<第35話 フツノミタマとヤタガラス>

 カムヤマトイハレビコは、和歌山から南に回って、熊野村に到着した。

 「おや? あれは何だ?」

 「どれですか?」

 「先ほどからちらちらとこちらをうかがっている者がいるようだが?」

 「あ、あれは!」

 「おぉ、あれは大きな熊だな」

 「全くです」

 「おや、消えてしまった…」

 「一体、何だったのでしょうか?」

 「うん、何だったのだろ…ふぁぁぁ」

 「あっ! カムヤマトイハレビコ様…ふぁぁぁぁ」

 …zzz

 突然、正気を失い、倒れ伏すカムヤマトイハレビコと兵士たち。

 そのとき一振りの太刀をもった男が現れ、カムヤマトイハレビコに剣を献上し
 た。

 「カムヤマトイハレビコ様!」

 「…ん、うぅぅん」

 「お気づきになられましたか!」

 「ふぁぁぁ、長い間寝ていたようだなぁ」

 「よかった、この太刀をどうぞ」

 「ん、この太刀はどうしたのですか?」

 「カムヤマトイハレビコ様に献上いたします」

 「そうか、ありがとう」

 それからこの太刀でもって、熊野の山の荒ぶる神を切り倒した。

 「ふぁぁぁ」
 
 「よく寝た!」

 「おぉ、お前たちも目が覚めたか」

 「カムヤマトイハレビコ様、私たちはどうしていたのですか?」

 「熊野の神のせいで、眠っていたのだよ」

 「そうなんですか。不覚をとり申し訳ございません」

 「いやいい。このタカクラジ(高倉下)の持ってきてくれた太刀で熊野の山の
  神は退治してきたから」

 「ありがとうございます」

 「さて、タカラクジよ、お前はどうしてこの太刀を持ってきてくれたのか、訳
  を話してくれぬか?」

 「はい、残らずお話いたします」
 
 「うむ」

 「あるとき、私は夢をみました。その夢の中に、アマテラス様とタカギノカミ
  様が現れました」

 「なんと、アマテラス様とタカギノカミ様が!」

 「ええ、お二人は、タケミカヅチ神を呼び寄せてこういいました。『葦原中国は
  ひどく騒然としており、我が御子たちは病み悩んでいるようだ。かの国はそ
  なたが服従させた国なのだから、もう一度そなたがいって御子たちを助けて
  きなさい』と」

 「そうですか、アマテラス様が…」

 「その命に対して、タケミカヅチ神は、『私が降らなくても、かの国を平定した
  太刀がありますから、このサジフツノカミ(佐士布都神)を降しましょう』
  と」

 「この太刀がその太刀なのか?」

 「ええ、そして、タケミカヅチ神は『この太刀を降ろす方法は、お前の倉の棟
  をうがって、その穴から落とし入れることにする。だから、お前は朝目覚め
  たら、この縁起のいい太刀を見つけ、天つ神の御子にお渡しするのだ』と仰
  せになりました。」

 「なるほど」

 「そこで、翌朝、倉を見ると本当にこの太刀があったので、こうして献上いた
  した次第でございます」

 「よく分かった」

 「さらに、夢の中で、タカギノカミ様から伝言を預かっております」

 「それは何ですか?」

 「天つ神の御子をこれ以上奥に行かせてはならない。なぜならば、荒れすさぶ
  神が非常にたくさんいるから」

 「ふむふむ」

 「今、天上からヤタガラス(八咫烏)を遣わそう。そして、そのヤカガラスが
  先導するので、その後についていくように、とのことでございます」

 「分かりました。仰せに従いたいと思います」

 ………………………………

 バサッ バサッ

 ヤタガラスの後を追いながら吉野川の川下にたどりついたカムヤマトイハレビ
 コは、魚をとっている人に出会った。
 さらに進むと、井戸から尾の生えた人に出会った。
 さらに、山に入ると尾の生えた人が岩を押し分けで出てきた。

 それぞれ天つ神の御子が来るというので、出迎えにきた国つ神だった。
 そして、奈良県の宇陀という場所にたどりついた。 
 
 タケミカヅチから授かったこの霊剣、サジフツノカミは別名、フツノミタマ(布
 都御魂)といい、石上神宮に鎮座している。

 <参考文献>
 岩波書店:古事記(倉野憲司校注)
 講談社学術文庫:古事記(上)全訳注(次田真幸)

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 【キリのコメント35】

 *このページは古事記との違いや、さらに詳細な説明が書かれています。
  お時間に余裕がございましたら、ご覧くださいませ。 

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 【次号予告クイズ】

  Q35.天武天皇を殺害しようとしたエウカシは、その企みがバレて殺されてし
    まいます。
    どうしてバレたのでしょう?
 1.弟がその企みをバラした
 2.ヤタガラスにその企みを見つかった
 3.神武天皇自らその企みを見破った

 答えは、次号を読めば分かります。
 次号「エウカシとオトウカシ」をお楽しみ〜

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