第16話 兄、信広謀反」
「信広様、美濃からの使いが参りました…」
「うむ、こちらへ通せ」
「はっ」
「そして、お前たちは少し外せ」
「かしこまりました」
………………………………
「いよいよご覚悟を召されましたか」
「あぁ、わしは別腹とはいえ、信長の兄。わしが織田家の跡を継いでもいいは
ずだ」
「誠に、信広様こそ織田家の当主にふさわしい」
「斎藤家はわしを支持してくれるのだろうな」
「もちろんです。信広様がご当主になったあかつきには今まで以上、織田家と
斎藤家の仲はむつまじくなるかと」
「そうか、よろしく頼む」
「そこで、かねてからの作戦の確認ですが…」
「あぁ、信長は敵が来ると軽率にもすぐに出陣する」
「そこで、信広様が出陣され、清洲の町筋をお通りになる」
「すると、城の留守を任されている佐脇藤右衛門が出てきてきっとわしを接待
るはず。そのときわしが佐脇を殺し、その混乱に付け入り城を奪い、合図の
煙を上げる」
「それに応じて我々美濃衆が川を越え、清洲に攻め入る」
「と同時にわしも兵を出し、味方を装って油断させ、信長が美濃衆と合戦に及
んだら、後方より攻めかかる」
「さすれば、信長は挟み撃ち。信広様が織田家を掌中にするのもたやすいかと」
「うむ、作戦は完璧だな」
「左様でござります」
「ふふふ、これでわしも織田家の当主になれるのか」
「ご武運をお祈りしております」
…………………………………………
「お館様!」
「何事だ」
「美濃衆が川を越え、攻め入ってきたとのことです」
「そうか」
「ただ…」
「どうした」
「いつもより兵たちの顔がうきうきとしているというか、鬼気迫るものがなか
ったとのことでございます」
「ふむ…、佐脇を呼べ」
「はっ」
「藤右衛門、ただいま参りました」
「うむ、これから攻め入った美濃衆を牽制するために出陣するが、お前は城か
ら一切出てはならぬ」
「はっ」
「さらに、町人も町の総構えを堅くし、木戸を閉め、わしが戻るまで人を入れ
てはならぬ」
「かしこまりました」
「者ども兵を集めよ。出陣だ!」
…………………………………
「信広様、信長が出陣したとのことです」
「そうか、皆の者に清洲へ出陣だと伝えよ」
「かしこまりました」
「これで信長もおしまいよ」
…………………………………
「信広様、清洲の城下に入れませんが…」
「何? 藤右衛門はどうした」
「それが、信長の命にて誰も城下に入れるなとのこと。たとえ、信広様でもお
入れすることはできないと申してきております」
「(もしや早わしの謀反が露見したのか?)」
「信広様、いかがいたしますか?」
「ううむ、仕方ない兵を帰すぞ」
「はっ」
……………………………………
「お館様、美濃の兵が撤退しているとのこと、追撃いたしますか?」
「捨ておけ」
「よろしいのですか?」
「あぁ、大方思惑通りにことが運ばなかったので、逃げ帰ったのだろう」
「清洲よりご注進! 信広様ご謀反!」
「そうか、藤右衛門は信広の兵を城下に入れなかっただろうな」
「もちろんでございます。しかし、なぜ信広様がご謀反されるのが分かったの
ですか?」
「誰が謀反を起こすかは分からなかったが、美濃兵がうきうきと出陣している
と聞き、これは家中に謀反があると思ったまでのこと。理由もなく出陣する
美濃兵でもなかろうからな」
「なるほど」
「して、信広はどうしている」
「はっ、城に戻った後も、助力するものもなく困り果てたご様子です」
「そうか。それにしても信広もあさはかな男よ。こんなことで信長をだませる
はずがあるまいのに」
<参考文献>
ニュートンプレス:信長公記(太田牛一:原著 榊原潤:訳)
角川ソフィア文庫:信長公記(奥野高広、岩沢愿彦 校注)
===================================
*このページは信長公記との違いや、さらに詳細な説明が書かれています。
お時間に余裕がございましたら、ご覧ください。