「デストラップ/死の罠」
デストラップ/死の罠
  1982・米
デストラップ/死の罠

監督:シドニー・ルメット
原作:アイラ・レビン
脚本:ジェイ・ブレッソン・アレン
撮影:アンジェイ・バートコウィアク
音楽:ジョニー・マンデル

出演:マイケル・ケイン
    クリストファー・リーブ
    ダイアン・キャノン
    アイリーン・ワース
    ヘンリー・ジョーンズ

クリストファー・リーブの首を締めるマイケル・ケイン

惨劇は終わったのか?

ダイアン・キャノン

アイリーン・ワース

デストラップ/死の罠
物語

劇作家シドニー・ブリュール(マイケル・ケイン)はかっては売れっ子の作家だったが最近の彼の作品はマンネリ気味で観客の評価も冴えない。今、上演している『殺しはフェア』も反応は冷たかった。

家に帰ったシドニーは妻のマイラ(ダイアン・キャノン)に愚痴る。
「4作品失敗続きで今度のが最悪だ。こうなったら自殺でもするしかないか」
「いけないわ、貴方は偉大な劇作家よ」 マイラは夫をなだめる。
「もうひとつ、プライドを傷つけられた。これが今夜届いたんだ」 シドニーが手にしているのは、去年シドニーの講義を聞いた学生クリフォード・アンダーソン(クリストファー・リーブ)が書いた二幕もののスリラーで、タイトルは『死の罠』だという。
「意外な結末、軽妙な会話。適度に笑わせヒット間違いない」 シドニーはこの若者の才能に激しい嫉妬感を覚えるのだった。
「その人の脚本、そんなに良く出来てるの?」
「たいしたもんだ、けちのつけようが無い」 シドニーはベッドルームにマイラが吸った灰皿があるのを見て注意する。「心臓病は注意してれば大丈夫なんだ。俺の留守に煙草なんか吸うな」 マイラは心臓が悪いのだ。

「名案を思いついたぞ」 シドニーが言った。「奴をぶっ殺して大きな穴に埋めてから、俺の名でこの作品を発表する。久しぶりの名案だぞ」 シドニーは冗談とも本気とも取れる顔で言った。
「昨夜考えたのよ、貴方が興行をやったらどう?」 「たとえ人殺しをしたって興行なんかやれるか!」 「共同作業はどう?」 「共同脚本で収入は山分けか?俺の名がさきだぞ」 「それは当然だわ、貴方は『殺人ゲーム』の作者よ、ブロードウェイでの記録は破られないわ。・・・彼に電話してよ」 「殺すのは嫌か?」 「嫌よ。ヘルガがすぐ血を嗅ぎ付けるわ」 ヘルガとは近くに住む霊媒師の婆さんのことだ。
かくしてシドニーはクリフォード・アンダーソンに電話を入れた。

クリフォード(クリストファー・リーブ)は長身の二枚目でブーツを履いていた。シドニーの家に招かれ、部屋の壁に飾られた銃や斧のコレクションを楽しそうに眺める。
クリフォードが持ってきた原稿はシドニーのところに送ってきたもののオリジナルでコピーはとってないという。シドニーは他の誰にもこの原稿のことを言ってないことを確認した。今夜ここに来ることを誰も知らないことも・・・。

シドニーは自分の次回作はフーディーニだと言い、壁から手錠を外した。「これは彼の自作の品だよ、素晴らしい細工だ」 「すごく頑丈そうですね」 「してごらん、1300ドルもした」 シドニーはクリフォードを椅子に座らせ手錠を嵌める。
「外し方を教えよう。手首を廻して一度強く引くんだ」 クリフォードが何度かやってみるがうまくいかない。
「フーディーニは水中で外したぞ」 シドニーはいきなりクリフォードの背後からロープで首を絞めた。マイラが悲鳴をあげ、クリフォードがもがき苦しむ。床の上でクリフォードが息絶えた。

「巧くいったぞ。君の心臓も持ちこたえたね。リビエラで静養するさ。劇がおわってから」 シドニーが言う。「監獄行きだわ」 「この男のことは誰も知らない。死体を運ぶから手伝ってくれ」 

「貴方のことが分からないわ」 一段落してもまだショックを受けているマイラは別れ話を持ち出した。「今の僕は僕じゃない。入った金の半分は教会に寄付するよ」
その時、“ピンポーン”と玄関のベルの音。「私よ、入ってもいい?」 近所に住む霊媒師のヘルガ・テン・ドープ(アイリーン・ワース)だった。
トレーニング用の服装に赤い野球帽。ヘルガは家に入ってきた途端、「痛い!痛みを感ずるわ」と言い出した。「痛い!痛い!」 シドニーのコレクションを見て、「危ないものばかりね」 「劇に使った小道具ですよ」 「このコレクション、全部片付けたほうが良いわ』「ええ、1ヵ月後には売り払いますよ」 「遅すぎるわ、嫌なこと言って悪いけど、命が危ないわ。ふたりともよ。死臭がするの。死の罠、死の罠という言葉よ」 「それは私の新作のタイトルです」 「その中で人が死ぬのよ。ブーツを履いた若い男があなたに襲い掛かる・・・」

ヘルガが去った後、二人はヘルガの霊感の鋭さにおののいていた。
「窓を開けてくれ、薬は?」 とシドニーがマイラに言った。「いいの。ブランデーの方が良いわ。貴方も飲む?」 「飲むよ」 
ブランデーを飲む二人。「私・・・・本当のことを言うと、貴方が殺すのを願っていたのよ、凄く怖かったけど」 「君は止めようと必死だった。いいかい、もしもばれたとしてもこれは僕が一人でやったことだ、何も心配はいらない、僕を信じるんだ」 「信じるわ」

「窓を開けてくれ」 マイラが窓を開けたその時だ。凄まじい勢いで泥だらけの男が入ってきた。死んだ筈のクリフォードだった。
シドニーを棍棒で殴り倒しマイラにも襲い掛かった。恐怖に戦き居間に逃げたマイラは胸を押さえて倒れた。持病の心臓発作が起きたのだ。マイラは息絶えていた。その顔を覗き込むクリフォードの脇にシドニーが立っていた。
「巧くいったね」 とクリフォード。「あれだけ脅せば心臓麻痺を起こす。しかし、発泡スチロールの棒は痛かったぞ、リハーサルの時よりもな」 二人は軽くキスを交わす。

マイラの葬儀が終わりシドニーの家ではクリフォードがタイプを打ち、その前にシドニーが座っている。
シドニーがクリフォードの原稿を見たいのだがクリフォードは、「完成まで待ってよ、まとめて見せるから」 と請合わない。
弁護士のポーター・ミルグリーム(ヘンリー・ジョーンズ)が訪れた。秘書のクリフォードは「どうぞ、ごゆっくり」といい、買い物に出かけた。「感じのいい青年だ、顔もいい」 「ホモだろうか?疑わしいところがある。まあちゃんと仕事さえしてくれれば何でもいいがね」
弁護士はマイラの遺産を計算してきたのだ。それによるとシドニーは1000万ドルを相続するのだという。
弁護士はさらに変なことを言った。「彼にアイデアを盗まれるなよ」 弁護士はクリフォードが出かけるとき机に鍵を掛けるのを見たのだ。

シドニーはクリフォードの原稿を探し出した。それはマイラ殺しを彷彿させる内容だった。
「こんなものを発表したら、成功どころか終身刑だぞ!」 シドニーはクリフォードを叱り付ける。
「でもあの晩思ったんだ。これは素晴らしいスリラーになるって、言えば反対されると思った」 「呆れて足がすくんでるよ!」 「マイラのことは何も証拠が無いんだ」
クリフォードはあくまで『死の罠』を完成したいと言い張った。

シドニーはクリフォードにピストルを突きつけた。「お別れだ、夕べ実弾をつめた。あの劇は発表されたくない。それを思いとどまらせるにはこれしかない」 しかし、弾は発射されなかった。
「気の毒だが抜いてある。こっちの銃に詰め替えた」 クリフォードが別の銃を構えた。
「どんでん返しだよ。それが必要だと講義してくれたよね」 「悪党め!」 「意外な話をしようか、殺さないよ。劇が当たればいい。義理人情も知ってるよ」 
クリフォードは壁の手錠を外してシドニーに掛ける。その時、外は凄まじい雷の音。「凄い効果だな。さようなら、勉強になったよ」 荷物をまとめに二階へ上がった。シドニーは手錠を難なく外し壁のボーガンを手にした。                    

二階から降りてきたクリフォードの背中をボーガンで撃った。倒れるクリフォード。その手に斧を持たせるシドニー。正当防衛の演出だ。外の雷鳴はいっそう激しくなり停電になった。
「マッチはどこだ」 シドニーが叫ぶ。「蝋燭もあるわよ」 いつの間にかヘルガが立っている。「貴方が危ないと思っていたら元凶は貴方だったのね」 机の中のナイフを取ろうとするシドニーの姿が雷光の中に浮かび上がる。
「私を殺すつもり?この銃で撃ちたくは無いけど」 ヘルガが銃を構える。「小道具だ、弾は入ってない」 「引金を引けば分かるわね。もしほんとに弾が入ってなければ飛び掛ればいいわ」 
その時、まだ息があるクリフォードがヘルガの足首を掴む。倒れるヘルガ。ヘルガの銃が床に転がる。
「銃を落としたな、ヘルガ」 シドニーとヘルガが銃を探しあう。その時、クリフォードが最後の力を振り絞りシドニーに斧を打ち下ろした。

次の瞬間、場面は劇場の舞台である。クリフォードとシドニーをモデルにした二人の男達が斧とナイフでもつれ合う。ヘルガをモデルにした老婆が「インガは無事だったわ!」と叫ぶ。
観客たちは一斉に拍手を送る。その様子を見ているヘルガと弁護士のポーター・ミルグリーム。
「凄い大ヒットだよ。おかげで私もひと財産できる」 「お互いにね」 二人は抱き合う。
劇場の外にある看板には「『死の罠』ヘルガ・テン・ドープ作」と書かれてあった。   
映画館主から

社会派の巨匠シドニー・ルメット監督によるサスペンスの傑作です。
二転三転する度肝を抜くどんでん返し。ラストのラストでまたも奇想天外の結末が待っています。

これはこの手の愛好家にはかなりの快感をもたらすことは請け合いです。
主演のマイケル・ケインは「探偵/スルース」(’72年、監督:ジョゼフ・L・マンキーウィッツ)でローレンス・オリビエを相手に堂々と渡り合った演技派。「探偵/スルース」も本作同様舞台劇の映画化でした。これもまたどんでん返しの傑作サスペンスでした。

マイケル・ケインの相手はスーパーマン俳優のクリストファー・リーブです。真に迫った結構な演技です。彼は1995年に乗馬競争で落馬、脊髄損傷を起こし半身不随になりました。リハビリのかたわら数本のテレビ出演などをしましたが2006年、心不全のため亡くなりました。享年52歳でした。

アンリ・ジョルジュ・クルーゾーの「悪魔のような女」 (’55年、主演:シモーヌ・シニョレ)と見比べてみるのも一興かと思います。かなりの部分でよく似た設定になっています。

原作者のアイラ・レビンは「ローズマリーの赤ちゃん」(’68年)、「ブラジルから来た少年」(’78年)の原作者でもあります。

監督のシドニー・ルメットはテレビ界の出身で、映画初監督作品「十二人の怒れる男」(’57年)は社会派の名を広く知らしめましたが、本作のような娯楽性の強い作品も多く手がけています。

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