「第35話 堂洞砦を攻める」

 「申し上げます! 先に味方になった佐藤紀伊守の守る加治田城が、美濃方の
  長井隼人正に攻められています!」

 「もっと詳しい状況を述べよ!」

 「はっ、長井は加治田から25町離れた堂洞という場所に砦を構え、岸勘解由
  左衛門を入れ置き、長井自らは、鍛冶で有名な関から50町離れた場所に本
  陣を置いているとのことでございます」
 
 「ふむ、このままでは加治田に迷惑をかけるな」

 「いかがいたしましょうか」

 「この信長を頼ってきたものをよもや見殺しにできまい。すぐに出陣だ!」

 「はっ!」

 9月28日、信長自ら出陣。
 堂洞砦を取り巻いた。

 「この砦は三方が谷で、東だけ丘に続いているな」

 自ら馬を駆け巡らせ砦の様子を確認している信長。
 この日は風が強く吹く日だった。

 「皆の者、よく聞け! 堀ぎわへ詰め寄せたら、四方からたいまつを持ち寄っ
  て投げ入れよ!」

 「かしこまりました!」

 長井隼人正は後方から攻めようとして、堂洞砦のすぐ下まで来ていたが、足軽
 さえも出さない。
 それを見た信長は、前後に軍兵を備え、攻めさせた。

 信長の命令通り、兵たちはたいまつを砦に投げ入れ、二の丸を焼き崩して天主
 やぐらへ攻め込んだ。

 「二の丸の入り口の高い家の上から弓矢を無駄なく放っているのは誰だ?」

 「太田牛一のようでございます」

 「うむ、小気味よく見事だと牛一に伝えよ」

 牛一に三度まで使いの者を使わす信長。
 その間にも砦を攻め続け、正午から続く攻防は午後6時まで続いた。

 「お館様! 川尻与兵衛殿、天主やぐらへ乗り入れました!」

 「丹羽五郎左衛門殿の活躍も一方ならず!」

 「敵方の大将分はほとんど討ち取りましてございます」

 「うむ、ご苦労。今から加治田へ向かうぞ」

 「お館様、まだ、加治田は危のうございます」

 「構わぬ。今宵は佐藤親子の城に泊まるぞ」

 信長自ら自分たちのもとに来てくれたことに感涙を流す佐藤親子。

 「信長様御自らお越しいただけるとはかたじけのうございます」

 「これからも頼んだぞ」

 「はっ、この佐藤命の限り信長様のために働く所存でございます」

 翌29日、山下の町にて首実検をし、帰陣する信長のもとに伝令が駆け込んで
 きた。

 「お館様! 関口より長井隼人正、井口(稲葉山)より斎藤竜興が攻め寄せて
  参りました! 敵の兵は三千あまり!」

 それに対する信長の兵はわずか七、八百あまり。
 負傷者も多く、背後には平野が広がっていた。

 「慌てるな! 兵を立て直し、手負いの者、雑人は後ろに下がれ! 足軽隊前
  に!」
 
 信長はこのような指示を馬に乗りながら次々に出し、軽々と全軍を撤退させた。
 
 「くそっ! 信長に逃げられたか!」

 斎藤竜興は悔しがったということである。

 <参考文献>
 ニュートンプレス:信長公記(太田牛一:原著 榊原潤:訳)
 角川ソフィア文庫:信長公記(奥野高広、岩沢愿彦 校注)

 第36話へ

 戻る


 |  医食同源<体にいい食べもの>  |  週刊「孫子の兵法」  |  週刊「国宝」  |  週刊「論語」  | 
 |  織田信長一代記  |  一日一考  |  古事記物語  |  お城旅行記  |