第25話 信長、火起請を取る
ガタッ、ガタタッ
(…何!?)
ガタタタッ
(どろぼう?)
ここは尾張国海東郡大屋の里にある甚兵衛という庄屋の家。
(どうしよう、だんな様は清洲に年貢を納めにいって留守だというのに)
甚兵衛の妻はおそるおそる物音のするほうに近づくと、家の中を物色していた
あやしい人物がいた!
(ええぇい!)
勇気をふりしぼってその人物にしがみつくと、その人物は驚き、一目散に逃げ
出した。
(ふぅ、怖かったぁ…。おや、この刀のさやは!?)
無我夢中にしがみついたときにその人物の刀のさやを取り上げた妻が、そのさ
やをよく見ると、甚兵衛とは仲が良い、隣村の左介の刀のさやではないか!
翌日、甚兵衛が戻ってくるのを待って、このことを清洲の守護(斯波氏)に申
し立てた。
当然、疑われた左介も言い分を申し立てる。
「うちに入ったどろぼうは絶対、この左介です。この刀のさやがなによりの証
拠です!」
「何をぬかすか! そのさやは2日前に盗まれている!」
「しらばっくれる気か!」
甚兵衛と左介の主張はまっこうからぶつかり、ことの真偽を火起請をして判定
することになった。
火起請とは、真っ赤に焼いた鉄をにぎらせ、持てるかどうかで真偽を判定する
ものである。
「では、一同、山王社へ集まるように」
パチパチパチッ
まずは、真っ赤に焼かれた手斧が疑われた左介に渡される。
ジュッ
「う、うわわ、アチッ!」
なんと、左介は火起請を取り落としてしまった!
「い、今のは無効である!」
ケチをつけたのは、池田勝三郎の家来衆。
左介は勝三郎の被官でもあったので、当時権勢のあった信長の乳兄弟、勝三郎
の権威におごっていた家来衆は、左介をかばい、強引に成敗させまいとした。
「何の騒ぎだ?」
そこへ、鷹狩りの帰りの信長が立ち寄った。
「弓・槍・道具を持って、大勢の人間が集まっているのはただ事じゃないな」
「さっそく事情を調べて参ります」
事情を聞いた信長は、さっそく双方の言い分を聞いた。
その言い分を聞いているうちに、信長の顔色が変わった。
「それで、その手斧はどのくらい焼いたのか。さっきと同じくらいに焼いてみ
ろ。私が見てみる」
「このくらい熱しました」
「では、私がこの火起請をうまく取ることができたら、左介を成敗するから、
そのように心得よ」
そういって信長は、焼いた手斧を手の上に受け取り、三歩歩いて柵に置いた!
「どうだ、見ていたか!」
そういって、信長は左介を成敗した。
その光景はあまりにもすさまじいものだった。
<参考文献>
ニュートンプレス:信長公記(太田牛一:原著 榊原潤:訳)
角川ソフィア文庫:信長公記(奥野高広、岩沢愿彦 校注)
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*このページは信長公記との違いや、さらに詳細な説明が書かれています。
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