でした」 と語り、ペーターゼンの母親を引き合いに出した。母親は精神病者だった。 ペーターゼンは母親の写真を掲げ急に落ち着きをなくし、話す言葉もしどろもどろになっていく。 ローソン検事が演壇に立つ。 「ヒトラーが署名した法令を提出します。『忠誠を誓わぬ者や反抗を示す者は人目につかぬよう即刻逮捕し友人や縁者に分からぬよう裁判もせず強制収容所へ送れ』と、この法令に基づき多くの令状が出されました。被告人たちの署名入りです。 これで何百人もが収容所へ送られました。彼らは強制収容所の管理には直接関わってはいません。暴力を振るったりガス室にガスを送ることはしていない。だが、さきほどの令状に署名して法令を実行し裁判を放棄したことで何百万もの犠牲者を収容所に送ったのです」 ローソン検事は次に大佐として証言台に立った。彼は1945年の終戦時に現役の軍人であり、強制収容所を解放する部隊に属していた。その際記録の撮影にも携わったのだ。 法廷の窓にカーテンが引かれ、スクリーンに映像が映し出された。 まず第三帝国が設置した強制収容所の場所が示された。次々に出現する映像は驚くべき内容だった。人間を焼いた焼却炉、集められたブラシの山、靴、めがね、金歯は溶かされ月に一度親衛隊の衛生部へ送られた。 皮膚で作ったランプの笠、画用紙にした皮膚、ポーランド人労働者の頭、灰皿にされた人間の骨盤、来るべき絶滅に備え腕に番号を彫られた子供達・・・・忌まわしい映像が法廷にいる人々の肺腑をえぐっていく。 ローソン検事は言葉をつなげた。「子供達には時に情けが掛けられた。モルヒネで意識を失わせ首を吊ったのです。絵を並べるように壁のフックに掛けました」 映像は貨車で運ばれていく死体の山を映し出した。「残虐な医学的実験のため何百人もがモルモットにされました。収容者は裸にされシャワー室へ、扉が施錠され特別に作られた開口部から毒ガスが注入された。うめいたり泣き叫ぶ声も2〜3分すると静寂が訪れました。 貨車が運んだ人数は、チェコから9万人、ギリシャから6万5000人、フランスから1万1000人、オランダから9万人、ハンガリーから40万人、ポーランドとシュレジェンから25万人、ドイツから10万人。 次の映像はイギリス軍がベルゼンで撮ったものです」 ブルドーザーが死体の山を押していく。まるで巨大なゴミの山を処理しているかのようだった。 「この死体は占領されたヨーロッパの人々です。ユダヤ人の3分の2が虐殺された。ナチスの記録には600万人以上とあります」 そこで休廷となった。 留置所で被告の一人がぼやいた。「あんな映像を見せるなんて、あんなことはできっこない」 近くで聞いていた男が言った。「可能だよ。2000人収容できる部屋が2つあればな。30分で1万人は始末できる。シャワーと偽って水の替わりにガスを入れる。殺すことより死体の処理が問題なんだ」 彼はアイヒマンの収容所の管理をしていた囚人だった。 ヘイウッド判事はベルホルト夫人とバーでデイトしていた。この高貴な夫人は魅力的だ。深い悲しみも凛として表に出さない。 「私達が知っていたと思います?女や子供まで殺したのを・・・知らなかったのです・・・」 夫人は言う。「でも貴方のご主人は軍の上層部でした・・・」 ヘイウッドは夫人を見つめる。 「主人は知らなかったのです。軍人らしく死ぬのを望んでいました。私は連合軍に何度も頼みました・・・銃殺刑にしてほしいと・・・しかし、絞首刑でした・・・生きるには、忘却が必要ね」 ヘイウッドは夫人を見つめグラスを傾けた。 ロルフ弁護士が演壇に立つ。 「昨日、法廷に映像が流れました。衝撃でありショッキングでした。ドイツ人としてあのような出来事を恥じています。正当化などできません。何代も何世紀も・・・ しかし、検察側のやり方には不正と理不尽を感じ、あまりにも公正さを欠くものと考えます。被告人たちとは関係ありません!何を証明したいのですか!全ドイツ人に責任があるというのですか!事実は少数の過激な連中の戦争犯罪人の仕業なのです。事実を知っていたのは一握りのドイツ人だけだ!」 アイリーン・ホフマン(ジュディ・ガーランド)が検察側の証言台に呼ばれた。ホフマンは1935年に公布されたニュールンベルグ法に違反した罪で2年間投獄され、相手のユダヤ人フェルデンシュタインは処刑されている。この裁判の裁判長がヤニングだったのだ。 「ユダヤ人との肉体関係が違法だと知っていましたか?」 ロルフ弁護士の問いに、ホフマンは「はい・・・」 と答える。 ロルフはその情事の状況をホフマンに鋭く質問していく。 「彼は優しく父親以上の存在でした。よくないことや下品なことはしてないわ・・・何を言わせたいの?」 ホフマンは屈辱のあまり泣き始めた。 その時だった。今まで終始無言だったヤニングが被告席から立ち上がった。 「ロルフ君!また繰り返す気か!」 法廷に轟くような大音声だった。ヤニングはロルフにとって法曹界の大先輩にあたるのだ。 休廷の合い間にロルフはヤニングと面談した。 「過去を忘れ未来を見なくては。アメリカの支配を望みますか?ヒロシマ、ナガサキに原爆を落とした国ですよ。女や子供まで何十万人もが焼け死んだ。そんな道徳意識の国だ」 ヤニングは黙って首を振る。「何も聞こうとは思わん、君からは・・・」 ヤニングの証言はこうだった。 「民主主義は内側から崩れ、荒廃し食料も底を付いて隣人を恐れ自分自身をも恐れていた時代、ヒトラーの台頭も理解できるはず。彼は言った。『ドイツ人であることを誇るのだ、共産主義者、自由主義者、ユダヤ人は悪魔だ。悪魔が死ねば災いも消えるのだ』と。 羊をいけにえにした大昔の物語と同じです。・・・私達には分かっていた。その言葉が嘘であり、悪質だと。何故沈黙を守り体制に加担したのか・・・祖国を愛していたからだ。 これは過渡期の一段階にすぎないのだ、すぐに終わるだろう。ヒトラーだって終わる日が来る。祖国の危機だ。顔を上げよう。“前進”が合言葉でした。その成功は歴史が証明しています。ヒトラーの憎悪と権力がドイツと世界に催眠術をかけたのです。 裁判長!私は甘んじてこの法廷では沈黙しました。私の名誉を守るのは弁護士に任せようとした。しかし、彼はその手段として亡霊を呼び戻そうとした。第三帝国が国民のためだったと暗示し、国の繁栄のため断種をしたのだと言い、ユダヤ人が16歳の少女と寝たのだとほのめかした。それもまた、国を愛するが故の行為でしょう。 真実を述べるのは容易ではない。だがドイツを救うには我々が痛みや屈辱を乗り越え罪を認めるしかありません。 フェルデンシュタインの判決は証拠など関係なく、最初から有罪と決めていた。ユダヤ人を生贄にする儀式だったのです!」 ロルフ弁護士が立ち上がった。「被告人は自分の発言とその意味を・・・」 「自覚している」 ヤニングが答える。「我々が強制収容所の存在を知らなかったというのか?私達が何百万人もの虐殺に気づかなかったというのか?」 「裏切り者!」 被告席の一人がヤニングに罵声を浴びせた。 ヤニングは続けた。「私は真実を語る。たとえ世界が反対しても真実を語るつもりだ」 被告席を見つめ、「私服を肥やした者、断種を多くの人に受けさせた者・・・そして、このヤニングが誰よりも罪深い。彼らの正体を知りつつ同調していたのだ。私は自分の人生を汚れたものにしてしまった・・・」 それはヤニングの罪の告白であった。ヘイウッド裁判長の目がヤニングにじっと注がれた。 ロルフ弁護士が演壇に立つ。 「私はヤニングの弁護をするつもりだが、彼は罪を認めてしまった。疑いなく有罪と感じているのです。彼がそう断ずるのなら同じような人も断罪されなければなりません。 世界はヒトラーの演説を聞いた。翻訳された『わが闘争』を多くの人が読んだのでは?1939年、ヒトラーと条約を結び大戦を可能にさせたソ連は有罪ですか? 1933年にバチカンとの政教条約はヒトラーに大きな威厳を与えたがバチカンは有罪ですか? 世界の指導者チャーチルは1938年の公開書簡に記しています。“英国にもヒトラーのような強靭な意志の人を望む”と。チャーチルは有罪ですか? ヒトラーの再軍備に手を貸したアメリカの経営者は大金を儲けたのでは?彼らも有罪ですか? 違いますよね、裁判長! ドイツだけでなく全世界にヒトラー台頭の責任がある。被告を責めるのは簡単だ。ヒトラーの台頭を許した民族性を非難するのも簡単だ。・・・なのに、彼と約したソ連や賞賛したチャーチルや儲けたアメリカは不起訴なのですか? ヤニングは罪を認めました。もし彼が有罪ならば世界全体も有罪です!同じ罪なのですから!」 声高にいい終わりロルフ弁護士は演壇を降りた。 こうして8ヶ月に亘る裁判は最終弁論を終わり、1万ページの記録を残して判決となった。 ヘイウッド裁判長は深い皺に刻まれた顔で法廷を見渡した。 「単純な殺人や残虐行為が起訴状の焦点ではない。要点は被告人たちが自発的に残虐で不正に満ちた体制に自ら関与したことです。 文明国ならば道徳と法に違背する行為です。裁判所は記録を入念に精査した結果、合理的疑いの余地無く有罪を裏付ける証拠を多数発見しました。 人間を絶滅させるための法や命令の制定に関与した者、法を執行する地位にいて国内法から見ても違法な法の執行に参加した者、刑法の原則とはどのような文明社会でも共通しています。“殺人を行わせる者、犯罪を目的としてその凶器を供給したる者、犯罪を幇助したる者すべて有罪”という原則です。 ロルフ弁護人は言いました。『ヤニングは卓越した法律家で国益を考え行動した』と。これは真実です。ヤニングは悲劇的な人物です。自らの行為を憎んだでしょう。苦しみは同情に値するが、彼が関与した大量虐殺を許すことはできません。 もし被告人全員が堕落した倒錯者で第三帝国の指導者たちが怪物ならば道徳的意味など問う必要はないのです。天災にあったようなものですから。 だが、分かったことは国家の危機の際には誰もが、どんな卓越したした人でも想像を絶した犯罪を犯していいと信じ込んでしまうことでした。 この法廷が必要だと思うのは、正義であり、真実、そして人間の命の重さです」 ヘイウッド裁判長が言い渡した判決は4人の被告全員が終身刑であった。 ヘイウッドがアメリカへ帰る直前、留置所のヤニングから会いたいと申し出があった。面会したヘイウッドにヤニングは言った。 「重圧をお感じになるでしょう。判決は批判され、支持は少ないでしょう。でも少なくとも私はあなたの判決を尊敬しています」 「あなたの陳述も素晴らしかった」 ヘイウッドは返した。 「お呼びした理由は・・・あの殺された何百万の人たちのことは知らなかったのです。それだけは信じてください」 「・・・ヤニングさん、あなたが無実と知りつつ死刑にしたのが始まりなのです」 ヘイウッドは寂しく留置所を後にした。 |
| 映画館主から 第二次世界大戦後、ドイツのニュールンベルグで行われた連合国によるナチス・ドイツ首脳部の戦争裁判を描いたスタンリー・クレーマー渾身の問題作。 3時間に及ぶ大作ですが、深刻な問題を扱っているにも関わらず出演者の力演に圧倒され飽きることはありません。 裁判長になる判事に名優スペンサー・トレーシー。演技しているように見えないその自然な演技はいぶし銀の光を放ち、かのローレンス・オリビエをして演技の鏡と言わしめたほどです。 被告の一人の法律学者にバート・ランカスター。前年の「エルマー・ガントリー」でアカデミー主演男優賞を得た彼は堂々たる貫禄を示しました。ナチスに関与したことを恥じ、被告の中で唯一罪を認める難しい演技です。 ドイツ人弁護士に扮したのはオーストリア出身のマクシミリアン・シェル。「ヤニングを有罪とするなら、ソ連もチャーチルもバチカンもアメリカも有罪だ!」と熱弁をふるうシェルの演技は他を圧倒して説得力があります。 彼は本作により、アメリカ映画主演2作目にしてアカデミー主演男優賞を獲得しています。 アメリカ側の検事を演じたのは悪役顔のリチャード・ウィドマーク。2008年3月に94歳で亡くなりました。これも熱演。 更に、証人としてモンゴメリー・クリフト、ジュディ・ガーランド、そしてナチス高官夫人にマレーネ・ディートリッヒという豪華なキャストです。 監督のスタンリー・クレーマーは反骨の社会派で、「渚にて」(’59年、主演:グレゴリー・ペック)、「手錠のまゝの脱獄」(’58年、主演:シドニー・ポワチエ)、「招かれざる客」(’67年、主演:スペンサー・トレーシー)とその作品は常にメッセージ性の強いものでした。 本作はアカデミー主演男優賞のほかに脚色賞も得ています。 作品賞と監督賞ノミネートされるも「ウエスト・サイド物語」のロバート・ワイズに軍配が上がっています。 さらに助演男優賞にモンゴメリー・クリフト、助演女優賞にジュディ・ガーランドがノミネートされましたが、こちらも「ウエスト・サイド物語」のジョージ・チャキリス、リタ・モレノにさらわれました。対抗馬が強烈だっただけに不運としかいいようがありません。 戦勝国が敗戦国を裁く裁判としてわが国には「東京裁判」があります。A級戦犯25人のうち東条英機元首相ら7人が絞首刑。 B・C級戦犯は5700人に及び、うち920人に死刑が執行されたとのことです。戦争に負けるということはそういうことなのでしょうが、アメリカの広島、長崎への原爆投下で何十万人もの人の生命を一瞬に奪った大殺戮の罪は誰が裁いたのでありましょう。この大矛盾には到底納得できるものではありません。 「東京裁判」ではインドのパール判事が唯一日本無罪論を展開しています。日本を裁くのなら連合国も同時に裁くべきであり、連合国を裁かないのであれば日本も裁くべきではないというのが論旨でありました。 |
|
|