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戦国の風雲児〜織田信長一代記〜第13号2003年12月4日発行
「第13話 林通勝の謀反」
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「ハイヤッ!」
「お、お館様、お待ちください!」
「ハイヤッ、ハイ!」
「お待ちを…、うわっ!」
ドゥ
「何だ、山田、情けない奴だ。これしきの遠出で馬を乗りつぶしてしまうとは!
わしのように普段から乗っておればかようなことは起きぬものを」
「…面目ございませぬ」
信長は朝夕馬攻めしていたので、荒く乗っても馬もそれに耐えることができた。
しかし、他の人々は馬を飼い殺しにしていて、乗ることがまれだったので、屈
強の名馬でも三里もいかずに、すぐに荒い息を吐き、倒れる馬も出てしまった。
…………………………
「お館様」
「何だ、右衛門尉」
「守山の件ですが…」
「何か意見があるのか?」
「弟君、安房守殿を城主にされてはいかがでしょうか?」
「うむ、右衛門尉に任せる」
「ははっ」
………………………………
「右衛門尉、ありがとうございました」
「何、お館様もわしの頼みならば断れまいて」
「これは少ないですが…」
「ふふふ、すまんな」
「これで私どもも安泰です」
「そうだな、しかも、わしは安房守様にも感謝され、領地も賜り一挙両得だな」
「誠そのようで」
実は、右衛門尉は、守山城の角田、坂井両家老から頼まれて、両家老が操りや
すい安房守を城主にと信長に進言したのである。
……………………………
「兄上、すでにご存知だと思いますが、よからぬうわさがございます」
「何だ、安房守」
「以前から反抗的な林兄弟と、柴田権六が結託し、勘十郎兄を兄上に代わって
守り立てようと、謀反を企んでいるとのこと」
「ふん、佐渡と権六で何ができるというのだ」
「とはいえ、万が一ということも…」
「お前は本当に心配性だな。よし、ならこの目で確かめてみようぞ」
「何をでしょうか?」
「今から佐渡の屋敷に行くぞ」
「えっ、それはあまりにも危険かと思いますが…」
「何、あやつは何もできないだろうよ」
弘治2年(1556年)5月26日。
信長と安房守は、二人だけで、清洲から林兄弟のいる那古野の屋敷に赴いた。
「兄上!」
「何だ、美作」
「信長が清洲からやって来たぞ」
「何? 何用だ」
「分からん、突然、安房守と一緒にやってきたのだが…」
「ふうむ、我らの企みがバレたのだろうか?」
「だとしたら、尚更自ら単身で訪ねるわけがなかろうが」
「それもそうだな、ではなぜ突然清洲から来たのか」
「そんなことはどうだっていいだろう、兄上、これはチャンスではないか」
「何?」
「今、屋敷には信長と安房守しかいない」
「…」
「信長を今ここで殺してしまおう」
「…」
「どうしたのだ、兄上。勘十郎様に織田家を継いでもらったほうがいいと、い
つも話していたではないか」
「…」
「権六殿も同じ考えだ。さぁ、信長に腹を切らせよう」
「…だめだ」
「なぜだ、兄上」
「三代相恩の主君をここで討つ訳にはいかない」
「いまさら何をいっておる」
「そのようなことをすれば天道の怒りも恐ろしい…」
「臆したか、兄上!」
「今日のところは、決心することがわしにはできない。無事にお返し申そう」
「くっ、きっと後悔することになるぞ」
………………………………
「確かに何ともなかったですね」
「佐渡にそんな勇気などあるまい。ただ…」
「ただ…?」
「奴も今回のことで覚悟を固めただろう。次回はさすがに危ないだろうな」
「ということは?」
「あぁ、佐渡の謀反は間違いないだろう、お前も気をつけるのだぞ」
「…かしこまりました」
………………………………
一両日後。
「お館様! 一大事です」
「何だ」
「林兄弟が謀反を起こしました!」
「そうか」
「さらに、前田の荒子城も一味に加わりました!」
「これで、清洲と熱田が分断されることになるな」
「何を悠長なことをおっしゃいますか! 米野と大脇の城も林方に加担し、那
古野との連絡もままなりませんぞ」
<参考文献>
ニュートンプレス:信長公記(太田牛一:原著 榊原潤:訳)
角川ソフィア文庫:信長公記(奥野高広、岩沢愿彦 校注)
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*このページは信長公記との違いや、さらに詳細な説明が書かれています。
お時間に余裕がございましたら、ご覧ください。