「三十九夜」
三十九夜
   1935・英
三十九夜

監督:アルフレッド・ヒッチコック
原作:ジョン・バカン
脚本:チャールズ・ベネット
    アルマ・レビル
    イアン・ヘイ
撮影:バーナード・ノウルズ

出演:ロバート・ドーナット
    マデリーン・キャロル
    ルーシー・マンハイム
    ゴッドフリー・ティアール
    ウィリー・ワトスン


スパイ団の本拠地を記した地図

ロバート・ドーナットが列車から逃げる

スパイ団の館

小指のない男

政治演説集会

逃げる二人

マデリーン・キャロルと手錠で繋がれる

パラデューム劇場

パラデューム劇場の二人

三十九夜

三十九夜
物語

カナダから休暇を利用してロンドンにやってきたリチャード・ハネイ(ロバート・ドーナット)は、ある夜小さなミュージック・ホールに入った。
舞台ではミスタ・メモリー(ウィリー・ワトスン)と称する記憶力の達人が客席からの様々な質問に回答して喝采を浴びていた。
その時、守衛と観客の間で小競り合いが起き、2発の銃声が鳴り響いた。
騒然となる場内。出口に向かったハネイの脇にいつの間にか女が付きまとっている。助けを求められた。
 
ハネイはそのドイツ女を借りているアパートへ連れて行った。部屋に入ると女は「明かりをつけないで」と言う。
外を窺がうと路上に二人の男が立っている。後を付けられたに違いない。
カーテンを閉める。女はスミス・アナベラ(ルーシー・マンハイム)と名乗り国際スパイであることを打ち明けた。彼女によるとイギリスの空軍関係の国防についての極秘事項を某国に売ろうとしているスパイ団を追跡しミュージック・ホールまで追い詰めたが、相手に気づかれたので彼らの攻撃をかわすためピストルを発射して混乱に紛れて逃げたのだと言う。
 
首謀者はスコットランドの高原に邸宅を構える小指の無い男だと言う。彼女はすぐにもそこに行きたいと言ったが、ハネイは夜も遅いので今夜は泊まって明日にしたらと提案した。
隣室でうとうとしていたハネイの元に女がよろよろと入ってきた。見ると背中にナイフが突き立っていた。
スミス・アナベラは「代わりにスコットランドへ行って・・・39階段のある別荘・・・」 と謎の言葉を残して息絶えた。アナベラの手に地図らしきものがあった。
 
翌朝、ハネイは外で見張っている男たちをかわしてアパートを出、スコットランド行きの列車に乗り込んだ。
向かいに座っている男が買った新聞にハネイの顔写真が載りアパートでの女殺しが報じられている。
ハネイに嫌疑がかかるのは明白だった。しかも、彼はアナベラに代わってスパイ団からも追われることになるのだ。こうなったら彼女の言っていた首謀者を捕まえ身の潔白を証明するしか方法はない。
 
捜査の手は列車内にも伸びてきた。ハネイは通路からとっさに個室に入る。そこにいた女(マデリーン・キャロル)にすかさずキスをした。「お楽しみだな」 捜査員が中を見て通り過ぎた。
しかし、事情を知らない彼女は警笛を鳴らす。ハネイは捜査員が駆けつけたとき窓から列車の外を伝い逃げる。運よく鉄橋の上で列車が止まったのを利用し鉄橋の支柱の陰にしがみ付きからくも逮捕を免れたのだった。

そこはもうスコットランドのハイランドだった。ハネイは一軒の農家を見つけ、泊めてくれるように頼んだ。小作人夫婦は、ハネイを殺人事件で追われている犯人と気づいたが、若い妻は特に同情的だ。
夜になり、捜査はこの農家にも及んだ。若い妻の手助けで車を調達してもらい警官から逃れた。
 
しかし、警察の追跡は執拗で山狩りが始まった。ハネイは追われるようにジョーダン教授(ゴッドフリー・ティアール)の邸宅へ駆け込んだのである。
ハネイはジョーダンの手を見て驚く。その右手の小指は欠けていた。スミス・アナベラの言っていた小指の無い男がここにいる。
スパイ団の首謀者。だが、教授はハネイの追及にも動じない。彼は付近の信頼も厚く、スパイと言っても誰も信じないという確信を持っていた。
教授がハネイを撃った。ハネイが倒れる。警察がやってきてハネイは捕らえられた。だが弾は小作人農家の借りたコートに入っていた聖書に当たり弾が聖書の途中で止まっていたのである。
 
ハネイは窓を破り警察を脱出した。ちょうど市内を行進していた救世軍のブラスバンドに紛れ、路地を伝って逃げる。
とあるドアを開けて中に入ると、そこは公会堂で折りしも正治演説は行われている最中だった。
ハネイは主賓と間違われ壇上に上げられる。そこへ遅れて入ってきたのは、夫人記者で列車にいたパメラという女だった。
客席には警官らしき姿も見える。ハネイはでまかせの演説をぶち上げていたが打ち切って逃げようとした。
刑事二人はハネイを捕らえ、証人としてパメラも車に乗せた。
車が警察の前を通過していく。刑事はジョーダン教授の手下だったのだ。
 
霧の深い夜、車が羊の群れで立ち往生した。
偽刑事たちはハネイとパメラの手を手錠でつなぎ羊を追い始めた。その隙に二人は車を脱出、滝の裏側に潜んで追っ手をまいた。
二人は寂れた宿に泊まることにした。手錠を見られないようにし、夫婦を装が、パメラは宿の主人にハネイを突き出そうと躍起だ。
ハネイはポケットから拳銃をパメラに突きつけ制した。恋人同士でもないのに手錠につながれたまま一つのベッドに入る。
夜半、パメラは起きだし、手を細めて手錠から手を抜く。廊下へ出ると、下から声が聞こえる。昨夜の偽刑事たちが主人と話し、電話でなにやら報告している。
それを聞いたパメラはハネイの疑惑を解いた。刑事たちは主人に尋問していたが、二人を新婚と思い込んでいる宿の女将は刑事たちを追い払った。
 
パメラはハネイが愛おしくなる。翌朝、パメラはハネイに昨夜のことを話し、急いでロンドンへ向かった。
ロンドン警視庁へ出向いたパメラはジョーダン教授がスパイ団のボスで国家機密を国外に持ち出すつもりだと訴えた。警察は各署に連絡して機密情報が紛失していないか確かめた。
「確かに航空省には最新鋭の技術があります。しかし、紛失した書類は1枚もありません」 機密情報はなくなっていない。
だが、ハネイの居所はしゃべらなかった。警察を出たパメラは警察に尾行されていた。
行った先は昨夜偽刑事たちが電話で話していたパラデューム劇場だった。ハネイも来ている。
2階席にはジョーダン教授もいた。舞台では記憶力抜群のミスター・メモリーが客席からの質問に答えている。パメラがハネイに警察でのことを告げた。機密情報はなくなっていない?その時、はたとハネイは思い当たった!ミスター・メモリー!!書類ではなく、ミスター・メモリーの頭の中に記憶させて国外に連れ出す気だ!
 
警察に連行されそうになったハネイは突如、「“39階段”とはなにか?」と質問した。ミスター・メモリーは即座に答える。「それはあるスパイ団の名で某国の秘密を・・・・」 瞬間!一発の銃声。
ミスター・メモリーが倒れる。ジョーダン教授が撃ったのだ。2階から飛び降りた教授はたちまち捕らえられた。
ミスター・メモリーは虫の息で、教授からこの国の国防の秘密を暗記させられ、今夜外国へ連れ出されることになっていたと語った。
「全部話せ!」ハネイが促すと、「新型エンジンの特徴は圧縮比の増加・・・数式はR分のR−1のr乗・・・」 、ミスター・メモリーは暗記している機密をとうとうと述べる。そして、「・・・頭から秘密が抜けていって嬉しい・・・」 ミスター・メモリーが息絶えた。
映画館主から
 
アルフレッド・ヒッチコック監督のイギリス時代の代表作の一本。
ジョン・バカンの著名なスパイ小説「三十九階段」の映画化で、「三十九夜」という日本タイトルは“階段”では妙味がないとしてつけたそうです。
 
スパイ団と警察の双方から追われるという、その後のヒッチコックの好むストーリー展開、次から次へとめまぐるしいスピーディなテンポ。
映画的なアイデアは横溢し、アメリカで後年完成の域に達した「北北西に進路を取れ」(1959年、主演:ケイリー・グラント)の要素は既に本作に揃っているのです。
背中にナイフが刺さって関係者が突然死ぬのは「知りすぎていた男」(’1956年、主演:ジェームズ・スチュワート)、「北北西に進路を取れ」(’1959年)でも出てきますし、「ダイヤルMを廻せ!」(’1954年、主演:レイ・ミランド、グレイス・ケリー)ではナイフではなく“鋏み”ですが類似と言えます。
 
主人公がいきなり撃たれるショッキングなシーンは、「北北西・・・」にもあります。
 
“列車”を使ったサスペンスは、「バルカン超特急」、「疑惑の影」、「見知らぬ乗客」、「北北西に進路を取れ」でも見られました。
 
“劇場”を舞台にしたサスペンスは、「舞台恐怖症」(’1950年)、「知りすぎていた男」、「引き裂かれたカーテン」(’1966年)でも効果的でした。
 
つまり、本作は後年の多くの作品の場面を先取りしているのです。
 
主役はロバート・ドーナット。「幽霊西へ行く」(’1935年、監督:ルネ・クレール)、「鎧なき騎士」(’1937年、監督:ジャック・フェーデ)などの英国のハンサム・スターです。
相手役に「間諜最後の日」(’1935年、監督:アルフレッド・ヒッチコック)のマデリーン・キャロル。
 列車内での男と女の出会い。疑惑。列車からの脱出。やがて恋に発展する二人。拳銃で撃たれるが死んでいない。
まさに「北北西・・・」にそっくりともいえます。
 
本作の極めつけのアイデアは、膨大な秘密をミスター・メモリーという“記憶力抜群男”の頭の中に全てのデータを叩き込み国外に持ち出そうというものでした。
これでは何処を探しても書類の類がないのは当然です。

私はテレビ放映でしか見られませんでしたが、今は500円の旧作DVDが販売されていますので気楽に見ることができます。良い時代になりました。

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