第21話 桶狭間の合戦4〜戦いの後で〜

 「まさか、義元を討ち取れるとはな」

 「あぁ、さすがお館様だ」

 「本当だな。そう思うと今川に寝返った山口が愚かに思えてくるな」

 「左馬助と九郎親子のことか」

 「あの二人は信秀様に長年目をかけてもらって鳴海の城を任されていたのにも
  かかわらず、信秀様が亡くなられると、すぐに恩義を忘れて鳴海に今川方を
  引き入れ、今川方に属したのだったな」

 「そのために知多郡が今川方に属してしまった」

 「あぁ、その上あろうことか、愛知郡に侵攻し、笠寺という地に要害を構え、
  家臣を置き、義元に忠節を励んだのにもかかわらず…」

 「確か、駿河に呼ばれてほうびもなく、情け容赦なく自害を命じられたのだっ
  たな」

 「全く愚かな男だ」

 「そして、義元自身が4万5千の兵を率いて今回鳴海にやって来た訳だ」

 「しかし、その大軍も役に立たず、わずか2千のお館様に討たれて死んでしま
  った」

 「これもすべて因果応報というものよ」
 
 ………………………………………

 「義元様、討ち死に!」

 「なんと! 誠か!」

 「はい、確かでございます。みな逃げ惑うばかりです」

 「なんということだ。お館様!」

 「新右衛門様、我々も一刻も早く逃げましょう!」

 「お前たちだけでも逃げろ。わしは戻る!」

 「何を仰せになられます。我々は負けたのですぞ」

 「されども、『命は義によって軽し』という言葉を知らんのか。この山田、お館
  様にどれほど目をかけていただいたことか。それを思うと…」

 「…分かりました。我々もお供いたします!」

 「すまぬ、それではお館様の元に!」

 「おぉ!」

 こうして主人、今川義元の死を聞いた山田新右衛門は馬を返して戦い死んだ。

 ………………………………………………
 
 「お館様、二俣の城の松井宗信、一族郎党200、城を枕に全員討ち死にいたし
  ました!」

 「義元に殉じたか。今川にも忠義の武士がいるものよ」

 「また、熱田の港に今川勢の船千艘が町に火を放とうとしましたが、町の者
  が撃退したとのこと」

 「そうか」

 上総介信長は、馬の先に今川義元の首をつり下げて清洲への道を急いでいた。
 まだ、日のあるうちに帰陣した。

 翌日。
 首実検が行われた。
 首の数は三千余りあったという。

 「お館様、義元がさしていたむち・ゆがけ(弓を射るときにつける皮手袋)を
  所持していた義元の同胞(法体の取次ぎ役)で、下方九郎左衛門という男を
  生け捕りました」

 「そうか、それは近ごろ名誉な手柄である。これをさずけよう」

 「ありがとうございます!」

 「うむ、それではすぐにその同胞をここへつれて来い」

 「かしこまりました」

 ………………………………………………

 「そなたが下方か」

 「左様でございます」

 「義元の最期前後の様子を話してくれ」

 「はい…」

 そうして下方は義元の死の前後の様子を信長に物語った。

 「…以上でございます」

 「なるほど。それでは、そなたは今から見知っている者の首に名字を書き付け
  ていってくれ」

 「…かしこまりました」

 「そして、これを授けよう」

 そういって信長は下方にのし付きの太刀と脇差を渡した。

 「ありがとうございます」

 「それと、これをお返しいたそう」

 「あっ!」

 みると、主人義元の首が箱の中に丁重に納められていた。

 「駿河に持ち帰り供養なさるがよい」

 「かたじけのうございます」

 それから信長は、清洲から熱田に通じる街道に義元塚を築き、供養のために千
 部経を読ませ、大きな卒塔婆を立てて置かせた。

 「お館様、こちらが例のものでございます」

 「うむ、これが左文字の刀か」

 「左様でございます」

 「義元の秘蔵の名刀だというが、どれほどの切れ味かさっそく試してみよう」

 信長は何度も試し斬りをし、ふだんこの刀を差すようになった。
 そして、鳴海の城には岡部五郎兵衛が立てこもっていたが、降参したので、一
 命は助け、城を受け取った。

 こうして、桶狭間の合戦は終わり、鳴海の城を奪い返し、信長は尾張の支配を
 さらに固めることができた。

 <参考文献>
 ニュートンプレス:信長公記(太田牛一:原著 榊原潤:訳)
 角川ソフィア文庫:信長公記(奥野高広、岩沢愿彦 校注)
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 【キリのコメント21】 

 *このページは信長公記との違いや、さらに詳細な説明が書かれています。
  お時間に余裕がございましたら、ご覧ください。

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