「そして誰もいなくなった」
そして誰もいなくなった
         1945・米
ルイス・ヘイワード(左)とジューン・デュプレエ

監督:ルネ・クレール
原作:アガサ・クリスティ
脚本:ルネ・クレール
    ダドリー・ニコルズ
撮影:ルシエン・アンドリオ
音楽:チャールズ・プレヴィン

出演:バリー・フィッツジェラルド
    ウォルター・ヒューストン
    ルイス・ヘイワード
    ローランド・ヤング
    ジューン・デュプレエ
    ミッシャ・オウア
    C・オーブリー・スミス
    ジュディス・アンダーソン
    クイニー・レナード
    リチャード・ヘイドン
    ハリー・ザーストン

そして誰もいなくなった

そして誰もいなくなった

そして誰もいなくなった

物語

イギリスのデボン州の孤島インディアン島にある大邸宅。
ここに招かれた男女が8人。招いたのはオーエンという人物だが皆手紙などによって招かれたのでオーエン氏を知るものは誰もいない。
邸宅の執事ロジャーズ夫妻とてオーエン氏に会ったこともなかった。

お互いに自己紹介をしあう。食卓の上にインディアンの子供を象った人形が10体置かれていた。
オーエン夫人の秘書をしているというベラ・クレイソーン(ジューン・デュプレエ)が古い子守唄を思い出し語り始める。
「・・・10人が食事に行って、一人が咽を詰まらせ9人になった・・・ひとりが寝過ごして8人に・・・8人のインディアンがデボンに旅をした、一人が残ると言い出して7人に・・・」
N・スターロフ王子(ミッシャ・オウア)がピアノを弾きながら引き継いだ。
「7人がまき割りをしていたときに一人が自分の頭をかち割って6人に・・・6人が蜂の巣をいたずらしていたら、一人が蜂に刺されて5人になった・・・5人は法律に興味を持った、一人が裁かれて4人になった・・・4人のインディアンは海に泳ぎに行った、薫製ニシンが一人を飲み込んで3人に・・・3人のインディアンが動物園を歩いていたら、一人が熊に襲われ2人になった・・・2人が陽を浴びていたら一人が焼け死んで、残りは一人・・・とうとう一人が残された・・・彼は首をつり・・・そして誰もいなくなった・・・」

「皆さん、お静かに、今夜のホスト、オーエンです」 突如どこからか声が聞こえてきた。全員が顔を見交わす。
「あなた方は罪人です。・・・マンドレイク将軍(C・オーブリー・スミス)は妻の愛人、マクフィールド中尉を死に追いやった。エミリー・ブレント(ジュディス・アンダーソン)は甥のピーター・ブレントの死の誘因となった。E・G・アームストロング医師(ウォルター・ヒューストン)は酔いに任せてM・グリーズ夫人を死なせた。スターロフ王子(ミッシャ・オウア)はマーロウ夫妻死亡で有罪。ベラ・クレイソーン(ジューン・デュプレエ)は姉の婚約者R・バークレイを死なせた。F・J・クインカノン判事(バリー・フィッツジェラルド)はE・シートンの絞首刑にその責を負っている。F・ロンバート(ルイス・ヘイワード)は東アフリカの先住民21人の死に関わっている。ブロア(ローランド・ヤング)は偽証によってJ・ランダーを死に追いやった。・・・ロジャーズ夫妻(リチャード・ヘイドンとクイニー・レナード)は病気の前の雇い主J・ブラディ夫人を死なせた・・・」

ロジャーズ夫人が悲鳴をあげ失神した。今まで聞いていたのはレコードだった。「誰がレコードをかけたのかね?」 クレイカノン判事が言ったとき、「私です」 と言ったのはロジャーズだった。「9時にレコードをかけろと・・・てっきり音楽とばっかり思ってました」 ロジャーズもオーエンを知らない。手紙で指示されていたのだ。
「見知らぬ者と過ごすよう誘い出したばかりか、我々を探ろうとしている」 アームストロング医師が言った。「彼は異常者だ、すぐ島を出たほうがいい」 クレイカノン判事が続けると、「電話がないので通常、週に2便しか船は来ません。次の船は月曜日にしか来ません」 執事のロジャーズが答えた。今日は金曜日だ。
「島にボートは?」 「ありません」 
「何故、島を去ろうとする」 スターロフ王子が言う。「この謎を解こう、面白そうじゃないか、犯罪に乾杯しよう!」 スターロフ王子がピアノに置いてあったグラスのカクテルを飲んだ瞬間、苦しみだして倒れた。アームストロング医師が駆け寄った。「・・・死んでいる」 

自殺か他殺か?アームストロング医師がグラスの匂いをかぐ。「毒だ」 食卓のインディアン人形がひとつ無くなっていた。
先ほどのレコードの内容はどこで調べたものか、皆一様に否定はするもののそれぞれが身に覚えがあるのだった。どことなく不気味な空気が漂い始める。 

翌朝、食卓の人形が又ひとつ無くなっている。アームストロング医師が入ってきた。「ロジャーズ夫人が亡くなった。鼓動が止まっている。原因は分からない」
12時間のうちに二人が死んだ。オーエンがこの家の中にいるかもしれない。男達は家中を徹底的に調べた。誰も潜んでいる様子はない。次に島のあらゆる場所も調べたが隠れるような場所は無かった。

マンドレイク将軍が外で死んでいるのが見つかった。背中にナイフが刺さっている。明らかに殺人だ。
外は嵐になっていた。「オーエンはこの島にいると思う」 クインカノン判事が言った。「あり得ない」とブロア。ブロアは探偵家業なのだ。「透明人間ではあるまいに・・・」アームストロング医師が続ける。
「彼は我々の中にいるのだ」 判事が言った。お互いが顔を見る。自分が疑われていると知った執事のロジャーズは、「妻が死んだのですぞ」 と言いカクテルをむさぼるように飲みへべれけになる。
「私がいると心配でしょうから・・・納屋で寝ます」 ロジャーズは家を出て行く。

翌朝、ロジャーズは頭を斧で割られて死んでいた。人形は6つになっていた。
ミス・ブレントは朝の散歩といい海岸から海草を拾ってきた。そのブレントは部屋の中で死体となっていた。首に注射をされた跡がある。
「部屋に蜂がいたわ」 クレイソーンが興奮気味に言った。「殺人犯は悪戯好きだ。童謡に合わせて行動してる」 と、ロンバート。

5人になってしまった。おまけに電気が故障で電灯がつかない。食事の後、クレイソーンがコートを取りに2階の部屋へ行く。階下の者達はクレイソーンの悲鳴を聞き2階へ走った。
「誰かがいたのです」 クレイソーンは暗闇に倒れていたが怯えている。蝋燭に火をつけると部屋の中に海草がぶら下がっていた。ミス・ブレントが今朝海岸から拾ってきたものだ。クレイソーンはそれに触り人と勘違いしたに違いない。その時、階下から銃声が・・・

階下でクインカノン判事が椅子に座ったまま首をうな垂れている。「頭を撃ちぬかれている」 アームストロング医師が死体を見て言った。
探偵ブロアは時々考えに耽っていたが、邸宅を出て双眼鏡を覗き海辺を眺めているとき、「!謎が解けたぞ」 と叫んだ。その時邸宅の上からレンガの塊がブロアの頭上に落ちてきた。

クレイソーンとロンバートはアームストロング医師を探して邸宅の外に出てレンガに打ち砕かれたブロアの死体を発見した。
するとアームストロング医師がオーエンか?もはや残っているのは3人しかいない。

だが、海岸でそのアームストロングは死体となっていた。それも何時間も前に。引き潮の前に彼が死んだのは明白だった。アームストロングの死体の周りの砂浜に足跡が残っていない。近くに酒のボトルが転がっている。ではブロアは誰が殺したのか?残っているのはクレーソーンとロンバートの二人だけだ。どちらかがオーエンなのか?
クレイソーンがピストルを構えた。護身用にロンバートが与えたピストルだった。
「あなたのミスは私に拳銃を与えたことね」 「私はロンバートではない、チャールズ・モーリーだ。彼は自殺した。何か分かるかと思いここに来た」 「それを信じろと?」 「そうだ、我々のどちらかがオーエンだ。私ではない。君だったとはな」 「私ではないわ、あなたよ」「それなら撃つがいい」 クレイソーンが引金を引いた。

クレイソーンが邸宅に戻るとホール中央に首吊り用のロープがぶら下がっていた。食卓の人形はひとつになっている。その時、隣のビリヤード室から口笛が・・・あの童謡のメロディだ。
何と死んだ筈のクインカノン判事が現れた。「一人が残った。彼は首をつり、そして誰もいなくなった・・・これは君用のロープだ」
判事は椅子に座り解説し始める。「私には協力者が必要だった。私を心から信用してくれたアームストロング医師がそれだ。君の悲鳴を聞いて2階に駆け上がると見せて彼と私はすぐ戻った。私がピストルで撃たれ死んだ演出をするためだ。アームストロング医師が死んだと見立てれば皆信ずるだろう。・・・そして後で彼と海岸で待ち合わせたのだ。彼は適度の飲酒が体に悪いと分かっていたはずなのだがね・・・」 「私が首を吊ると?」 「9人死んだ。一人残れば嫌でも吊るされる運命さ。私は1年前に死の宣告を受けている、病気なのだ。徐々に苦しむより善行を土産にこの邪悪な世界を去ることにする」 判事はテーブルのグラスを呷った。

その時ロンバートが現れた。彼は死んではいなかったのだ。「・・・女は信用しないほうがいい・・・」 判事はそう言うと事切れた。グラスに毒を仕込んであったのだろう。
全てはクインカノン判事の仕組んだ罠だった。彼こそオーエンだったのである。
「何故私が死んだと?」 「どうしたの?」 「オーエンにも予見できなかったことさ」 二人は抱き合った。その時、クレイソーンは窓に人影を見て悲鳴を上げた。「まだ生きてる人がいるわ!」
ドアを開けると船長(ハリー・ザーストン)だった。「迎えに来ましたぜ、行きましょうか」 「行くとも」 ロンバートとクレイソーンは走り出した。
船長は怪訝な面持ちで言った。「ほかの方々は?」
映画館主から

アガサ・クリスティの最も知られた推理小説のひとつである原作を「巴里祭」(’32年)のフランスの名匠ルネ・クレールがアメリカに滞在しているときに映画化した傑作ミステリー。

イギリスのデボン州沖にある孤島の大邸宅に招かれた10人。だが招待した島の持ち主オーエン氏は一向に姿を現さない。やがて一人、二人と何者かに殺害されていき、残された者たちは互いに疑心暗鬼になっていく。そして最後の一人になった者は???
ラストに向かうにつれて意外な展開になり、意表をつくどんでん返しでエンドマーク。

ルネ・クレールは時にはスリリングに時にはユーモラスに我々をミステリーの世界に誘います。
黄金」(’48年)のウォルター・ヒューストン、「裸の町」(’48年)のバリー・フィッツジェラルド、「レベッカ」(’40年)のジュディス・アンダーソンなどのくせ者芸達者が繰り広げる迷宮劇にさ迷うのも快感なのでした。
殺人はあるものの残酷な殺しの場面は一切ありません。

アガサ・クリスティのミステリーは多く映画化されていますが、中でも本作は「情婦」(’57年、監督:ビリー・ワイルダー、主演:タイロン・パワー/マレーネ・ディートリッヒ/チャールズ・ロートン)と並んで好きな作品です。
’74年にも再映画化(監督:ピーター・コリンソン、主演:オリバー・リード)されていますが、これも良く出来ていました。

私は30年ほど前、神田神保町の岩波ホールで鑑賞しました。なかなかテレビ放映される機会がありませんが、今ではDVDが500円で買える便利な時代です。
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